第22話
「……なるほど。状況は理解した」
私は腕を組み、目の前で縮こまっている先輩を見下ろした。
魔王(私)、勇者(白崎)、そして伝説の先輩(星野)。
この学校、Vtuberの含有率が高すぎないか?
「それで先輩。なんでまた、あんな王子様キャラのバイトを?」
「だ、だってぇ……」
星野さん(もう面倒だから先輩と呼ぼう)は、涙目でモジモジと言い訳を始めた。
「私、コミュ障だから……。素の自分じゃ誰とも喋れないし……。でも、男装して『カオル』っていうキャラを作れば、別人格になれる気がして……」
「ああ、それは分かるわ」
「分かるのかよ」
「Vtuberだって『アバター』を被れば強気になれるでしょ? あれと同じ原理よ」
白崎の妙に納得した解説に、先輩はコクコクと頷いた。
「そ、そうなんですぅ。カオル君モードの時だけは、私、無敵になれるんです……。でも、一度衣装を脱ぐと、反動でこうなっちゃうんですぅ……」
SとMの正体はこれか。
無理してS(王子様)を演じている反動で、素に戻ると極度のM(弱気)になるということか。
なんて面倒くさい生き物だ。
「で、でもっ! 人違いかもしれませんよ!?」
先輩はまだ諦めていなかった。
立ち上がり、必死に弁明を試みる。
「よ、よく見てください! 私みたいな猫背で暗い女が、あんな輝いてる店員さんなわけないじゃないですか! そ、それに私、ホラ、声もこんなに小さいし……」
「……『萌え萌えビーム』」
私がボソッと呟いた。
先輩がビクッと震える。
「……え?」
「あの絶叫。再現できますか?」
「で、できませんよぉ! コラボ配信の時の、あの恥ずかしいこと!」
「あら、誰も『配信の時の』とは言ってないわよ? なんで内容を知ってるのかしら」
白崎が逃げ場のない詰め将棋を打つ。
先輩の顔色が、青から白、そして土気色へと変わっていく。
「あ……あぅ……」
「それに、あんたのスマホ。……待ち受け画面、自分のアバターよね?」
白崎が指差したのは、先輩の制服のポケットからはみ出していたスマホだ。
画面が光り、そこにはピンク髪のツインテール美少女『神楽メテオ』が映っていた。
王手。
先輩はガックリと膝をつき、乾いた笑い声を漏らした。
「……あは、あはは。……バレちゃった。てへっ☆」
開き直った。
しかし、その顔は絶望に染まっていた。
「お、お願いしますぅ! バラさないでくださいぃぃ! 学校でバレたら私、生きていけません! ただでさえ友達いないのに、これ以上変な目で見られたら不登校になっちゃいますぅ!」
先輩は地面に額を擦り付けんばかりの勢いで土下座の姿勢をとった。
その姿に、威厳もカリスマも欠片もなかった。
私と白崎は顔を見合わせた。
……どうする?
私たちの正体を明かすべきか?
いや、まだ早い。
ここで正体を明かしてしまえば、私たちは「対等な関係」になってしまう。
今の状況は、「先輩の弱みを一方的に握った後輩(一般生徒)」という、圧倒的に優位なポジションだ。
魔王として、これを利用しない手はない。
「……ふむ。白崎よ。どう思う?」
「そうねぇ……。可哀想だし、秘密にしてあげてもいいけど……」
白崎は眼鏡をクイッと押し上げ、邪悪な(いや、勇者らしい)笑みを浮かべた。
「タダってわけにはいかないわよね?」
「ひぃッ!? な、なんでもしますぅ! 焼きそばパンでも買ってきますからぁ!」
こうして。
伝説の1期生・神楽メテオは、私たちの忠実なるパシリ……もとい、秘密の協力者として、下僕契約を結ばされることになったのである。




