追い討ち
「練習しないと、うまくなんないよ」
「ウ〜ン、オネガイ」
しょうがないなぁ。ともかくあたしは、できるだけ手順説明しながらお料理することにした。
「まず、お米洗うよ……」
あたしはお米ひと握りずつ、ていねいにもみ洗いして竹ざるに置いてく。
さらに土鍋取り出す。滋賀県の信楽まで行って買った、真っ黒なお釜のようなかたちしてて、スゴくおいしく炊けるんだけど火力の調節が難しい。ほんとはしばらく流水にさらして置くともっとおいしくなるけど、今日はちょっと手抜き。コンロに乗せて弱火にかける。
「じゃあ、次にお味噌汁作るから」
「うん」
買ってきたコンブまないたに広げて、きつくしぼったフキンで表面そっと軽く拭き取ったの3枚用意して端に置く。鉄ナベに入れたばかりの干しシイタケはまだお水吸ってないし、出汁も出てないから刻んで具にしてしまおう。
今日は急ぎだし、次に作る時はちゃんと前の日から用意するからガマンしてほしい。1度干しシイタケ取り出して、鉄ナベにフタかぶせてコンロに火をつける。
「ねえ、なんでコンブ拭き取るの?」
「表面についてる小さなゴミとか取るためだよ」
「へーっ。表面にいっぱいついてる白いのって、ゴミだったんだ」
「違うよ。あれはコンブの旨味のもと。その上についてる小さなゴミ取るの」
そうこうしてるうち、ご飯炊いてる土鍋がカタカタ小さい音たてはじめたから一気に強火にして、思いっきり沸騰させる。
「お姉ちゃん、こぼれるよ!」
「消しちゃだめだよ、これでいいんだから」
「え、そうなの?」
「うん、もうちょっと」
数秒待って火、消す。
「もう消すの? さっき沸騰しただけでしょ」
「いいの。これ土鍋だから余熱がスゴイんだ、これ以上やると焦げちゃうの」
「ふーん……」
そのあいだに鉄ナベのほうも沸騰してきた。さっきのコンブゆっくりナベに沈めて、塩揉みながら入れてフタする。ほんとはコンブ臭さが出ないよう煮出さないんだけど、精進料理と同じで出汁をとるからしっかり煮る。
「味見する?」
不思議そうな顔してる紗弥に、あたしは笑って小皿に汁すくって渡す。
「……おいしい」
「でしょ?」
「なんで? ねえ、お姉ちゃんどーして?」
「へへ……タイミングと量のバランスだよ」
「それじゃ分かんないよ」
「何回もやってるうちに、だんだんわかってくるんだよ。前はこうだったから今度はこうしてみようとか」
「やっぱり練習しないとだめなのかな」
「だめじゃないだろうけど、作れたら楽しいよ」
「うん。今日はじっくりお姉ちゃんのワザを盗むからね」
「いいよ、いくらでも盗んで」
お料理のあいだ紗弥はコマゴマしたこと尋ねて、だんだん乗り気になってきたのか、最後には『あたしが横についててくれたら』の条件つきで今度は自分がやってみたいっていいはじめた。
やがてお父さんもお母さんも帰ってきて、お料理の話題で盛り上がる。特にお父さんの独身時代の1人暮らしの食事は参考になった。
実はあたしのお料理好きはお父さんからの影響で、時々教えてもらったりもしてる。独身当時は、ほかにお金遣わないぶん、いろんな材料試したらしい。
「でも結婚した当時はうるさかったのよぉ」
お母さんが、いつものいたずらっぽい笑い浮かべて話しはじめる。
「お父さんこの通りだから、文句はぜんぜんいわないのよ。ただ、食べ終わったあとに『今日のはこうすればもっとおいしくなるんだよ』っていって、今食べた料理についてひと通り感想をいうの。
誉めてくれるんならいいけど、間接的に『マズイ』っていってるのと同じでしょ?」
チラッとお父さんのほう見ると、ちょっとバツ悪そうに天井見てる。
「でも、最初は私も一生懸命いってくれたことを参考にしていろいろ工夫してたんだけど、だんだん作るのがイヤになってきたの。それである日『文句いうんだったら、もう二度と作らない!』って怒鳴っちゃったの」
「え! お母さんたち、ケンカしたことあったんだ?」
紗弥だけでなく、あたしも驚いた。お父さんとお母さんが今までケンカしてるとこなんて見たことないのに。
「ケンカっていうより、私が一方的に怒ってたって感じかな。でもお父さんなにもいい返さないで、私が少し落ち着いたの見計らって『今日、オレが作る』って。あたりまえでしょ! って私、1人でテレビ見てたの」
お父さんはポリポリ鼻の頭かいてる。
「しばらくして『できたよ』っていってご飯とお吸い物持ってきたの。
私、お返しになにか文句いってやろうって思ってたのよ、見るとお吸い物がすっかり冷めてるの。それで文句いったら……くっくくっ」
お母さんが笑いはじめる。
「なに? お母さん」
「『これは今の2人の心の状態だよ』っていって、よーく冷やしたうつわにそそぐの。そしたらみるみるうちに固まっていくのよ。そうしたら『もう1度2人の心をしっかり固め合いたい』っていうの。
作ってくれても食べてあげない! って考えてたんだけど、あまり不思議だったから、思わずすくって食べてみたら……少し酸味がある固まりがくちの中でホロホロと溶けていくの、それが悔しいけどスゴクおいしいのよ。
その上『キミの気持ち考えなくてゴメン。もういわないから……これでわだかまりを溶かしてくれないか』な〜んていったのよ。
もう、許さないわけにはいかないじゃない。ズルイんだから」
お父さんはあわててお茶飲もうとして、ちょっとむせてる。
「まあ、若かったから良かったんだけど。今思い出したら、よくあんな恥ずかしいセリフいえたし、私も許したなぁっておかしくてしょうがないわ」
お母さんはケラケラ笑う。お父さんはあい変わらず黙ったままで、恥ずかしそうにソワソワしてる。
「お父さんもなかなかやるじゃない!」
紗弥が『恥ずかしいお父さん』に追い討ちかけると『ごちそうさま』ってお風呂に逃げてしまった。




