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魔王と勇者は、隣の部屋で配信中。  作者: 瀬那
第4章 伝説の先輩と、地獄の答え合わせ

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第19話

試合は佳境を迎えた。

 残り部隊数は3。円(安全地帯)が狭まっていく。


 しかし、最大の敵は目の前のプレイヤーではなく、暴走するリスナーたち(通称:メテオ親衛隊)だった。


『スパチャ:カオルくん! リロードする時「愛してる」って言って!』

『スパチャ:回復する時「君の作った料理みたいだ」って食レポして!』

『スパチャ:グレネード投げる時「僕のハートを受け取れ」って叫んで!』


 画面には、先輩をいじり倒すための高額赤スパ(投げ銭)が嵐のように流れていた。

 メテオ先輩は、ファンサ精神が旺盛すぎるがゆえに、その全てに応えようとしていた。


「あ、愛してるっ!(リロード音:カチャッ)」

「き、君の料理みたいに……甘いね……(回復注射をブスッ)」

「うらぁ! 僕のハートを受け取れぇぇぇ!(グレネード投擲)」


 忙しすぎる。

 操作と演技とスパチャ読みのマルチタスクで、先輩の脳内CPUは限界を迎えていた。


「はぁ、はぁ……! もう無理! 指が足りない! 口が回らない!」

「先輩、落ち着いてください! 敵が詰めてきてます!」


 その時、敵のフルパーティが突っ込んできた。

 激しい銃撃音。爆発。


「うわあああ! 来たあああ! 僕を守ってぇぇぇ!」

『スパチャ:カオルくん、今こそ必殺技だ! 「萌え萌えビーム」撃って!』


 極限状態で、最悪の無茶振りが飛んできた。

 先輩はパニックになりながら、叫んだ。


「くらえええええ! 萌え萌え……ビーーーームッ!!」


 先輩のキャラが、遮蔽物から飛び出して棒立ちになった。

 そして、エモーション(投げキッス)を繰り出した。


 戦場である。

 当然、そんなことをすればどうなるか。


 ダダダダダダダッ!!


 敵3人からの集中砲火。

 一瞬で蜂の巣にされるカオル(メテオ)。


「あべしっ!!」


 ――GAME OVER


 ……全滅した。

 私と白崎も、先輩をカバーしようとして位置バレし、巻き添えを食らったのだ。


 画面には『3位』の文字。

 そして、Discordには重苦しい沈黙が流れた。


「…………」

「…………」


 やがて、スピーカーの向こうから、すすり泣くような声が聞こえてきた。


『……うぅ……。なんでぇ……。完璧だったのにぃ……』


 メテオ先輩は泣いていた。

 王子様の仮面は粉々に砕け散り、ただの「いじられすぎてキャパオーバーした女の子」に戻っていた。


 コメント欄も、さすがにやりすぎたと思ったのか、スンッ……と静まり返り、憐れみの言葉が流れ始めた。


『あーあ……』

『やっちゃったね』

『おもちゃにしすぎたわ』

『メテオちゃん、よしよし』

『面白かったけど、最後は虚無だったなw』

『ドンマイケル』


 私は大きなため息をつき、隣の部屋(の方向)を向いた。

 おそらく白崎も、同じような「やれやれ」という顔をしているだろう。


「……えーと。先輩、ドンマイです。ナイスファイトでした」

「そうですよ。最後のエモーション、敵の視線を釘付けにしてました。囮としては一流でしたよ」


 私たちが必死に(棒読みで)フォローを入れる。

 すると、先輩は鼻をズズッとすすりながら、か細い声で言った。


『……ホントに? 僕、かっこよかった? ……あ、間違えた。私、頑張った?』


 その声は、SでもMでもなく、ただの自信のない小動物のようだった。

 私はモニターの前で、今日一番の深いため息をついた。


「はいはい。頑張りましたよ。……今度、またお店に行きますから。オムライス、サービスしてくださいね」


 そう言うのが精一杯だった。

 伝説の1期生。カリスマVtuber神楽メテオ。

 その幻想は、アキバの空へと儚く消え去った。


 残ったのは、「いじられキャラの先輩」という、ある意味でもっと扱いやすい(そして面倒くさい)存在だけだった。

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