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魔王と勇者は、隣の部屋で配信中。  作者: 瀬那
第3章 魔王と勇者の秋葉原デート(※買い出しです)

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第12話

店を出た時、私の両手は物理的に塞がっていた。


 右手にはCPUとマザーボードが入った大きな紙袋。

 左手にはメモリ、SSD、そしてなぜか白崎に「これだけは買っておけ」と強く推された高性能マイクの箱。


「ぬぐぐ……重い。重力魔法がかかっているのか、この荷物は」

「文句言わない。あんたが『魔王の筋力を見くびるな!』って言って全部持ったんでしょ」


 隣を歩く白崎は、小さなハンドバッグ一つで涼しい顔をしている。

 くそう、確かに言った。言ったが、精密機器の塊がこれほどズッシリくるとは。私の二の腕(筋肉質と言い張っているが実はプニプニ)が悲鳴を上げている。


「……まあいい。それより白崎、昼はどうする?」

「んー、もう12時過ぎてるわね。どこかで食べてく?」

「うむ。貴様の助言のおかげで、72万円の出費が数万円で済んだからな。浮いた金で、昼飯くらいは私が奢ってやろう」


 私が太っ腹な提案をすると、白崎は目を丸くした。


「へえ、珍しい。じゃあ、お言葉に甘えようかな。何がいい?」

「肉だ。とにかく肉が食いたい。失われたカロリーを補給せねば」


 私たちは「肉」を求めて、アキバの雑踏を彷徨った。

 しかし、日曜の昼時だ。どこの店も行列ができている。

 重い荷物を持って行列に並ぶのは、拷問に近い。


「……ぬぅ。どこも満員ではないか。人間界の人口密度はどうなっているんだ」

「仕方ないわよ。路地裏の方なら空いてるかも……あ、ちょっとベルちゃん、そっちは!」


 白崎が何か言おうとしたが、私は空腹と疲労で思考力が低下しており、ふらふらと人通りの少ない路地へと足を踏み入れてしまった。


 その時だった。


「――そこの麗しいお姫様方プリンセス。お食事場所をお探しかな?」


 不意に、甘いバリトンボイスが降ってきた。

 顔を上げると、そこには一人の「美少年」が立っていた。

 すらりと高い身長。燕尾服のようなシックな制服。整えられたショートヘアに、切れ長の瞳。

 まるで少女漫画から飛び出してきたようなイケメンだ。


「む? なんだ貴様は」

「おやおや、大荷物で大変そうだね。僕たちのサロンで、少し羽を休めていかないかい? 極上のローストビーフを用意して待っているよ」


 ……城?

 サロン?

 そして、極上の肉?


 私の脳内で、いくつかのキーワードがカチリと噛み合った。

 この男、ただ者ではない。私の「魔王としての品格オーラ」を感じ取り、城へと招待しようとしているのか!


「ほう……。見る目があるではないか。私の正体を見抜いての招待か?」

「もちろんだとも。君のような気高いレディには、騒がしい大通りよりも、僕たちの優雅な空間がお似合いだ」


 男は優雅に一礼し、手招きをした。

 完璧だ。この礼儀作法、魔界の執事にも劣らない。


「いいだろう! 案内せよ! ちょうど貴様のような忠実な下僕シモベが欲しかったところだ!」

「光栄だよ、マイ・レディ」


 私はすっかり上機嫌になり、ホイホイと男の後をついて行った。

 後ろで白崎が「ちょっ、ベルちゃん!? 待ちなさい、それ客引きよ! しかもその人……!」と叫んでいたが、空腹の魔王の耳には届かなかった。


          ◇


 案内されたビルの地下。

 重厚な扉を開けると、そこは別世界だった。


「いらっしゃいませ、プリンセス」


 シャンデリアが輝く店内。

 赤絨毯が敷かれ、クラシック音楽が流れる優雅な空間。

 そして何より――店内にいるスタッフ全員が、先ほどの客引き同様、宝塚歌劇団も裸足で逃げ出すような「麗しの美少年(男装)」たちだったのだ。


 そう。ここはアキバ名物の一つ。

 『男装コンセプトカフェ・王宮の騎士団』。


「……な、なんだここは。イケメンしかいないぞ」


 席に通され、ようやく事態を把握した私は、キョロキョロと周囲を見渡した。

 客層は女性ばかり。みんな目をハートにして、推しのキャストと会話を楽しんでいる。


「はぁ……。だから言ったじゃない。ここ、男装コンカフェよ」


 向かいの席に座った白崎が、深いため息をついた。

 しかし、彼女の表情は怒っているというより、どこか面白がっているようにも見える。


「男装……? ということは、さっきの男も、周りの騎士たちも、全員……女なのか?」

「そうよ。よく出来てるでしょ? ……ふふ、あんた、チョロすぎ。あんなテンプレな客引きに引っかかるなんて」

「う、うるさい! 『城』とか『姫』とか言われたら、悪い気はしないだろう!」


 私が顔を赤くして反論していると、先ほどの案内役――源氏名『カオル』が、メニュー表を持ってやってきた。


「お待たせしました、姫。こちらがメニューになります」


 カオルは流れるような動作で片膝をつき、上目遣いで私を見つめた。

 至近距離で見ると、確かに化粧をしているが、それが余計に妖艶さを醸し出している。


「き、貴様……近いぞ」

「おや、照れている顔も可愛いね。……こちらの『禁断の誓い(オムライス)』に、僕が愛の魔法をかけてあげることもできるけど?」


 愛の魔法。

 つまり、ケチャップでお絵かきか。

 私はゴクリと喉を鳴らした。普段なら「くだらん」と一蹴するところだが、この空間の魔力に当てられたのか、妙にドキドキしてしまう。


「……じゃ、じゃあ、そのオムライスと、ローストビーフを所望する」

「かしこまりました。……そちらの美しい姫君は?」


 カオルが白崎の方を向く。

 白崎は頬杖をつき、余裕たっぷりの微笑みを浮かべていた。


「私はアイスティーだけでいいわ。……あ、でも」


 白崎は少し身を乗り出し、カオルの耳元で何かを囁いた。

 カオルが一瞬驚いた顔をし、すぐに「承知しました」とウインクをする。


「おい、何を頼んだんだ?」

「内緒。……ふふ、たまにはこういうのも悪くないわね」


 白崎は楽しそうに目を細めた。

 肩出しの服に、優雅なティータイム。この空間に馴染みすぎている。

 一方、私は重い荷物を足元に置き、黒ずくめの服でソワソワしている不審者だ。


(くそっ……魔王たるもの、この程度の空気(アウェー感)に飲まれてたまるか!)


 私は虚勢を張って腕を組んだが、この後、運ばれてきたオムライスに「ベルちゃん大好き♡」と書かれることになり、恥ずかしさで爆発四散することになるのを、まだ知る由もなかった。


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