閑話 あるいは、ゲーミングPCが七色に光る理由
魔王城(6畳一間)、光る
日曜日、二十一時。
秋葉原から帰還した私たちは、私の部屋(201号室)で、買ってきた戦利品の山と格闘していた。
「……おい白崎。この『CPUグリス』とやらは、パンに塗るクリームではないのか?」
「違うわよ。絶対食べないでね。……あと、マザーボードを素手でベタベタ触らない。静電気で死ぬわよ(パーツが)」
白崎は腕まくりをして、ドライバーを片手に手際よく作業を進めている。
一方、私は横で説明書(英語)を眺めて唸っているだけだ。戦力外通告である。
「よし、CPU装着完了。次はメモリね。ベルちゃん、そこの細長い板とって」
「これか。……ふん、こんな薄い板に記憶が宿るとはな」
「カチッと音がするまで押し込むの。……あ、逆! 切り欠きの位置見て!」
「ぬおお! 硬い! 入らん! パワーでねじ込めば……!」
「ストップ! 折れる! 5万が折れる!!」
危うく大惨事になるところだった。
白崎は私の手からメモリを奪い取ると、サクッ、カチッ、と魔法のように一瞬で嵌め込んでしまった。
「はぁ……。あんたに任せると破壊しそうだから、もう見てて。応援だけしてて」
「む……。フレ、フレ、勇者~」
「棒読みすぎ」
その後も、白崎の作業は続いた。
特に大変だったのは配線だ。
彼女は床に這いつくばり、机の下に潜り込んでケーブルを整理し始めた。
「ん……しょ。ここの裏配線が……届かない……」
「お、おい白崎。スカートでそんな格好をするな。目のやり場に困るだろう」
「あんたの部屋なんだから誰も見てないでしょ。……あ、ライト貸して」
「ほらよ(スマホのライトを向ける)」
埃っぽい机の下で、勇者が汗を拭いながら作業をしている。
その横顔は真剣そのもので、秋葉原で見せた「デートの顔」とはまた違う、「職人の顔」をしていた。
……正直、かっこいいと思ってしまったのは内緒だ。
そして、一時間後。
「――よし。完成」
全てのパーツが黒いケースに収まり、蓋が閉じられた。
私たちはゴクリと息を飲んで、電源ボタンを見つめた。
「いくわよ、ベルちゃん。ポチッとな」
「うむ。点火!」
ブォン……。
静かなファンの回転音と共に、PCが目覚める。
次の瞬間。
ピカーッ! キラキラキラ……!
ケースの中のファンが、メモリが、そしてグラフィックボードが、赤、青、緑、紫と、目まぐるしく発光し始めた。
「うわっ、眩しッ!?」
「おお……! 光った! 虹色に輝いているぞ!」
「最近のゲーミングパーツは、とりあえず光らせるのが流行りなのよ」
「なんと……! これが『ゲーミング』の輝きか! まるで魔界のネオン街(歓楽街)のようだな!」
薄暗い6畳一間が、ディスコのように照らし出される。
無駄に派手だ。だが、その無駄さがたまらなくカッコイイ。
「ありがとう、白崎。……これは、いいものだ」
「ふふ、喜んでもらえて何よりよ。これで明日からの配信、言い訳できないわね?」
「うぐっ……善処する」
SNSの反応まとめ
トレンド:#ベル様高画質化
@古参リスナー
ベル様の配信、画質良すぎて草。
今までドット絵みたいだったのに、急に実写レベル(言い過ぎ)になったぞ。
毛穴まで見える勢い。
@新規ファン
PC新調したって言ってたけど、スペック高すぎない?
ヌルヌル動きすぎて、ベル様のポンコツエイムが鮮明に見えるの面白いwww
あと、叫び声がクリアになりすぎて音量注意テロップが必要になった。
@特定班A
ベル様がアップした「新しいPC」の写真、机の端に映り込んでるコンビニのプリン……。
これ、セブンイレブンの新作だよな?
あと、このケーブルの結束バンドの縛り方、プロの犯行だろ。ベル様にこんな几帳面な配線ができるはずがない。
結論:業者がやったか、"誰か"が家に来ていた。
@考察厨B
>>特定班A
日曜日にアキバで目撃情報あったぞ。
「黒ずくめの不審者」と「肩出しの超絶美少女」がPCショップにいたらしい。
……まさかな。
失敗チェキの行方
組み立てが終わった後。
白崎は自分の部屋(202号室)へ戻る前に、あるものを私に手渡してきた。
「はい、これ」
「ん? これは……コンカフェのチェキか?」
渡されたのは、カオル(神楽メテオ)がミスりまくった失敗チェキの束だ。
指が入っていたり、ブレていたりする心霊写真のような代物。
「捨てておくのも勿体ないし、半分こしましょ。……ネタになるかもしれないし」
「ネタって……。こんなもん、魔除けにしかならんぞ」
私はブツブツ言いながらも、その中の一枚を手に取った。
それは、唯一「まともに撮れた」一枚。
……といっても、カオルが目をつぶってしまっている失敗作なのだが。
しかし、その隣に写っている私は、オムライスを前にして、驚くほどマヌケで、楽しそうな顔をしていた。
そして私の反対側には、見切れているけれど、ピースサインをする白崎の手と、その笑顔が半分だけ写り込んでいる。
「……ま、貰っておいてやる」
「大切にしなさいよ? じゃ、おやすみ」
白崎はヒラヒラと手を振って、ベランダ越しに自分の部屋へと帰っていった。
私は部屋に一人残され、七色に光るPCの明かりの中で、そのチェキをデスクのマットの下にそっと挟み込んだ。
最強のPCと、一枚の失敗チェキ。
私のデスク周りは、少しずつ賑やかになっていく気がした。




