記録
2人は言いたい放題いって行ってしまった。
犬澤君が貸してくれた本、机の上に3冊ならべて見比べてみる。あんなこと言われるとハッキリいってどれもなんかコワイ。
その中の『失われた種族』のページ、パラパラめくってみると細かい文字がいくつもの写真や図版といっしょにページ埋めてる……うぅ、なんか難しそう。本は好きだけどこんなのはどうも……百科事典頭から読んでくような気になる。
その時、ふと手が止まった。思わず息飲む。あの図形があった。
ちいにもらったコピーほど鮮明じゃないけど、およそのとこは一致してる。
あわてて説明読むと
——ヴァフラ・ヴァウラの心臓と呼ばれる祭壇跡。紀元前1500〜1550頃。現在のモンゴル、ゴビスンベル県出土。ラサケス族と呼ばれる種族の痕跡。身体的特徴として肩より角状の骨が突き出している——
それだけの説明が書いてある。
ほかになんか載ってないか急いでページめくる…ない。あったのはさっきの説明だけ。
……犬澤君はなんかもっと知ってるのかな? 聞いてみたい。でもさっきの2人の話思い出すと、ちょっとコワイ。本返す時にでも聞いてみよう。
午後の授業はゆっくりすぎて……今日の掃除当番の場所は教室。あたしは黒板ていねいに拭くのが好き。雑巾何度もしぼって表面ムラなくなるまで拭く。ピカピカになった黒板見ると、なんか達成感がわいてきて嬉しくなる。
振り返ると、とっくに教室の掃除は終わってて、もう何人かは帰りじたく済ませてた。
バケツで雑巾しぼって、手洗い場にお水捨てにいくと、犬澤君もどっからか掃除終えてバケツ洗いにきた。さっきは気づかなかったけど、犬澤君ってなんか笑ってるように思える。ほんとに笑ってるわけじゃないけど、からだ全体からそう思わせるような雰囲気が漂ってる。
「犬澤君、さっきの本だけど……」
「ん、なに?」
あたしのほう向くと、笑ってるような……よくわかんないけど、安心感(?)みたいな雰囲気がちょっと強くなる感じ。
「ヴァフラ・ヴァウラの心臓って知ってる?」
「うん、モンゴル・ゴビスンベル県の遺跡だね。たしか今、日蒙で共同発掘研究やってるはずだよ」
ちいのお兄さんたちのことだ。
「その遺跡に住んでたラサケス族なんだけど…どんな人たちだったかわかる?」
「今のところ解かってるのは、まだモンゴルが砂漠化していなかった時代に暮らしていた種族で、平均身長約170センチ。顔は典型的な東洋系で、土煉瓦で作った住居に2、3家族単位で生活。
食事は完全菜食だったことが骨の炭素と窒素の安定同位対比から判明してて、1番の特徴は肩の関節付近の骨が角のように異常発達してたってこと。
まだ研究がはじまったばかりだけど、歴史的にはアフリカのビーチウォーカーと呼ばれてる『ストランドローパー』と同じように、一時的に存在した奇形……フリークスとされてるってくらいかな」
まるで、そこに辞書があるみたいにスラスラ答える。ほとんどなんのことかわかんないけど、頭の中そんなこといっぱい詰まってるんだろうな……。
「それで『失われた種族』で聞きたいことって?」
「え、あの……それに出てる祭壇なんだけど、実はあたし毎日夢で見てるの」
いざ話しはじめると、急に心配になってきた。いくら変わってるっていっても、本人もわけがわかんない夢の話なんて、信じてもらえなかったり、笑われたりするかも。
「夢? どんな夢」
だけど笑うそぶりもなくあたし見てる。
昨日みたいに頭に霧がかかるの心配だったけど思い切って覚えてるかぎりのこと話すことにした。
「……それで、ひょっとして犬澤君だったら、なんかわかるんじゃないかと思って」
「ふーん、夢のメカニズムはハッキリ解明されてるわけじゃないけど、記憶の整理説が1番信憑性が高いよ。
でも、本多さんの場合はちょっと違うみたいだね。テレパスか共振現象か、あるいはまったく別の現象といったところかな」
「ちょっと待って。あたしにもわかるようにいって」
あたりまえのように答えてくれるけど、あたしにはぜんぜんわかんない。するとハッと気づいた顔して、ポリポリ頬かきながら、テレ笑いする。
「ゴメン、そうだった。テレパスは解かる?」
「ちょっとなら」
「2人、あるいは複数の人が、遠く離れててもなんの道具も使わずに、お互いに意思の疎通ができるっていう超能力と呼ばれてる能力のこと。ふたごなんかでたまに見られるけど。オレは超能力とは考えてないよ。
本来は誰でも持ってる能力で、脳の前頭連合野内部にある松果体……と、これはよけいかな。で、次に共振現象は?」
「うん、それは知ってる」
長さ変えたひもに、いくつかのオモリぶら下げておいて、どれか1つ揺らすと同じ長さのひものオモリだけ同じように揺れ出す現象のこと。これ利用してるのが、音楽で使う音叉。
「で、まったく別の現象とするなら、例えばアカシックレコードは解る?」
「ぜんぜん……」
「リーディングって呼ばれてて、キリスト教の影響が根強い欧米方面ではそこそこ脚光を浴びてる説なんだけど、あくまでエセ科学の域を出ないんだけど。
要約するとは『運命は最初から決まってる』ってこと」
「……? どういう」
「運命って言葉よく聞くよね? 運命は変えられないとか努力すれば運命は変えられるとか。
でも考えると、そもそも『運命』っていうのはなんなのか? 実は人間の勝手な思い込みや想像ではなくて、現実に存在するんじゃないかって説。
それは個人規模のことから、もっと大きい宇宙的規模の流れ。過去・現在・未来が同時に1つの方向に向かって進行してる『記録』のことなんじゃないかっていうんだ。
そんな、記録されて実在している運命のことを、アカシックレコードって呼んでる」
「……う、う〜ん。ちょっと抽象的すぎ」




