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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第1章

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第9話: 観測者

――魔王城


「余は問う」


玉座の間に、炎の気配が揺れる。


炎将が膝をつく。


「勇者一行と接触したな」


「は」


短い返答。


「殺さなかった理由を述べよ」


沈黙。


炎将は視線を落とす。


「……測定のため」


空気が、わずかに軋む。


四天王が並ぶ。


誰も口を挟まない。


「測定?」


「成長率、耐久値、連携速度。いずれも想定範囲内」


想定。


余の指が玉座の肘掛けを叩く。


規則的に。


だが。


ほんの一瞬。


視界の端に、何かが走る。


【Report Accepted】


余は眉を動かさない。


「想定とは、誰の想定だ」


炎将がわずかに顔を上げる。


言葉が、止まる。


「……」


言えないのではない。


“言葉がない”。


その違和。


余の胸の奥が冷える。


「次はどうする」


「推奨段階到達後、再接触」


推奨段階。


余は目を閉じる。


闇の奥で。


微かに、赤い線が走る。


【Next Engagement: Lv15】


瞬き。


消える。


玉座の間は静かだ。


誰も、何も見ていない顔。


余だけが、見た。


勇者側だけではない。


こちらも。


「……退け」


炎将が去る。


余は一人になる。


天井を見上げる。


高い。


無機質だ。


ここは魔王城。


だが。


誰が建てた?


余は、いつからここにいる?


最初の記憶。


勇者誕生。


聖女選定。


四天王任命。


完璧な流れ。


霧の向こう。


それ以前が、ない。


「余は……」


言葉が続かない。


【ERROR】


一瞬。


視界に赤。


すぐ消える。


余は立ち上がる。


窓から森を見る。


北西の森。


あそこだ。


勇者たちは、鍛えている。


“予定通り”。


だが。


余は拳を握る。


「誰が、予定した」


返答はない。



――北西の森


夜明け前。


俺は目を開けていた。


勇者は眠っている。


聖女も。


賢者も。


規則正しい寝息。


まるで安心しきっている。


森は静かだ。


昨日の表示が、頭から離れない。


【Recommended Level: 15】


推奨。


誰が。


俺は立ち上がる。


音を立てずに森へ入る。


一人で。


魔獣の気配がする。


だが。


距離が一定だ。


俺はわざと、逆方向へ進む。


昨日まで魔獣が出なかった区域。


踏み込む。


静寂。


十歩。


二十歩。


三十歩。


何も出ない。


四十歩。


【Out of Range】


白い文字。


初めて見る。


心臓が跳ねる。


振り返る。


消える。


範囲。


狩場には、境界がある。


俺はさらに進む。


五十歩。


風が止まる。


空気が重い。


背後。


気配。


振り向く。


四体。


昨日と同じ配置。


同じ距離。


同じ間合い。


追いついた。


いや。


再配置された。


【Reposition Complete】


赤。


消える。


俺は笑いそうになる。


声は出さない。


短剣を抜く。


一体目。


即座に仕留める。


二体目。


間合いをずらす。


三体目。


あえて逃がす。


走らせる。


森の奥へ。


魔獣は逃げない。


昨日まで。


だが今日は。


逃げた。


いや。


逃げ“させた”。


俺が。


魔獣を追わない。


その瞬間。


空が軋む。


【Behavior Divergence Detected】


長い。


初めての文。


魔獣が止まる。


不自然に。


首を回す。


まるで、操作待ち。


俺は動かない。


時間が伸びる。


森が、息を止める。


そして。


魔獣がこちらへ戻る。


ぎこちない動き。


再び戦闘。


終わる。


【Adjustment Applied】


消える。


俺は確信する。


世界は修正する。


だが。


一瞬、止まる。


勇者の声が遠くから響く。


「おい! どこ行ってた!」


俺は戻る。


何もなかった顔で。


「散歩」


勇者が笑う。


「朝から元気だな」


聖女が心配そうに言う。


「危険ですよ」


賢者が補足する。


「単独行動は推奨しない」


推奨。


まただ。


「……なあ」


俺は勇者を見る。


「俺たち、いつ出会った?」


勇者が瞬きをする。


「急に何だ」


「覚えてるか?」


「覚えてるさ。城下町だろ?」


聖女が頷く。


「神殿で神託が下り、勇者様が選ばれ、私が同行を決めて」


賢者が続ける。


「私はその場にいた。魔力適性を確認した」


自然だ。


完璧だ。


だが。


俺は目を閉じる。


俺は。


どこで。


どうやって。


勇者と会った?


路地裏。


薄暗い酒場。


いや。


城門?


思い出そうとすると。


霧。


輪郭が溶ける。


勇者の声だけが、はっきりしている。


「一緒に来てくれ」


俺は、なぜ頷いた?


金か?


信念か?


違う。


“そこにいた”。


それだけ。


最初から、いた。


気がする。


【Memory Access Restricted】


白い文字。


頭の奥で。


消える。


息が荒くなる。


聖女が顔を覗き込む。


「大丈夫ですか?」


「……平気だ」


勇者が肩を叩く。


「疲れてるんだろ」


賢者が頷く。


「休息も必要だ」


優しい。


全員、善意だ。


だが。


誰も、霧を見ていない。


俺だけが、曖昧だ。


森の奥。


赤い点が瞬く。


魔王城。


余が窓から森を見る。


同じ瞬間。


互いに、知らない。


だが。


同じ表示を見ている。


勇者も。


魔王も。


役割通り。


成長し。


衝突する。


その間にいる。


俺は。


予定外だ。


森に風が吹く。


魔獣の遠吠えが、規則的に響く。


勇者が剣を握る。


「今日もやるぞ」


聖女が祈る。


賢者が計算する。


俺は空を見る。


青い。


綺麗だ。


綺麗すぎる。


もし。


この世界が舞台なら。


台本を持っていないのは。


俺だけだ。


なら。


奪うしかない。


表示を。


誤差を。


一瞬の停止を。


世界が修正する前の、あの隙間を。


俺は短剣を握る。


育てられる前に。


測られる前に。


歯車に、砂を入れる。


ほんの少しでいい。


壊すんじゃない。


狂わせる。


物語が、美しく終わらないように。




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