岩刻文字
「……どうしよ、あたし今、細かいの持ってないんだけど」
「いつでもいいよ」
「なにいってるんだ修仁くん、経費で請求するからみんなのぶんまとめて出すよ。当然、修仁くんのぶんも」
「そうですか、すいません。じゃあお釣り」
「おっ、すまない」
今日はいつもと反対方向に向かう電車だ。こっち方面にはあんまりいったことない。犬澤君と祝鎮さんは、ちいやあたしにはわかんない遺跡や神話、学説の話はじめてる。
「どーした、かなぼ〜。またボ〜っとして」
「……え? あ、ゴメン。こっちのほう、あんまりきたことないから、外の風景見てたの」
「あんまりって…あんた、こっちのほうが市街地でしょ〜が。コンサートとか映画はどうしてるの」
「……いかないから、わかんない」
「はは、そういえば、あんたとコンサートとか映画にいったことってなかったっけ?」
「ずっと前に、1回だけ一緒に映画見にいったことあったよ……あの犬の映画」
「2年前の話しっしょ? それ。たく〜わたしたちって、普段どんな会話してたっけ?」
「いつものふつうのだけど…」
あたしたちは『いつものふつうの会話』してた。
「ちょっと寄り道していきませんか」
目的の駅降りて、外に出てから犬澤君が祝鎮さん誘った。
「またなにかあるな、いくよ。2人ともいいか?」
ニッと笑いながらあたしたち見るけど…。
「どうせイヤだっていってもいくんしょ。ハイハイ、ついていくわよ」
ちいがあたしにウインク。もちろん逆らえない。
そこはもうちょっといけばクグラ岩がある、市の公園だった。公園っていっても芝生の生えた、ただ広い場所に何本かの木が植えてあるだけのとこ。
あたしたちのほかはどっかべつの学校のコたちが何人か遊んでるだけでガランとしてる。でも夏になるとココは海水浴客でいっぱいになる。
「あっ! ダメだ」
犬澤君が突然大声上げて、ほかの学校のコたちのほうに急いで歩いてく。どしたんだろう? あたしたちは顔見合わせて、あわててあと追いかける。
「石の上に登っちゃダメだよ」
高さ50センチくらいの、放射状っぽくならべてある石の上跳んで遊んでた男のコに声かけた。
「おう、なんでだ?」
「最近まで知られてなかったけど、この列石は古代の人たちがならべたストーンヘンジなんだ。市からもこの上に乗るのは禁止されてるんだけど」
「うお! 禁止されてるのか?」
キョトンしながら男のコともう1人上に登ってた女のコが石の上から降りる。男のコが2人と女のコが3人の全部で5人。
「でもストーンヘンジって、たしかイギリスにあるやつじゃねぇのか? 日本だぜココ」
「たしかにイギリスにあるのは有名だけど、ストーンヘンジは世界中どこにでもあるんだよ。中でも日本は数が多くて、あたりまえになってしまって、知られていながら認知されてないものもたくさんあるんだ。
これもそうだったんだけど、2年前に変わった岩刻文字が発見されて、ようやく確認されたんだよ。それ以後は市で管理することになったんだよ」
犬澤君が説明するけど、祝鎮さん以外はあたしも含めて理解してるのはいそうにない。
「鈴乃、なんのことか分かるか?」
男のコが横に立ってた女のコに尋ねる。
「うん。ココがそうだったなんて知らなかった。早く判って良かったね」
「だからなんなんだコレは!?」
「簡単にいうと太古の人たちからすれば、この地帯は神聖な場所で、今でいう神社なんかに当たるんだ。その中心にあたるのがこの列石。だから上に乗るのは、いわば神様の頭の上に土足で登るようなものなんだよ」
ふーん。そうなんだ。
「うおお! 俺ひょっとして、とんでもねぇことしてたのか? バチでも当たるんじゃねぇだろうな」
大げさなリアクションで叫ぶ男のコ。
「ひとつて! だからやめようっていったのに……でもそれ、昔の話でしょ。もう時効じゃないの?」
石に登ってた女のコが首かしげてる。
「神様にはもともとバチを当てるって概念はないよ。
それに古代人がこんな神聖な場所を決める時は大地のエネルギー、人体のツボのようなポイントを選んで決めてたから時効もない。
現在だとかなり弱まってるだろうけど、感応した場合からだに現われる影響は心配だけどね」
「お、おどかすんじゃねぇ」
「おどかしてないよ。本当のことだから」
2人がいっそう不安そうに石見る。
「……あ、あの。ひょっとして、邑久辺高校の犬澤修仁……くん?」
犬澤君しってるのか、鈴乃って呼ばれた女のコが、ちょっと困ったみたいに呼んだ。
「なんだ鈴乃。知り合いか?」
「ううん。そうだったら覚えてない? 去年のインターハイの100メートル準優勝した人だよ」
「ああ! 思いだした! あんた犬澤くんに勝った人! ほら、あんたに100メートルで勝った東弥栄高の…なんだっけ? あま…なんとかくん」
犬澤君と男のコが顔見合わせる。
「悪い。顔までは覚えてねぇ」
「じゃあオレも」
2人とも覚えてないみたい……あれ? 「じゃあ」ってなんだろう。
「あははは……ひとつてみたいなのが、ほかにもいるんだ。おかし〜」
わざとらしくおなか抱えながら、石に登ってた女のコが笑う。もうちっとも不安そうじゃない。
「うるせぇ! 舞貴。べつにいいじゃねぇか」
「悪いなんてひと言もいってないわよ。おかしいっていってるだけじゃないの」
くちゲンカはじめる2人。でも、なんかそれ楽しんでるように見える。
「ゴメンね。あの2人いつもああなの」
鈴乃……さんが、あたしたちに困ったような恥ずかしそうな表情で、犬澤君に小さくつぶやく。
「これからはこんな石がある時は、注意したほうがいいよ」
「うん。そうする」
小さくうなずいてちょっと笑った。
「修仁くん、寄り道の目的はこれだな?」
楽しそうにやりとり見てた祝鎮さんが尋ねる。




