第16話
その通達が届いたのは、私が最強のPCを手に入れて調子に乗っていた、翌日のことだった。
『お疲れ様です。マネージャーです。
急な話ですが、1期生の神楽メテオさんが、3期生のお二人とFPSコラボをしたいそうです。
日時は明日。拒否権はありません(メテオさんの強い希望です)』
そのメッセージを見た瞬間、私はスマホを取り落とし、隣の壁に向かって叫んでいた。
「お、おい白崎ぃぃぃぃ!! 大変だ! 緊急事態だ!!」
「うるさいわね! 壁越しに叫ばないでLINEしてよ!」
すぐに壁の向こうから怒号が返ってきたが、それどころではない。
神楽メテオ。
それは、我が事務所『ライブ・ミトス』の創設メンバーであり、チャンネル登録者数100万人を超える生ける伝説。
可愛らしい見た目に反して、予測不能なトークと奇行でリスナーを翻弄する、文字通りの「天災」だ。
「ど、どうする! あの大先輩とコラボだぞ!? 粗相があったら私の角をへし折られて、きな粉をまぶして出荷されてしまう!」
「あんたの角は飾りでしょ。……でも、確かに緊張するわね。まさか雲の上の存在から指名が来るなんて」
私たちは戦々恐々としながら、その時を待った。
まさか、その「雲の上の存在」の正体が、先日アキバで出会ったあのポンコツ店員だとは夢にも思わずに。
◇
そして翌日、二十一時。
コラボ配信の枠が立ち上がった。
私たちは事前にDiscordの通話部屋に入り、先輩の到着を待っていた。
私の心臓は早鐘を打ち、手汗でマウスが滑りそうだ。
「……おい白崎。挨拶の練習はしたか? 『お初にお目にかかります、下っ端の魔王です』でいいか?」
「へりくだりすぎよ。普段どおりにしなさい、普段どおりに。……あ、入ってこられたわよ!」
ピロン♪ という入室音と共に、伝説のアイコンが点灯した。
「あ、あのっ! お疲れ様です! 3期生の天聖セラです!」
「よ、夜魔乃ベルである! よよよ、よろしくお願いします!」
私たちが直立不動(座っているが)で挨拶すると、スピーカーから先輩の声が響いた。
『あ、おつメテオ~。神楽メテオだよ~』
……ん?
なんだ、この気の抜けた声は。
伝説のカリスマと聞いていたが、想像以上にフワフワしているというか、頼りなさげな声だ。
『いやー、来てくれてありがとねぇ。私さぁ、最近ボッチすぎてFPSのパーティ組めなくて泣いてたんだよねぇ。だから二人が来てくれてマジ助かるぅ。踏んでいいよ?』
「……はい?」
今、変な言葉が聞こえなかったか?
『あ、ごめんごめん。嬉しすぎてMの血が騒いじゃったw 今日はいっぱいキャリー(運搬)してね? 私、撃たれるのは得意だけど撃つのは苦手だからさぁ♡』
……どうやらこの先輩、ドMらしい。
噂には聞いていたが、想像以上だ。
「(おい白崎……。どういうことだ。聞いていたキャラと違うぞ)」
「(しっ! 配信始まるわよ!)」
困惑の中、伝説の3人コラボFPS配信が幕を開けた。




