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魔王と勇者は、隣の部屋で配信中。  作者: 瀬那
第4章 伝説の先輩と、地獄の答え合わせ

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第17話

「はい、どーもー! 今日は可愛い後輩ちゃんたちを侍らせて、戦場で蜂の巣にされに来ました! 神楽メテオでーす!」


 配信が始まった途端、メテオ先輩のテンションがギアを上げた。

 画面には、彼女のトレードマークであるピンク髪のツインテールアバターと、私とセラの立ち絵が並んでいる。同接(視聴者数)はすでに5万人を超えている。化け物だ。


『メテオちゃんちーっす』

『今日は新人をいじり倒すのか?』

『いや、逆に介護される予感』

『魔王と勇者と変態のコラボ』


「こらリスナーども! 誰が変態だ! 私はただ、撃たれる快感に正直なだけだぞ!」


 先輩は嬉しそうにコメントとプロレスをしている。

 私たちは恐る恐るゲームのマッチングを開始した。


「えーと、メテオ先輩。今日は私が前衛タンクをやりますので、先輩は後ろから援護を……」

「えー、やだぁ。私、一番前で特攻して敵のヘイト集めたい~」

「死にますよ!?」

「いいのいいの! 『きゃあっ、撃たないでぇ!』って言いながらハチの巣にされるのが私の役目だから!」


 ダメだこの人。会話が通じない。

 私は頭を抱えた。だが、ゲームが始まってみると、意外な展開になった。


 私の新PCが火を噴いたのだ。


「――そこだッ! ふはは、見える! 今の私には弾道が見えるぞ!」


 ババン!

 私が飛び出し、敵を瞬殺する。


「ナイスですベルちゃん! 右からも来てます!」

「任せろ! ……よし、制圧完了!」


 白崎の的確な指示と、私の(PCスペックのおかげによる)神エイム。3期生の連携は完璧だった。

 一方、メテオ先輩はというと。


「あんぎゃああああ! 痛い痛い! お尻撃たれた! もっと撃って!」

「先輩! 射線に出ないでください!」

「あはは、ごめーん! なんか敵がいると近づきたくなっちゃって~」


 先輩は戦場を駆け回りながら、奇声を上げている。

 ……が、不思議と生存している。

 敵の弾を避けまくっているのだ。無駄な動きが多いのに、なぜか被弾しない。


「(……なんだあの動き。マグレか? それとも天才的な回避スキルか?)」


 私たちは連戦連勝を重ねた。

 チャンピオン(1位)を取るたびに、メテオ先輩は「やったー! 二人ともすごーい! 私何もしてないのに勝てたー!」とはしゃいだ。


 そして、事件はマッチングの待機時間に起きた。


「いやー、二人ともホント上手だねぇ。アキバでPC買った甲斐があったねぇ、ベルちゃん」

「えっ」


 私はマウスを動かす手を止めた。

 今、さらっと言ったな?


「……あの、先輩。なぜ私がアキバでPCを買ったことを? まだ配信では『新調した』としか言っていないはずですが」

「え? あー、いやだなぁ。風の噂? 地獄耳? あはは」


 メテオ先輩は笑って誤魔化そうとしたが、口が滑らかに動き続けた。


「ていうかさー、最近のPCショップってすごいよね。私もこないだバイトの休憩中に見に行ったんだけどさ」


 バイト?

 登録者100万人のVtuberがバイト?

 コメント欄も『バイト?』『メテオちゃんまだ働いてるの?』とざわつく。


「あ、言っちゃったw まあいいや。私さぁ、男装コンカフェで働いてるんだけど~」

「ブッ!!」


 私は飲んでいたコーラを吹き出しそうになった。

 男装コンカフェ。

 どこかで聞いた響きだ。いや、つい数日前に行った場所だ。


「そこになんか面白い二人組が来てさぁ~。一人は全身黒ずくめの不審者みたいなカッコで、もう一人は肩出しの超絶美少女なんだけど」


 ――ッ!?

 私と白崎は、Discord越しに息を飲んだ。

 黒ずくめ。肩出し。

 条件が一致しすぎている。


「でねでね、その黒い子がまたチョロくてさぁ。私が『お姫様』って呼んであげたら、顔真っ赤にしてホイホイついてくるの! めっちゃ可愛かった~w」


 私の顔から血の気が引いた。

 あの客引きの美少年『カオル』。

 あの完璧なSっ気の王子様。


 あれが、今この「撃ってくださいぃぃ!」と叫んでいるドM先輩と同一人物だと!?


「ほ、ほんげぇぇぇぇ!?」

「ちょ、ベルちゃん!? 変な声出さないで!」


 私が奇声を上げると、メテオ先輩はさらに続けた。


「極めつけはチェキだよ! 私さ、普段は完璧なんだけど、その時はなんか調子悪くてさー。5回くらい連続でミスっちゃったんだよね」


 確定だ。

 間違いない。

 あのポンコツ店員カオルは、神楽メテオだ!


「指が入っちゃったり、フィルムばら撒いたりしてさぁ~。あの時の二人の『こいつ大丈夫か?』って顔、今思い出してもゾクゾクするわぁ♡」


 先輩は楽しそうに語っている。

 自分が今、コラボ相手の黒歴史チョロかったことと、自分の正体カオルを同時にバラしていることに気づいていない。


 私は震える声で、恐る恐る尋ねた。


「せ、先輩……。もしかして、その時の黒い服の客……オムライスに『大好き』って書かれて、死にそうな顔して食べてませんでしたか?」

「ん? そうそう! よく分かったね! ……あれ?」


 そこでようやく、メテオ先輩の声が止まった。


『え、なんでベルちゃんがそれ知ってるの?』


 沈黙。

 数万人が見守る配信の中で、気まずすぎる静寂が流れる。


 先に口を開いたのは、白崎セラだった。

 彼女は、あの時と同じ、冷ややかで、しかし楽しそうな声色で言った。


「……やっぱり、あの時の店員さん、先輩だったんですね。カオルさん?」


『……………………ひゃ?』


 メテオ先輩の素っ頓狂な声が響き渡った。


『う、うそ……。え、じゃあ、あの時の不審者がベルちゃんで……肩出しちゃんがセラちゃん!?』

「誰が不審者だッ!! 貴様のせいで大量の失敗チェキを持ち帰る羽目になったんだぞ!!」


 私は我慢できずに叫んでしまった。

 コメント欄が爆発的な速度で流れていく。


『ファッ!?』

『つながったwww』

『カオル=メテオ確定』

『不審者ベル様www』

『世間狭すぎだろ』

『伝説の伏線回収』


「あ、あわわわ……! ち、違うの! カオル君は私の遠い親戚で……双子の弟で……!」

「無理がありますよ先輩。フィルムばら撒いた話、完全に一致してますから」


 白崎が冷静に詰める。

 メテオ先輩――いや、カオルは、追い詰められて素が出たのか、急にイケボ(王子様ボイス)になった。


「……くっ。バレてしまっては仕方ない。そうだよマイ・プリンセスたち。あの時の僕は、仮の姿さ」

『イケボで草』

『キャラ迷子www』

『Sなの? Mなの?』


「どっちなんですか先輩! SなんですかMなんですか!」

「ど、どっちもだよ! 普段はSだけど、いじめられると輝くハイブリッドなんだよ!」


 開き直った。

 こうして、伝説の先輩との初コラボは、互いの黒歴史を暴露し合う、地獄の答え合わせ配信へと変貌したのだった。

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