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魔王と勇者は、隣の部屋で配信中。  作者: 瀬那
第3章 魔王と勇者の秋葉原デート(※買い出しです)

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第11話

 秋葉原、電気街口。

 雑多な看板と電子音が溢れるその街は、私にとって未知のダンジョンそのものだった。


「ほう……ここが電脳の魔都、アキハバラか。空気が違うな。微細な魔力(静電気)が肌を刺すようだ」

「はいはい、ただの乾燥よ。行くわよ」


 私は白崎に先導され、大通り沿いにある黒い看板のPCパーツショップへと足を踏み入れた。

 自動ドアが開くと、独特の「基盤の匂い」が鼻腔をくすぐる。

 店内には、色とりどりに光るファンや、無骨な黒い箱、そして値札のついた精密機器が所狭しと並んでいる。


「うむ、壮観だな。まるで武器屋だ」

「で? あんた、目星はつけてるの?」


 PCケースの森を抜けながら、白崎が聞いてきた。

 私は待っていましたとばかりに、懐から一枚の紙を取り出した。


「ふふふ、愚問だな勇者よ。私は昨晩、徹夜でリサーチを行い、最強の心臓(CPU)を見つけ出したのだ!」

「へえ、殊勝な心がけじゃない。で見せてみなさいよ」

「これだ! この『購入予約票』をレジに出せば、最強の力が手に入る!」


 私はババン! とその紙を突きつけた。

 それは、ネットショップで「価格が高い順」に並び替え、一番上にあったものをプリントアウトした紙だ。


 白崎はそれを覗き込み――そして、時が止まったように固まった。


「……は?」


 彼女の美しい顔が、信じられないものを見るように引きつっていく。


「……ねえ、ベルちゃん」

「なんだ。その圧倒的なスペックに言葉を失ったか?」

「あんた……バカなの?」

「なっ!?」


 白崎は震える指で、その紙に書かれた商品名を指差した。


『AMD Ryzen Threadripper PRO 5995WX』


 そして、その横にある値段を読み上げた。


「ろくじゅう……60万円!?」


 店内に、白崎の裏返った声が響いた。

 周囲の客(主にメカに詳しそうな男性たち)が一斉にこちらを振り返る。


「ちょ、声がデカイぞ白崎! 60万がどうした! 私の全財産(収益)を叩けば買えなくはない金額だ!」

「買える買えないの問題じゃないわよ! あんた、これ何だか分かってるの!?」

「何だと? ……スレッドリッパー? 名前からして強そうではないか。『糸を切り裂く者』だぞ? 魔王に相応しい厨二ネームだ!」


「だからって業務用サーバーみたいなCPU買うやつがあるかーッ!!」


 バシン! とスリッパで叩くような勢いで、肩を叩かれた。

 白崎はハァハァと肩で息をしながら、私の目の前で人差し指を立てた。


「いい? よく聞きなさい。これはね、ハリウッド映画のCGを作ったり、科学技術計算をしたりするスーパーコンピューター用のパーツなの! Vtuberが雑談とかマインクラフトするのに使うもんじゃないの!」

「む……そ、そうなのか?」

「そうよ! 大体ね、CPUだけで60万もしたら、それを取り付けるマザーボードも10万以上するし、電源だって特大のが要るの! 合計100万コースよ! あんた破産する気!?」


 100万。

 その響きに、私はサッと血の気が引いた。

 危ない。魔王軍の資金(貯金)が一瞬で消し飛ぶところだった。


「し、しかし……コア数が64個もあるのだぞ? 64人の兵士が一度に働いてくれるのだぞ?」

「60人もいて何させるのよ! 58人くらいニートになるわよ!」


 的確すぎるツッコミだ。

 私はすごすごと72万円の予約票を引っ込めた。


「……じゃあ、どれを買えばいいんだ」

「はぁ……。だから私がついてきたんじゃない」


 白崎は呆れ顔でため息をつくと、私の手を引いて、別の棚へと歩き出した。

 その手は温かく、少しだけ汗ばんでいた。


「あんたの用途なら、こっちの『Ryzen 7』か、せめて『9』で十分すぎるくらいよ。余ったお金で、良いマイクとかオーディオインターフェース買ったほうが幸せになれるわ」

「お、おう……。詳しいな、お前」

「伊達に3年も配信やってないわよ。……ほら、これなら5万円でお釣りが来るわ」


 彼女が指差したパッケージはずっと小さくて安かったが、なぜかさっきの60万円の紙切れよりも輝いて見えた。


「……かたじけない。勇者の知識に救われたな」

「べ、別に。あんたが無駄遣いして、来月のコラボで『電気代払えないから配信できない』とか言われたら困るだけだし」


 白崎はプイッと顔を背けたが、その露出した肩がほんのり赤くなっているように見えた。

 私は心の中で、幻の最強武器『スレッドリッパー』に別れを告げ、身の丈に合った武器を手に取った。


 だが、この時の私は知らなかった。

 PCパーツ選びなど、今日のデートのほんの序章に過ぎないことを。

 この後、アキバの街でさらなる試練が待ち受けていることを――。

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