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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第1章

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第3話: 思い出せない夜

夜。


森の中、焚き火が小さく揺れている。


枝が爆ぜる音。

遠くで虫の鳴き声。


昼の戦闘は嘘のように静かだった。


勇者が剣を磨いている。

聖女は祈りを捧げ、賢者は書物を開いている。


いつもの光景。


……いつもの?


俺は火を見つめる。


炎は揺れているのに、

この場の空気は、妙に整いすぎている。


予定された夜。


そんな言葉が、ふと浮かぶ。


「勇者」


俺は声をかけた。


「何だ」


顔を上げる。


迷いのない目。


その目に、わずかな曇りもない。


「俺が、お前たちに加わった時のこと、覚えているか」


聖女が手を止める。


賢者が本から目を上げる。


勇者は即答した。


「ああ」


即答。


迷いなく。


「王都での試練だ。暗殺者としての腕を見せた。王は感銘を受け、俺たちの仲間になることを許可した」


淀みがない。


まるで、何度も語ってきた物語のように。


「そうか」


俺は火を見る。


確かに、覚えている。


王城。


広間。


謁見。


刃を向けられた標的。


一瞬で喉元に刃を当てた。


王が拍手した。


「見事だ」


——そうだった。


……本当に?


「どんな試練だった」


俺は続ける。


勇者は肩をすくめる。


「暗殺者の試練だ」


「具体的に」


「……」


一瞬だけ、間があった。


ほんのわずか。


だが、確かに。


「標的がいた。お前は一瞬で仕留めた」


「誰だった」


沈黙。


焚き火が爆ぜる。


聖女が微笑む。


「悪しき貴族だったと聞いています」


「罪状は」


賢者が口を開く。


「国家転覆を企てていた」


「証拠は?」


沈黙。


風が吹く。


炎が揺れる。


勇者が眉をひそめる。


「……重要か?」


重要だ。


俺の過去だ。


俺がここにいる理由だ。


「俺は、どうしてお前たちと旅をすることにした」


勇者は迷わない。


「魔王を倒すためだ」


「それは分かっている」


「王に命じられた」


「それだけか?」


聖女が柔らかく言う。


「導き、です」


導き。


まただ。


便利な言葉。


「俺は、自分の意思で来たのか?」


勇者がこちらを見る。


その目は、本気で不思議そうだった。


「当然だろう」


当然。


当然?


俺の頭の奥が、ざわつく。


王城の広間。


玉座。


拍手。


……拍手?


誰が?


何人いた?


床の色は?


天井の装飾は?


思い出そうとする。


霧がかかる。


輪郭がぼやける。


音だけが残る。


「見事だ」


それ以外が、曖昧だ。


「……思い出せない」


思わず呟く。


勇者が怪訝な顔をする。


「何がだ」


「細部が」


賢者が言う。


「些末な情報だ」


些末?


俺の記憶だぞ。


聖女が優しく言う。


「大切なのは、今ここにいることです」


違う。


それは答えになっていない。


「王は何と言った」


勇者は即答する。


「世界を救ってくれ、と」


「他には」


「……それで十分だ」


十分?


十分なのか?


俺の心臓が重くなる。


「俺は、迷わなかったか?」


勇者は微笑む。


「迷わない」


それは俺のことか?


それとも、勇者の理想か?


「俺は何と言った」


沈黙。


焚き火が小さく崩れる。


勇者がゆっくり言う。


「……引き受ける、と」


その言葉が、妙に軽い。


俺は目を閉じる。


思い出せ。


あの時の感情を。


恐れは?


躊躇は?


報酬は?


条件は?


——ない。


感情が、ない。


あるのは結果だけ。


加入した。


旅が始まった。


まるで。


そこに至る過程が、削られているみたいに。


「お前たちは、疑わなかったのか」


俺は問う。


「何を」


勇者。


「俺を」


「必要だった」


即答。


聖女が頷く。


「四人揃っていましたから」


揃っていた?


揃う?


最初から?


賢者が淡々と言う。


「構成として合理的だ」


構成。


その言葉に、背筋が凍る。


まるで。


役割が先にあって。


人間が後から当てはめられたみたいに。


勇者。聖女。賢者。暗殺者。


四人。


綺麗に並ぶ。


欠けがない。


偶然にしては、整いすぎている。


「俺が断ったら、どうなっていた」


勇者は少し考えた。


ほんの一瞬。


「断らない」


断らない?


「なぜ分かる」


「必要だからだ」


何に?


誰に?


焚き火が揺れる。


闇が濃くなる。


森の奥が、深い。


俺は、はっきりと感じた。


俺たちは選ばれたんじゃない。


配置されたんだ。


役割に。


予定に。


導きに。


俺の記憶は、穴だらけだ。


だが、勇者は迷わない。


聖女は疑わない。


賢者は説明しない。


俺だけが、霧の中でもがいている。


炎を見つめる。


その揺らぎが、やけに人工的に見えた。


レベルを上げて魔王を倒す。


それが正しいと、誰も疑わなかった。


俺は、疑い始めている。


だが。


もし。


疑っている俺の方が、間違っているとしたら?


夜は、やけに長かった。




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