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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第1章

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第6話: 定められた会議

何かが、変わった気がした。


玉座に腰を下ろした瞬間から、ずっとだ。


魔王城の謁見の間。

黒曜石の床は鏡のように磨かれ、天井は闇そのもののように高い。


整っている。


整いすぎている。


右に炎将。

左に氷妃。

奥に闇宰相。

手前に獣王。


四天王は定位置にいる。


微動だにせず。


まるで最初からそこにいたかのように。


「本日の議題を」


闇宰相が告げる。


「勇者一行、北西ルートを進行中。予定通り、炎将殿が第一接触を行う手筈です」


予定通り。


炎将が膝を折る。


「承知」


即答。


早すぎる。


「待て」


余は声をかける。


炎将が顔を上げる。


「……は」


「なぜ、北西だ」


沈黙。


闇宰相が答える。


「最短だからです」


「南は」


「遠回りです」


同じだ。


どこかで聞いた。


「南に村はないのか」


「あります」


「ならば、勇者はそちらへ向かう可能性もある」


氷妃が静かに言う。


「ありません」


「なぜ」


「効率が悪いからです」


効率。


またその言葉だ。


「勇者は効率で動くのか」


「はい」


迷いなく。


「確証は」


「物語がそう定めています」


物語。


余は眉をひそめる。


「誰の物語だ」


空気が、ほんの一瞬だけ薄くなる。


獣王が低く唸る。


「魔王様、それは——」


「答えよ」


闇宰相が一歩進む。


「世界の流れです」


「流れとは何だ」


「抗えぬもの」


「抗ったことはあるか」


沈黙。


四天王は、誰も答えない。


いや。


答えられない。


まるで、そこに言葉が用意されていないように。


余は玉座から立ち上がる。


足音が高く響く。


「炎将」


「は」


「北西へ向かうな」


一瞬。


空間が凍る。


炎将の瞳が、揺れる。


「……は?」


「南へ行け」


「しかし、勇者は北西を——」


「分からぬだろう」


炎将の口が、わずかに開いたまま止まる。


まるで思考が引っかかったかのように。


「分からぬ、とは」


「勇者が必ず北西へ進むと、なぜ言える」


闇宰相が言う。


「定められているからです」


「誰に」


沈黙。


再び、空気が歪む。


微かな耳鳴り。


玉座の背後、巨大な魔法陣が、ほんの一瞬だけ明滅する。


余の胸の奥がざわつく。


「余は、南を選ぶ」


炎将が歯を食いしばる。


「それでは、接触が遅れます」


「遅れて何が問題だ」


「勇者の成長曲線が」


そこで言葉が止まる。


成長曲線?


「続けよ」


炎将の額に汗が滲む。


「……」


「何が問題だ」


「……分かりません」


本当に分からない顔だった。


氷妃が小さく呟く。


「魔王様、本日の会議は——」


「中止だ」


全員が顔を上げる。


「余は森へ出る」


「それは——」


「決定だ」


余は歩き出す。


玉座の間を出る瞬間、背後で何かが軋んだ気がした。


振り返る。


何もない。


四天王は整列している。


完璧に。


乱れなく。



城を出る。


森は濃い。


湿った土の匂い。


久しく踏み入れていない。


本来ならば、ここに来る必要はない。


魔王は待つ存在だ。


城で。


だが、余は歩く。


木々の間を抜ける。


静かだ。


あまりにも。


突然、茂みが揺れる。


魔獣。


牙を剥き、突進してくる。


余は無意識に魔力を放つ。


黒炎が奔る。


魔獣は消し飛ぶ。


静寂。


その瞬間。


頭の奥で、冷たい音が鳴る。


【レベルが上がりました】


……は?


余は立ち止まる。


今、何と。


【魔王のレベルが上昇しました】


数字が浮かぶ。


あり得ない。


余は魔王だ。


成長する存在ではない。


完成しているはずだ。


「何だ、これは」


森は答えない。


再び、茂みが揺れる。


二体。


三体。


多い。


明らかに、多い。


まるで。


何かを取り戻すかのように。


余は魔法を放つ。


黒炎。


雷。


闇刃。


魔獣は倒れる。


【レベルが上がりました】


【スキルを取得しました】


視界の端に、文字が走る。


知らぬ文字列。


ノイズ。


瞬間。


空間が、裂ける。


視界の中央に、赤い光。


【ERROR】


鼓動が止まる。


【逸脱を検知しました】


逸脱。


何から。


【シナリオ補正を実行します】


頭痛。


膝をつく。


森が揺れる。


世界が、再配置される感覚。


記憶がざらつく。


南へ行けと命じたこと。


森へ来たこと。


魔獣を倒したこと。


それらが、薄くなる。


【修正完了】


音が止む。


静寂。


余は立っている。


城の前だ。


……なぜだ。


森へ行ったはずだ。


手を見る。


汚れていない。


魔力も減っていない。


だが。


胸の奥に、焼け跡のような違和感が残る。


「……余は」


思い出そうとする。


霧がかかる。


同じだ。


どこかで、同じ感覚を。


南。


森。


レベル。


ERROR。


単語だけが、沈まずに浮かぶ。


城門の向こうで、四天王が整列している。


炎将が言う。


「魔王様。勇者は北西へ進行中です」


予定通り。


その言葉が、刃のように響く。


余はゆっくりと玉座へ戻る。


整った空間。


整った配列。


整った物語。


だが。


確かに。


何かを、選んだはずだ。


そして。


それは、消された。


余は玉座に座る。


静かに呟く。


「……もう一度だ」


誰にも聞こえない声で。


今度は、もっと静かに。


もっと小さく。


逸脱する。


世界は、気づいている。


だが。


余も、気づいた。


これは。


定められた戦いではない。


何かが。


書いている。


そして。


余と勇者は、その文字の上を歩かされている。


だが。


歩き方までは、まだ奪われていない。


――たぶん。




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