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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第1章

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第16話: 置き去り

街に戻る理由はなかった。


だが、足が向いた。


勇者は次の目的地を口にしていた。南方の関所を越え、王都方面へ進むと。


聖女は頷き、賢者は最短経路を示す。


俺はその地図を見ながら言った。


「先に街で補給を」


自然な提案だ。


賢者は計算し、問題なしと判断する。


勇者も深く考えない。


「そうだな。酒も飲みたいし」


笑い声。


軽い。


何も変わっていない。


俺だけが、少しだけ重い。



酒場は、以前と同じ匂いがした。


古びた木の床。

濁った空気。

常連のざわめき。


あの席を見る。


壁際。


椅子がある。


机もある。


だが。


そこに剣はない。


以前は、立てかけてあった。


大剣が。


……あった。


俺は確かに見た。


濁った目の男。


戦士。


勇者に語りかけていた。


治癒士を聖女と呼び。


魔法使いを賢者と呼び。


壊れていた。


あれは。


夢か?


「何か探してるのか?」


勇者が肩を叩く。


「……いや」


俺は席に近づく。


椅子に触れる。


冷たい。


誰も座っていない。


店主が声をかける。


「空いてるぞ」


俺は聞く。


「ここに、いつも座ってる男がいたはずだ」


店主は眉を寄せる。


「いつも? 誰だ?」


「大剣を持った……」


言葉が止まる。


店主は首を振る。


「そんな奴は知らねぇな。うちは狭い。目立つ客は覚えてる」


周囲の常連が笑う。


「幻でも見たんじゃねぇか?」


「旅の疲れだろ」


笑い声。


自然だ。


誰も不自然に見えない。


俺だけが浮いている。


記憶は鮮明だ。


声も、目も。


だが。


証人がいない。


俺は席に座る。


椅子は軋む。


ただの椅子だ。


そこに“残り香”のようなものもない。


世界は帳尻を合わせている。


……合わせている?


確信はない。


だが。


もしあの男が存在していたなら。


なぜ、誰も覚えていない?


俺は酒を口にする。


味がしない。


勇者は楽しそうに笑い、聖女は柔らかく微笑み、賢者は情報を集める。


三人は完璧に調和している。


四人の構図。


だが、その四人は。


勇者。

聖女。

賢者。

――俺。


戦士ではない。


暗殺者。


本来、横に立つはずの存在ではない。


椅子が一つ、余っている気がする。


だが、数は合っている。


数は、合っている。


俺は目を閉じる。


考えすぎだ。


偶然だ。


あの男は、別の店に移っただけかもしれない。


死んだのかもしれない。


街を出たのかもしれない。


可能性はいくらでもある。


だが。


胸の奥が静かに冷えている。



夜。


宿屋。


三人はすぐに眠った。


俺は窓辺に立つ。


街は静かだ。


あの席は、今も空いているのだろうか。


確かめに戻る衝動を抑える。


意味がない。


何度見ても、結果は同じかもしれない。


証明できない。


証明できないまま、疑うだけだ。


ふと。


視界の端に、文字が滲む。


一瞬。


本当に一瞬。


__構成修正中


瞬き。


消える。


息が止まる。


俺は窓枠を掴む。


修正。


何が?


今、何が?


街は変わらない。


灯りは揺れ、人影は動く。


何も起きていない。


だが。


“今”だった。


あの表示は、今出た。


なぜ今?


戦闘はしていない。


レベルも上がっていない。


では。


何が修正された?


俺は必死に記憶を探る。


酒場。

席。

店主。

常連。


何か、さっきと違う点は――


分からない。


分からない。


分からない。


冷たい汗が背を伝う。


確信はない。


だが。


俺は、あの表示を見た。


偶然か?


幻覚か?


疲労か?


可能性はいくらでもある。


それでも。


二度目だ。


一度目は戦闘の後。


今回は、何もない夜。


なぜだ。



翌朝。


勇者は元気だ。


「よし、出発だ!」


聖女が笑い、賢者が荷を整える。


何も変わっていない。


本当に、何も。


俺は街を振り返る。


酒場の扉は閉じている。


あの席は見えない。


もし。


もし俺がいなかったら。


この三人はどうなっていた?


戦士がいたはずだ。


像にもあった。


物語にもあった。


だが、俺はいる。


戦士はいない。


いないのか?


それとも。


“いなかったことにされた”のか。


思考が堂々巡りする。


確信が持てない。


証拠がない。


ただ、表示だけがある。


修正。


修正とは何だ。


誰が修正する。


世界か。


それとも。


もっと上位の何かか。


そこまで考え、首を振る。


飛躍しすぎだ。


俺はまだ、何も掴んでいない。



街を出てしばらく。


勇者が振り返る。


「どうした? 顔色悪いぞ」


「寝不足だ」


「無理するなよ」


気遣いは本物だ。


嘘はない。


三人は正しい。


世界も正しい顔をしている。


歪んでいるのは、俺の認識かもしれない。


だが。


もし本当に修正があるなら。


次に何かが起きた時。


俺は、見逃さない。


逃げない。


確信はない。


だが疑いはある。


疑いは、消えない。


森へ続く道を歩きながら。


俺は決める。


次のレベルアップ。


その瞬間を。


目を逸らさず、見る。


世界が何を削るのか。


何を残すのか。


俺はまだ知らない。


だが。


知らないままでは、いられない。


風が吹く。


木々が揺れる。


何も欠けていないように見える。


それでも。


どこかに、余白がある。


そこに立っているのが、俺なのか。


それとも。


すでに削られた誰かの影なのか。


答えは出ない。


出ないまま、物語は進む



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