第24話
メテオ先輩の愚痴は止まらない。
『それでね、「バラされたくなければ焼きそばパンを買ってこい」って言うんだよ!? 信じられる!? 私、先輩なのにパシリだよぉ!』
「そ、それは……災難でしたね。でも、その二人は案外、先輩と仲良くなりたかっただけなんじゃないですか?」
私は必死に自分たちの弁護を試みた。
『ないない! 絶対ない! だって私を見る目が、獲物を狙うハイエナだったもん! 特にあの死んだ魚の目の子! 絶対、私のこと「下僕」だと思ってるよ!』
ぐぬぬ……!
言わせておけば!
「あー……。でも先輩? その『死んだ魚の目の子』も、実は根はいい子かもしれませんよ? ほら、不器用なだけで」
『えー? ベルちゃん、なんでそんな悪魔の肩持つのー?』
痛いところを突かれた。
すると、今まで黙って聞いていた白崎が、涼やかな声で割って入った。
「そうですねぇ。でも、その委員長さんも、きっと先輩のことが好きなんですよ。興味がない相手を体育倉庫になんて呼び出しませんから」
『えっ、好き!? LOVEのほう!?』
「いえ、珍獣を見るような目だと思いますが」
『ひどい!』
白崎は楽しんでいる。
先輩が自分のことをボロクソに言っているのを、ワインでも嗜むように優雅に聞いている。流石だ。
『はぁ……。どうしよう。明日学校行くの怖いよぉ……。また呼び出されたらどうしよう……』
先輩が本気で落ち込んでいる。
これ以上怖がらせて、本当に不登校になられては困る。
私は咳払いを一つして、先輩に(そして自分自身に)アドバイスを送ることにした。
「……先輩。魔王としての助言ですが」
『うん……?』
「その二人は、先輩の秘密を守ってくれているんですよね?」
『う、うん。今のところは……』
「なら、敵ではありません。むしろ『共犯者』です。明日、購買でパンでも買って、「これからもよろしく」と言えば、きっと悪いようにはしませんよ」
『ほ、ほんとぉ?』
「ええ、保証します。特にその死んだ魚の目の子は、激辛ハバネロパンなんかをあげると喜ぶと思いますよ」
『えっ、激辛? なんで?』
「……カンの良い魔王の直感です」
私がそう言うと、先輩はようやく少し安心したように息を吐いた。
『そっかぁ……。ベルちゃんがそう言うなら、頑張ってみる。……ありがとね、二人とも。なんか、その二人のことちょっと分かった気がする』
分かってない。
何も分かっていない。
今まさに会話している相手が、その「悪魔二人組」だということに。
こうして、奇妙な三角関係(?)が成立した。
学校では「いじめっ子といじめられっ子」。
配信では「頼れる後輩と情けない先輩」。
この歪んだ関係がいつまで続くのか、私には見当もつかなかったが……。
明日の昼休み、私の机に置かれるであろうハバネロパンのことだけを考えて、私は密かに喉を鳴らしたのだった。




