第20話
伝説の「自爆コラボ」から数日後。
私の高校生活は、平穏無事に戻ったかに見えた。
昼休み。
私は購買で勝ち取った焼きそばパンを齧りながら、教室の喧騒をBGMに死んだふり(睡眠)をしていた。
隣の席の白崎ヒカリは、委員長としてクラスメイトのプリントを集めたり、先生に提出しに行ったりと忙しそうだ。
「……あ、あのっ、委員長……」
ふと、蚊の鳴くような声が聞こえた。
薄目を開けて横を見る。
白崎の前に、一人の女子生徒が立っていた。
セミロングの黒髪は手入れされているのか怪しいボサボサ具合で、前髪が長すぎて目が隠れている。背中は丸まり、今にも消え入りそうな存在感。
クラスに一人はいる、「名前も思い出せないほど大人しい子」だ。確か名前は……星野さん、だったか?
「ん? どうしたの、星野さん」
「そ、その……提出プリント、遅れてごめんなさい……。あの……」
「大丈夫よ。まだ先生には渡してないから」
「あ、あと……委員長、日曜日にアキバ……行ってたよね?」
――ッ!?
私はパンを喉に詰まらせそうになった。
なぜバレている?
私は完璧な変装(不審者スタイル)だったし、白崎も私服だったはずだ。
白崎の手がピタリと止まる。
彼女はゆっくりと星野さんの方を向いた。眼鏡の奥の瞳が、スナイパーのように細められる。
「……ええ。行ってたけど。見かけたの?」
「あ、う、うん……。その……楽しそうだったなぁって……あはは……」
星野さんは挙動不審に視線を泳がせながら、なぜか冷や汗をダラダラ流している。
そして、去り際にボソッと、独り言のように呟いた。
「……よかったぁ。バレてないっぽい……。危ない危ない、僕の完璧な擬態が崩れるところだった……」
――僕?
今、僕って言ったか?
白崎の耳がピクリと動いた。
次の瞬間、彼女は立ち上がり、私の首根っこを掴んだ。
「ぐえっ!?」
「黒井さん、ちょっと来て。……星野さんも、ちょっと面貸して」
「ひぇっ!? わ、私ぃ!?」
白崎は有無を言わせぬ迫力で、私と、震え上がる星野さんを引き連れて教室を出ていった。
連行される私は思った。
……このパターン、ろくなことにならない予感しかしない。




