表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/28

第2話: 上昇

森は静かだった。


街を出て、北へ半日。

木々が空を覆い、光が薄くなる。


「この辺りは魔物の出現率が高い」


賢者が淡々と告げる。


出現率。


まただ。


まるで数値があるみたいな言い方をする。


「問題ない」


勇者が前を歩く。


迷いがない。


本当に、ない。


「来ます」


聖女が小さく呟いた瞬間。


茂みが揺れた。


飛び出してきたのは、灰色の狼。


魔獣だ。


牙を剥き、低く唸る。


俺は自然に短剣を抜いた。


空気が変わる。


緊張は、本物だ。


狼が飛びかかる。


勇者が一歩前へ。


剣を振る。


速い。


正確。


首筋を斬り裂く。


血が飛ぶ。


狼が地に落ちる。


……普通だ。


普通の戦闘。


問題は、次だ。


頭の奥で、あの硬い音。


【レベルが上がりました】


背筋が凍る。


まただ。


また、聞こえた。


だが、今度ははっきりしている。


【力が3上昇しました】


【次のレベルまで120】


息が止まる。


120?


何の話だ。


俺は周囲を見る。


勇者が剣を払う。


聖女が微笑む。


賢者が頷く。


誰も動揺していない。


「順調だな」


勇者が言う。


順調?


今、何かが——


「聞こえなかったのか?」


俺は思わず口にする。


「何がだ」


勇者は本気で分からない顔をする。


「今、声が」


聖女が首を傾げる。


「神の加護でしょうか?」


違う。


そうじゃない。


あれは祝福じゃない。


もっと、機械的な。


冷たい。


感情のない。


通知だ。


俺の心臓が速く打つ。


「お前たち、レベルが上がるって何だ」


沈黙。


賢者が口を開く。


「成長だ」


「どうやって?」


「経験を積めば強くなる」


「誰が決めた?」


勇者が言う。


「世界だ」


世界。


便利な言葉だ。


「さっきの狼は、どれくらいの強さだった?」


「低位だ」


賢者。


「だから経験値も少ない」


経験値。


言葉が滑らかすぎる。


俺は狼の死体を見る。


ただの肉だ。


血だ。


命だ。


それが、数値になる?


「俺は、強くなったのか?」


勇者がこちらを見る。


「当然だ」


「実感は?」


「不要だ」


その瞬間、寒気が走る。


不要?


実感が、不要?


再び、茂みが揺れる。


今度は二体。


勇者が踏み込む。


俺も動く。


刃が閃く。


肉を断つ感触。


温かい血。


息が荒れる。


これは本物だ。


だが。


【レベルが上がりました】


まただ。


今度は、はっきりと俺の中で鳴る。


【スキル《急所突き》を習得しました】


頭の奥に、何かが流れ込む。


知らない技術。


知らない軌道。


知らない呼吸。


身体が勝手に理解する。


「……」


俺は木に向かって短剣を振る。


無意識に、鋭く。


木の幹が深く抉れる。


今までより、明らかに深い。


「ほらな」


勇者が言う。


「成長だ」


違う。


これは成長じゃない。


これは——


付与だ。


誰かが。


何かが。


俺に。


「おかしいだろ」


俺の声が震える。


「何がだ」


勇者は本気で分からない。


聖女が優しく言う。


「強くなるのは、良いことです」


賢者が淡々と。


「効率的だ」


効率。


成長。


経験値。


レベル。


スキル。


言葉が、整いすぎている。


「努力はどこにある?」


俺が問う。


勇者が即答する。


「戦っただろう」


違う。


それだけで、こんなに?


俺は手を見る。


震えている。


だが、力は増している。


実感がある。


あるのに。


過程が、ない。


「……これを繰り返すのか」


勇者が笑う。


「当然だ」


当然。


当然?


森の奥から、風が吹く。


葉が揺れる。


その音に紛れて、また微かな声。


【次のレベルまで95】


誰に向けた言葉だ。


俺か?


勇者か?


それとも——


この世界そのものか?


俺は、確信し始めていた。


これは成長じゃない。


これは、


進行だ。


誰かが決めた手順を、なぞっているだけだ。


レベルを上げる。


魔王を倒す。


それが正しい。


誰も疑わない。


疑わないから、疑問が生まれない。


俺だけが。


ズレている。


いや。


ズレているのは——


世界だ。


森の奥が、やけに暗く見えた。


まるで、そこに答えがあるみたいに。




もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ