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魔王と勇者は、隣の部屋で配信中。  作者: 瀬那
第2章 赤点危機と、深夜の秘密特訓

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第4話

翌朝。

 教室は、いつもより少しだけ熱気を帯びていた。


「おい、昨日の『ベル』と『セラ』のコラボ見たか? あれヤバかったよな!」

「見た見た! 最後のシンクロとかガチで鳥肌立ったわ」

「てぇてぇすぎて尊死するかと思った……」

「喧嘩してるのに仲が良いとか、最強かよ」


 教室のあちこちから飛び交うその単語を、私は机に突っ伏して死んだふりをしながら聞いていた。

 ふっふっふ、愚かな人間どもよ。もっと崇めるがいい。

 貴様らが熱狂しているその「夜魔乃ベル」の正体は、今まさに教室の隅っこで液状化している、この根暗な陰キャ女子・黒井ヤミなのだからな……!


 誰も知らない秘密を一人だけが握っている。この背徳感と優越感こそ、正体隠匿系配信者の醍醐味である。

 私は腕の中でニヤリと口角を上げた。


 だが、次の瞬間。聞こえてきた会話が、私の笑顔を引きつらせた。


「でもさ、ベル様の中身って**『おっさん説』**あるよな」

「あるあるw 昨日の配信でも『キボンヌ』とか言ってたし」

「知識のソースが平成初期なんだよなぁ」

「絶対ネカマだって。あんな可愛いガワ被った、加齢臭のするおっさんだって」


 ――ガッデム!!

 私は思わずガバッと起き上がりそうになった。


 誰がおっさんだ! 私はピチピチの女子高生だ! 肌年齢だって測定不能(魔王だから)なくらい若いんだぞ!

 喉まで出かかった反論を、私はギリギリで飲み込んだ。

 ここで「違うもん!」なんて叫べば、それこそ不審者扱いされて終了だ。


「……ふん。言わせておけばいい」


 私は再び机に顔を埋めた。

 この根暗な私が、あの人気Vtuberだなんて誰も想像もつかないだろう。その圧倒的なギャップこそが、私の最強の鎧なのだ。

 おっさん説くらい、広い心で許してやろうではないか。……後でデスノート(アンチリスト)には書き込んでおくがな。


「――黒井さん。ホームルーム始まりますよ。いつまで寝てるんですか」


 頭上から、冷ややかな声が降ってきた。

 この声、白崎ヒカリだ。

 顔を上げると、クラス委員長モードの彼女が、プリントの束を抱えて呆れ顔で見下ろしていた。


「……うっせーな。寝てない、瞑想だ」

「はいはい。よだれ、拭きなさいよ」


 白崎はため息交じりにそう言うと、私の机にプリントを置いた。

 その瞬間。

 彼女の指先が、プリントの下にサッと小さな紙片を滑り込ませた。


 スパイ映画のような早業だ。周囲の生徒たちは、委員長がダメな生徒を注意しているようにしか見えていないだろう。

 私は周囲を警戒しつつ、その紙片――黄色い付箋ふせんを裏返した。


 そこには、昨日の「古文のノート」と同じ、丸っこくて几帳面な文字でこう書かれていた。


『ちゃんと寝なさい。クマ、ひどいわよ』


 ……お母さんかよ。

 文面から滲み出る心配性に、私は苦笑しつつ、その付箋を筆箱の中に大切にしまった。

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