第17話
「はい、どーもー! 今日は可愛い後輩ちゃんたちを侍らせて、戦場で蜂の巣にされに来ました! 神楽メテオでーす!」
配信が始まった途端、メテオ先輩のテンションがギアを上げた。
画面には、彼女のトレードマークであるピンク髪のツインテールアバターと、私とセラの立ち絵が並んでいる。同接(視聴者数)はすでに5万人を超えている。化け物だ。
『メテオちゃんちーっす』
『今日は新人をいじり倒すのか?』
『いや、逆に介護される予感』
『魔王と勇者と変態のコラボ』
「こらリスナーども! 誰が変態だ! 私はただ、撃たれる快感に正直なだけだぞ!」
先輩は嬉しそうにコメントとプロレスをしている。
私たちは恐る恐るゲームのマッチングを開始した。
「えーと、メテオ先輩。今日は私が前衛をやりますので、先輩は後ろから援護を……」
「えー、やだぁ。私、一番前で特攻して敵のヘイト集めたい~」
「死にますよ!?」
「いいのいいの! 『きゃあっ、撃たないでぇ!』って言いながらハチの巣にされるのが私の役目だから!」
ダメだこの人。会話が通じない。
私は頭を抱えた。だが、ゲームが始まってみると、意外な展開になった。
私の新PCが火を噴いたのだ。
「――そこだッ! ふはは、見える! 今の私には弾道が見えるぞ!」
ババン!
私が飛び出し、敵を瞬殺する。
「ナイスですベルちゃん! 右からも来てます!」
「任せろ! ……よし、制圧完了!」
白崎の的確な指示と、私の(PCスペックのおかげによる)神エイム。3期生の連携は完璧だった。
一方、メテオ先輩はというと。
「あんぎゃああああ! 痛い痛い! お尻撃たれた! もっと撃って!」
「先輩! 射線に出ないでください!」
「あはは、ごめーん! なんか敵がいると近づきたくなっちゃって~」
先輩は戦場を駆け回りながら、奇声を上げている。
……が、不思議と生存している。
敵の弾を避けまくっているのだ。無駄な動きが多いのに、なぜか被弾しない。
「(……なんだあの動き。マグレか? それとも天才的な回避スキルか?)」
私たちは連戦連勝を重ねた。
チャンピオン(1位)を取るたびに、メテオ先輩は「やったー! 二人ともすごーい! 私何もしてないのに勝てたー!」とはしゃいだ。
そして、事件はマッチングの待機時間に起きた。
「いやー、二人ともホント上手だねぇ。アキバでPC買った甲斐があったねぇ、ベルちゃん」
「えっ」
私はマウスを動かす手を止めた。
今、さらっと言ったな?
「……あの、先輩。なぜ私がアキバでPCを買ったことを? まだ配信では『新調した』としか言っていないはずですが」
「え? あー、いやだなぁ。風の噂? 地獄耳? あはは」
メテオ先輩は笑って誤魔化そうとしたが、口が滑らかに動き続けた。
「ていうかさー、最近のPCショップってすごいよね。私もこないだバイトの休憩中に見に行ったんだけどさ」
バイト?
登録者100万人のVtuberがバイト?
コメント欄も『バイト?』『メテオちゃんまだ働いてるの?』とざわつく。
「あ、言っちゃったw まあいいや。私さぁ、男装コンカフェで働いてるんだけど~」
「ブッ!!」
私は飲んでいたコーラを吹き出しそうになった。
男装コンカフェ。
どこかで聞いた響きだ。いや、つい数日前に行った場所だ。
「そこになんか面白い二人組が来てさぁ~。一人は全身黒ずくめの不審者みたいなカッコで、もう一人は肩出しの超絶美少女なんだけど」
――ッ!?
私と白崎は、Discord越しに息を飲んだ。
黒ずくめ。肩出し。
条件が一致しすぎている。
「でねでね、その黒い子がまたチョロくてさぁ。私が『お姫様』って呼んであげたら、顔真っ赤にしてホイホイついてくるの! めっちゃ可愛かった~w」
私の顔から血の気が引いた。
あの客引きの美少年『カオル』。
あの完璧なSっ気の王子様。
あれが、今この「撃ってくださいぃぃ!」と叫んでいるドM先輩と同一人物だと!?
「ほ、ほんげぇぇぇぇ!?」
「ちょ、ベルちゃん!? 変な声出さないで!」
私が奇声を上げると、メテオ先輩はさらに続けた。
「極めつけはチェキだよ! 私さ、普段は完璧なんだけど、その時はなんか調子悪くてさー。5回くらい連続でミスっちゃったんだよね」
確定だ。
間違いない。
あのポンコツ店員カオルは、神楽メテオだ!
「指が入っちゃったり、フィルムばら撒いたりしてさぁ~。あの時の二人の『こいつ大丈夫か?』って顔、今思い出してもゾクゾクするわぁ♡」
先輩は楽しそうに語っている。
自分が今、コラボ相手の黒歴史と、自分の正体を同時にバラしていることに気づいていない。
私は震える声で、恐る恐る尋ねた。
「せ、先輩……。もしかして、その時の黒い服の客……オムライスに『大好き』って書かれて、死にそうな顔して食べてませんでしたか?」
「ん? そうそう! よく分かったね! ……あれ?」
そこでようやく、メテオ先輩の声が止まった。
『え、なんでベルちゃんがそれ知ってるの?』
沈黙。
数万人が見守る配信の中で、気まずすぎる静寂が流れる。
先に口を開いたのは、白崎だった。
彼女は、あの時と同じ、冷ややかで、しかし楽しそうな声色で言った。
「……やっぱり、あの時の店員さん、先輩だったんですね。カオルさん?」
『……………………ひゃ?』
メテオ先輩の素っ頓狂な声が響き渡った。
『う、うそ……。え、じゃあ、あの時の不審者がベルちゃんで……肩出しちゃんがセラちゃん!?』
「誰が不審者だッ!! 貴様のせいで大量の失敗チェキを持ち帰る羽目になったんだぞ!!」
私は我慢できずに叫んでしまった。
コメント欄が爆発的な速度で流れていく。
『ファッ!?』
『つながったwww』
『カオル=メテオ確定』
『不審者ベル様www』
『世間狭すぎだろ』
『伝説の伏線回収』
「あ、あわわわ……! ち、違うの! カオル君は私の遠い親戚で……双子の弟で……!」
「無理がありますよ先輩。フィルムばら撒いた話、完全に一致してますから」
白崎が冷静に詰める。
メテオ先輩――いや、カオルは、追い詰められて素が出たのか、急にイケボ(王子様ボイス)になった。
「……くっ。バレてしまっては仕方ない。そうだよマイ・プリンセスたち。あの時の僕は、仮の姿さ」
『イケボで草』
『キャラ迷子www』
『Sなの? Mなの?』
「どっちなんですか先輩! SなんですかMなんですか!」
「ど、どっちもだよ! 普段はSだけど、いじめられると輝くハイブリッドなんだよ!」
開き直った。
こうして、伝説の先輩との初コラボは、互いの黒歴史を暴露し合う、地獄の答え合わせ配信へと変貌したのだった。




