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鼓動  作者: 吉川明人
13/42

キッチン

「かなぼ〜! 実は分かってないっしょ?」

 ビシッとあたし指さしてちいがニラむ。

「う、うん」

「……ハァ。かなぼ〜ってこんなヤツなんだ」

「うん。オレも実感ないからいいよ」

「ええ!?」

「自分のペースで走っただけだから」

「ははっ、それ聞いてショックで陸上やめる人が何人いることやら……」

 なんか笑いひきつってる。

「その上、勉強はいつもトップクラスっしょ? この前の大学模試も全国2位だったのよ。っていうか、ずっと2位じゃない」

「なんでそんなに詳しいの……誰にもいってなんだけどな」

「そしてなによりその顔! 黙って座ってりゃあベビーフェイスのイケメンで、実際のところモテまくりなんだけど。気ままというか、我が道をいくっていうか。

 分かってる? あんた、ハッキリいって変人なのよ!」

「うん。オレはムリしないで生きてるからね」

 嬉しそうに笑って答えてる。ほんとにまったく気にしてないみたい。


 あたしたちが降りる駅の正面出口が、お兄さんとの待ち合わせ場所。

「お〜い、兄キィー待たせたな〜」

 けっこう乗り降りの多い駅に、ちいの大声が響く。もちろんたくさんの人が振り返る。

 ちいがお兄さんだと思う人のとこへ走ってく。

「田中さんて……元気だね」

 犬澤君が、苦笑しながらつぶやいた。

「……うん」

「いつもああなの?」

「そう」

「……大変だね」

「出会って4年かな? いまだに恥ずかしいよ」

「解かってても驚かされるビックリ箱みたいだね」

「あ、そう。そんな感じ」

 なるほど、ちいにはぴったりの表現。今度教えてあげよう。

「よう、こんちは〜。智恵からいろいろ話は聞いてるぞ〜」

 ちいのお兄さんは長身でガッシリした人だった。名前は祝鎮のりやすさん。初めて知った。

 以前に見かけた時はちょっと色白のイメージがあったけど、今はまっ黒に日焼けしてる。

 まともに話しするのも、ハッキリ顔見るのも今日が初めて。

 どっちかっていうとちいのお母さん似だ。ついでにいうと、ちいはお父さん似。

「こ、こんにちは……」

「こんにちは、そっちは誰かな?」

「初めまして。犬澤 修仁しゅうじです」

「そうか。じゃあいこうか」

 やっぱりちいのお兄さんだ、それだけで納得したみたい。細かい(?)ことはぜんぜん気にしてない。そういえば犬澤君の名前も初めて聞いたな。

 うちに着くまで犬澤君が祝鎮さんにいろいろ発掘作業のこと聞いてた。

「かなぼ〜、2人の会話、分かる?」

「うん。だいたい8割くらいは……わかんない」

「良かったー、わたしにもさっぱり。この男どもはいったいなにが面白いんだろうかねぇ、遺跡なんて……」

 あたしにはなんのことかさっぱりわかんない用語もたくさん飛び交ってて、わずか10分くらいの間に、祝鎮さんと犬澤君はすっかり打ち解けた様子みたい。

 うちの入り口は鍵がかかってた。紗弥はまだ帰ってきてない。

「ただいま〜」

「皆さんどーぞ、入った入った!」

 ちいが替わって招き入れる。

「おっじゃまっしま〜す!」

「おじゃまします」

 みんながゾロゾロ上がる中で、犬澤君だけが玄関でキチンと靴そろえてから入る。しかも、あたしがやろうと思ってたちいや祝鎮さんのぶんまでそろえてくれる。

「あ、あたしがするから先に入って……」

「いいよ、ついでだから」

 あわてていった時にはもう終わってて、ごく自然な動きで立ち上がる。普段からそうなんだろうっていうの想像できる。

 ……あたしには、奈絵たちがいってるほど犬澤君が変わり者とは思えないけど。

 キッチンではすでにちいがお茶の用意してた。

『勝手知ったる他人のうち』とはまさにこのことなんだろうね。祝鎮さんもテーブルに腰かけてくつろいでる。ほんとそっくり。

「かなぼ〜、もうすぐお茶っ葉なくなるぞ。用意しておいたほうがいいぞ」

「大丈夫。お歳暮でもらったのまだ残ってるから」

「兄キー、手みやげは?」

「おっ、忘れてた……ほれっ!」

 テーブルに座ったままちいに箱投げると、こともなげにそれ受け取って包み紙やぶいてる。

「ちいのうちってこんな渡しかたするの?」

「……ああ、今のね。うちではあたりまえなんだ」

「落としたりしないの?」

「しないよ。一種の慣れね」

 なんてことないみたいに包み紙開くと、クッキーの缶が出てきた。

「「あ」」

 あたしとちいが同時に声上げる。

「兄キ〜……昨日いってたでしょーが、かなぼ〜んちは、こんなの食べられないって」

「え、なんで? 肉は入ってないと思うけど」

「そりゃ肉は入ってないけど、クッキーには卵とバターはつきもんなのよ」

「そうなのか? 菓子屋で肉の入ってないヤツっていったら、どれも入ってないっていわれたからどれでもいいと思った」

 祝鎮さんがポリポリ頭かきながら答える。

「いいよ、あたしいらないから、みんな食べて。あ、でもお皿は使わないで、缶のままで……」

「そんな、悪いよかなぼ〜」

「いいから。気にしないで」

「よ〜し、じゃあ明日にでも兄キに、やのよろしのおせんべ買わせておくわ。いいわね兄キ」

「明日は……い、いや。買いにいっとくよ」

「いいよぉ、そこまでしなくても……」

「違うの、ついでにみかん大福を頼みたいのよ」

 ちいの顔は真剣。

「あはは……そういうことなら」

「兄貴をパシリにするかぁ」

 祝鎮さんの抗議もむなしく、ちいは明日買ってきてくれること約束させてた。

「じゃあ、かなぼ〜だけは悪いけど、缶のまま各自好きなように取って食べて」

 テーブルにお茶とクッキーがならぶ。あたしの前に祝鎮さん、その横に犬澤君。ちいは隣に座る。

「ゴメン。オレも食べられないんだ」

「え? ひょっとして、あんたもかなぼ〜のうちみたいにビーガンなの?」

「いや、肉類全般がアレルギーなんだ。知らずに食べると大変なことになるんだよ」

「一緒じゃない。食べられないんだったら」

 ちいがツっこんでる。

「ははは! 他人の家に持ってきたみやげを食べるのが、本人と妹だけかぁ! ははは! じゃあ遠慮な〜く」

 祝鎮さんが拍手しながら笑って、ヒョイっとくちにクッキー放り込む。

「……ね、かなぼ〜。いってる通りバカ兄キでしょ」

 あきれ顔のちいがコソコソささやく。


「……で、例の夢だけど、朝の4時頃に見るって聞いてるんだけど」

「あ、そうです……毎朝同じころに」

 ズズッ……とひとくちお茶すすりながら、祝鎮さんは話しはじめる。


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