靴屋さん
「ふふ。本当に今日ここにきて良かった。こんな楽しいことが次々起こるなんて」
表情は大げさに出てないけど、犬澤君の『笑ってる気配』がスゴく出てる。なんかビリビリ伝わってくる感じ。
「なぁにがそんなに嬉しいんだか。修仁ってやっぱり変わってるんだ」
「舞貴ちゃん……」
諏訪内さんに、御小波さんが困ってる……。
「オレもそう思うよ。そうとうヘンだね」
ニコニコしながら犬澤君が答えると、逆に諏訪内さんが赤くなった。
「修仁くん。話している間に失礼して祭神を調べさせてもらったが、手力男の命だ。ほかにそれらしい神名を示すものはなかったよ」
白い手袋とマスク外しながら、祝鎮さんは残念そうな顔してあたしたちのとこにくる。
「そうですか。本多さん、ココでなにか感じることはない?」
「……あたし? うん。べつに変わったことは……」
そういいかけた時……なに、コレ?
急に心臓がドキドキ鳴りはじめたけど……。
「え? あれ……」
どんどん早くなってく。おさまんない。
《……モドッテキテ》
どこからか声が聞こえてきた。
「ど、どうなって……?」
胸押さえてしゃがみ込んでた。
《……ハヤク、モドッテキテ》
声が繰り返す。
「どうした! 佳那ちゃん」
「本多さん!」
「かなぼ〜!」
みんながあたしのぞき込んでるけど……。
「感応してる? 離れないと!」
犬澤君が祠にペコッと頭下げて、空中に指でなんか書くとピシッって音がした。
それから振り返ると同時に抱き上げられて……夢で見る霧と違って頭の中がまっ白に……気がつくと、列石のあった公園の入り口まで運ばれてた。
「どう? まだ続いてる?」
スゴく心配そうな顔で、あたしの顔のぞき込んでる。
「あ、うん。もう大丈夫……みたい」
もうあの声も聞こえない。それより違うことでドキドキしてる。
「本当に? ムリしてない?」
「うん……ほんと。もうおさまった」
あたしの返事にやっと安心して、そっと降ろしてくれた。
「ゴメン。こんなに影響が出るとは思わなかったんだ」
これまで見たことない、申しわけないって顔で犬澤君が謝る。
「大丈夫。まだそんなに苦しくなかったし、ちょっとびっくりしただけだから」
「おい! 佳那。大丈夫か?」
天凪君と磐拝君がやってきた。その後にちょっと離れてちい。かなり離れて諏訪内さん御小波さんと祝鎮さんが走ってくる。神流原さんはまだずっと向こうにいる。
「うん……もう大丈夫」
「そうか……おーい! 大丈夫だってよ〜!」
大声で後ろのコたちに振り返って伝えると、みんな聞こえたらしく、走るのやめて歩き出す。
神流原さんはみんなが歩き出したの見て歩き出した……って、ちいがそれでも走ってくる。
「か〜な〜ぼ〜!」
ザァッと砂煙上げながら止った。
「ほんとにダイジョブなの? あんた」
「ほ、ほんとにほんと。もう大丈夫……」
「ったく〜。心配かけるんだからぁ、このコは!」
「ゴ、ゴメン。ちい」
「田中さん、オレが悪いんだ。感応してるって解かっててムリにきてもらったんだから」
「そう! 犬澤くんも悪い。お詫びにかなぼ〜のこと、しっかり面倒見るのよ!」
ビシッと顔指さした……め、面倒って。
「うん。そうするよ」
……ど、どんな面倒なんだろう。
「じゃあ、鈴乃連れてくるぜ」
天凪くんがものスゴイスピードで走ってく。
「ヒャー! さっきも思ったけど、天凪くんてやっぱり足早いわ…」
ちいが感心してる。ほんとスゴイ。みるみる姿が小さくなってく。だんだんみんな集まってきた。
「ねぇねぇ! ひとつてがとんでもないの知ってたけどさぁ、修仁もあんなにとんでもないなんて思わなかったわ」
諏訪内さんはくるなり犬澤君に驚いてる。
「そうだ。犬澤くんが、かなぼ〜抱いたまま岸まで跳んだのはビックリしたわ。気分どうだった?」
え? あたし抱いて岸まで跳んだ?
「あたし……よくわかんない」
気がついたら、もうココまできてたから。
「2歩よ2歩! 祠の前から岸まで! 信じられない。それに、走っている時だってまるで飛んでるみたいだったし。それに祠に向かって指でなにかアヤシイことしたの、なにあれ?」
興奮しながら、大げさな手振りつけて諏訪内さんが説明しながら尋ねる。
「うん。アヤシイことだよ」
犬澤君は、涼しい顔でそれだけしか答えてくれなかった。
「おう、お待たせ」
神流原さん背負って天凪君が戻ってくる。
「犬澤君、ココまで戻ったことだし、岩の調査は今度にして、これから磐拝君の道場に案内してもらおうか」
「そうですね。感応したってことは、確実になにかあるってことの証明にもなりましたから」
みんなが歩きはじめる。犬澤君はあたしのほう見ながらまた申しわけなさそうな顔。
「どこか途中に靴屋でもあったら寄ってくれ。鈴乃の靴、まだ乾いてねぇんだ」
「い、いいよ。そんなの……歩いてるうちに乾いてくるから」
神流原さんは片方の靴下脱いで、靴は歩くたびにズクズクいってる。うん、これはたしかに気持ち悪い。
「駅前の商店街、駅に向かって左側の5軒目にあったよ」
「おう、そうか。通り道じゃねぇか。修仁このあたり詳しいのか?」
「きたのは今日が初めてだけど、通りがかりに見ておいたんだよ」
左から5軒目なんて、通りがかった時はずっと祝鎮さんと話してたと思うけど……まさか通っただけでお店全部覚えたのかな? 聞かないことにしよう。
駅前に着くと……犬澤君のいった通り、その場所にちゃんと靴屋さんあった。




