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 9・足掻いて、もがいて、不恰好でも

 

 「ごめん、刹那。ちょっと真剣な話する。」


練習試合の帰り道。

電車の中で、友人がそういった。

私より背が高い癖に少しかがんで上目使いをしている。

困った時にでる友人の癖でもある。


 「な、何?」


 「うち、」


何故だか悪い予感がした。

もしかして…、いや、そんな筈ないの、に。


ガタン

ゴトン


電車が揺れる。

 さっきまでほのかに明るかった筈の夏の空は、いつの間にか藍色に染まっていた。


 「T先輩の事、」


 ドクン


背筋が冷える。

少しだけ汗が噴き出る。

悪い予感がした。



 「好きになっちゃった、よ。」


 




 「……え?」


ガタン


電車が大きくゆれて、体がよろめいた。

空はもう闇につつまれている。

カラスの鳴き声もしない。

セミの鳴き声も聞こえない。





 …私には、好きな人がいた。

少し真面目で

バドミントンが上手くて

ちょっと短気で

心を許した相手には思い切り羽目をはずすのに、それ以外の人には無愛想な、T先輩。



最初は格好いい、としか思っていなかった。

バドミントンをする姿と、友達と話している時にみせる笑顔が、無性に格好よく見えて、でも、好きとはまた違う、憧れに似た感情。


……いつからだろう。


分からない。


…知らないうちに、視界の中は先輩しか入っていなくて。


例え業務的な内容でも、声をかけられると嬉しかった。

先生に頼まれたものと知っているけれど、プリントを渡されると心が弾んだ。

目の前を通りすぎるだけで、自分でも胸が高鳴っている事に気づいた。

自分なんて見向きもされていないのに、少しでも声をかけられるとすぐに舞い上がって。


 


 ……一瞬、友人の言っている事がわからなかった。

理解したくなかった。

どうして先輩なの?

どうして?

他の人じゃ駄目なの?


…自分でも、友人の気持ちは痛い位わかる。

恋なんて自分で操れる感情ではないのだ。

例え友達の好きな人だと知ってても、恋をしてしまう事だってある。

なのに。

心の中では納得できていない自分がいて。


どうして?

どうして?

どうして?


混乱している私をみて、友人は


 「ごめんね」


といった。

それから、ニヤリと笑って、言った。


 「悪いけど、うちはガンガン攻めるよ。これは、謝罪じゃなくて、宣戦布告。」


 ドクン


唾をのみこんだ。


 「……まじで?」


……嘘だよ。冗談に決まってんでしょ?本気でうちがT先輩好きになる筈ないじゃん?

…そういってほしかった。やめて。


 「うん。マジ。…………ごめんね?」


また、上目使い。


 ドクン


息を軽く吸い込む。


 「………わかった。」


息を吐くように、そう言った。

体の中から絞り出すように、今の自分には、それしか言えない。

それが精いっぱいで。


 「………刹那には悪いと思ってる。けど、譲る気も冷める気も正直全然ない。これからは、ライバルだよ?やるからにはやるから。」


少しだけ友人の口角が上がる。

そうだ、この子はそういう子だった。

二年前にこの子に彼氏を取られたという友人の話を思い出してしまった。

それから、一年前にこの子に彼氏を取られたというもう一人の友人の話も思い出した。

勿論、先輩は彼氏なんかでは絶対ないけど、この子の本気はとにかく凄い。

計算から成る巧みな技という技をつかいまくり、相手をリサーチして、奪い去る。

何でもかんでも地がでる自分とは本当に正反対だ。

真剣に、この子とだけは好きな人がかぶりたくなかった。


 「………わ、わかった。」


動揺が隠せず、目線を下に落とす。

何だかすでに負けている気さえしてくる。我ながら情けない。





 …でも。


私は自分なりに頑張ろう、と気をもちなおす。

目線を友人の目に戻す。

目が合う。

でも今度は逸らさなかった。


 「よろしく」


…叶いもしない私の恋だけど、敵いもしないライバルだけど。

この子の様に上手に相手を虜にする事なんて絶対にできない。

けれど

全力で

必死に

足掻きまくってやろうではないか。 


 電車が目的地にたどり着き、ドアが開いた。


私は、一歩、足をふみだした。






 ついさっきの出来事だったりします( ̄∀ ̄;)

まじで真剣にやばい((汗


 …そ、それでは、ここまで読んでくださり、有難うございましたッ‼


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