流派
「みんな、滑りそうだから気をつけろ」
先頭の祝鎮さんが注意してくれる。
「鈴乃、ムリそうだったら待ってるか?」
「う、うん……がんばってみる」
心配しながら尋ねる天凪君に不安そうな神流原さんが答えてるけど…なんだろう? そんなに決心しないといけないようには思えないけど。
神流原さんは見るからにコワゴワな足取りで飛び石渡る。前後挟んでる天凪君と磐拝君も心配しながら見てる。5つ目の石のとこで神流原さんが足踏み外した。滑ったとか、よろけたとかなら前後の2人にもどうにかできたかもしれないけど、スーッと出した足が、そのままザブンと、スローモーション見てるみたいに海にはまった。
「あ……」
幸い周りに石もなく、深さ20センチくらいのとこだったから、靴の中にお水入っただけですんだみたいだけど。
「まったく。だからやめるかって聞いたのに」
苦笑しながら、天凪君は素早く彼女のからだ支えて海から引き上げた。
「それに落ちたあとじゃなくて前に声出せ。それならなんとかなるって、いつもいってるだろ」
「ゴメン……仁狼ちゃん」
「おーい。大丈夫か?」
先に進んでたみんなが心配して振り返ってる。
「足がはまっただけだから、大丈夫だ」
天凪君が代わりに答えた。
「これ使って」
犬澤君がカバンの中から取り出したタオルが、バケツリレー式でまわってくるけど、いつも持ってるのかな。
「まだ使ってないから、清潔だよ」
「すまねぇ、借りるぜ」
「ありがとう」
「佳那、ちょっと右に寄っといてくれねぇか?」
「え? う、うん」
天凪君がいきなりあたしに振り返る。
急に名前のほう呼ばれたから驚いた。
「どうせ戻るのもコワイんだろ」
ヒョイッと神流原さん抱き上げる。
「初めっからこうすりゃ良かったぜ」
「仁狼ちゃん」
「あいかわらずアツイねぇ!」
諏訪内さんが冷やかすと、神流原さんはますます赤くなる。
「うらやましいだろ! 舞貴」
「ふん! ちっとも!」
「いくぞ鈴乃。順崇」
諏訪内さんには答えずに神流原さん抱えなおして、あたしと同じように磐拝君が石の右はしに寄るの確認すると、グッと構えて……。
跳んだ! 神流原さん抱えたまま、3〜4メートルくらいある距離、助走なしで岸まで跳び越えた。
「うわぁ! スゴ〜イ!」
ちいが大声で驚く。あたしは声も出せない。祝鎮さんはホォ〜って顔で見てる。それ以外の4人と犬澤君は、なんでもないことみたいに見てる。
あ、違う。犬澤君の表情変わった。
『なんか思いついた笑い』だ。今度はなに思いついたんだろう。
「俺と鈴乃はこっちで待ってることにするぜ」
「分かった。ほかの者も足もとに充分注意しろよ」
祝鎮さんが注意してまた歩き出す。
「誰かがちゃんとお参りしてるようだな」
「そうですね」
小さな祠にお供えしてあるお花と、お水見ながら祝鎮さんと犬澤君が話す。そして祠の前で2人は、ほぼ同時に2回おじぎして、2回手たたいて、もう1度おじぎした。
「兄キ、今のなに? それ?」
「知らないのか? 二礼二拍手一拝っていって、お参りする時の基本だぞ」
「犬澤くんならまだ分かるけど、なんで兄キがそんなの知ってるの?」
「あのなあ、発掘調査っていったら、昔の陵墓の調査だったり謂れのある土地に踏み込んだりしないといけないことがあるんだ。
ずっと昔は、軽視されていた風潮も中にはあったが、今は研究者どころかテレビや雑誌の取材にくる人でも、ちゃんとお参りしたりお祓いを受けたりすることなんて当然なんだぞ。真冬でも、裸になって海で御祓をしないといけない所だってあるんだ」
「まさか、テレビでそんなの見たことないもん。だいたいタタリなんて、あるわけないっしょ?」
「あるよ」
犬澤君はあっさり答える。
「さっきもいったけど、列石があったり、謂れのある土地には自然のエネルギーが良い悪いに関わらず集まりやすい場所なんだ。
特に古代人は自然と直接向き合って生活してたから、そういったことには敏感だったんだよ」
「じゃあ、もう敏感じゃないわたしたちにそんなの関係ないんじゃないの?」
「敏感じゃないから問題なんだよ。例えばいろいろな電子機器から出る電磁波の問題や、低周波公害による被害なんかよく聞くよね。
あれは人間が少しは解かってるエネルギーだから、計測してある程度は回避することができるけど、まだ解明されてない、存在すら認められてないエネルギーに感応した場合、常識では考えられない……防げない事態が起きることがあるんだ」
「それを防ぐのが、さっきの二礼…なんとかっていうの?」
「あれもその1つと考えてくれればいいかな。心構えとしてね」
ちいの質問に犬澤君が説明してくれるけど、あたしもぜんぜん知らなかった。
初詣なんかで神社にお参りにいっても人の波に流されないよう、とにかくお賽銭が届くとこまで近寄って、エイッて投げて今年のお願いして帰るだけだし、低周波公害のことなんて知らない……。
「じゃ、わたしもやっとこう」
「あ、わたしもわたしも」
ちいと一緒に諏訪内さんがお参り。続いて御小波さん。磐拝君はかすかに笑ってお先にどうぞって手で合図してくれた。
「あ、ありがと……」
あたしも見よう見まねで拝む……なんにも悪いこと起きませんように。
最後の磐拝君はスゴく折り目正しく慣れてる感じで拝んでる。
「磐拝君、流派っていってたけど、どんな武道やってるのかな?」
「古武術だって! 古武術!」
磐拝君の代わりに犬澤君に答えるちい。
「かなり強いよね? 骨法?」
「分類できない」
「分類できない? 日本古来の武術だよね。ひょっとして、鐔瓊流? 斉衡時代、西暦850年頃に継承者が途絶えたっていわれてるけど」
「……いや」
「じゃあまさか、朱鳥時代。西暦680年頃、年号と一緒に歴史から消えたといわれてる瑞帋流とか?」
磐拝君がいいかける前に、犬澤君がいう。
「なぜ、それを」




