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魔王と勇者は、隣の部屋で配信中。  作者: 瀬那
第3章 魔王と勇者の秋葉原デート(※買い出しです)

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第10話

日曜日、午前九時五十分。

 私は駅前の待ち合わせ場所に立っていた。


 周囲を行き交う人々は、休日の解放感に表情を緩ませている。

 だが、私の表情は硬かった。まるで勇者との決戦に向かう前のような緊張感。

 それもそのはず。今日の私は、いつものジャージ姿ではないからだ。


「……ふっ。見よ、この完璧な擬態を」


 私はショーウィンドウに映る自分を確認し、不敵に笑った。

 今日のファッションテーマは『闇の貴婦人ダーク・レディ』である。


 足首まである黒のロングスカート。

 首元までしっかりボタンを留めた、黒のハイネックブラウス。

 その上には薄手の黒カーディガンを羽織り、頭には深めのキャスケットを目深に被っている。


 露出面積は顔と手先のみ。紫外線(日光属性の攻撃)を完全にシャットアウトする、魔王に相応しい鉄壁の防御スタイルだ。

 「ちゃんとした服で来い」と言われたからな。タンスの奥底に眠っていた、数少ない私服を総動員してコーディネートしてきたのだ。どうだ、これなら文句はあるまい。


「……遅いな、白崎のやつ」


 時計を見る。約束の十時まであと五分。

 私がソワソワと周囲を見渡していると、改札の方から一際目立つ人影が歩いてくるのが見えた。


 周囲の男性たちが、吸い寄せられるように振り返っていく。

 それも無理はない。

 春の日差しを反射して輝くサラサラのロングヘア。モデルのように整ったスタイル。

 そして何より――。


「……は?」


 私は我が目を疑った。

 そこにいたのは、いつもの堅苦しい委員長スタイルの白崎ヒカリではなかった。


「お待たせ、ベルちゃん」


 やってきた彼女は、ふわりと甘い香水を漂わせて私の前に立った。

 白いフレアスカートに、淡いブルーのトップス。

 問題はそのトップスだ。

 肩がない。


 いや、正確には「オフショルダー」というやつだ。

 両肩が大胆に露出しており、華奢な鎖骨のラインから二の腕にかけての白磁のような肌が、太陽の下にさらけ出されている。


「なっ……ななな……ッ!?」


 私は絶句した。

 なんて破廉恥な! 防御力ゼロではないか!

 勇者といえば鎧(制服)で身を固めているイメージしかなかったのに、休日はこんな軽装でダンジョン(街)を歩いているのか!?


「……なによ、人の顔を見て金魚みたいにパクパクして」

「き、貴様! なんだその格好は! 布が足りていないぞ! 製造ミスか!?」

「失礼ね。こういうデザインなのよ。最近流行ってるの」

「流行りだと!? 人間界では『肩出し』がトレンドなのか!? 防御を捨てて回避に極振りしたアサシン装備か!?」


 私が指差して喚くと、白崎は呆れたようにため息をついた。

 そして、逆に私の方をまじまじと見つめてきた。


「……ていうか、あんたこそ何その格好」

「ふっ、よくぞ聞いた。これは紫外線対策を兼ねた……」

「真っ黒ね。カラスかと思ったわ」

「カラス言うな! シックでモードな装いと言え!」


 白崎は私のつま先から頭までを品定めするように眺めると、ふむ、と顎に手を当てた。


「でも……まあ、悪くないんじゃない? いつもの薄汚いジャージに比べたら、100倍マシよ。ちょっとゴスロリっぽくて、あんたのキャラ(魔王)には合ってるわ」

「む……そ、そうか?」

「うん。素材はいいんだから、ちゃんと着飾れば様になるのよねぇ……もったいない」


 後半の独り言は聞き取れなかったが、どうやら合格点は貰えたらしい。

 私は胸を撫で下ろした。


 しかし、どうしても目が行ってしまう。

 目の前で揺れる、白崎の白くて華奢な肩に。

 直視してはいけないと思いつつも、視線が勝手に吸い寄せられる。これが「絶対領域」というやつか? いや、あれは太ももか? とにかく眩しい。


「……ねえ。さっきから何ジロジロ見てるの?」

「み、見てない! ただ、風邪を引かないか心配してやっているだけだ! 人間は脆弱だからな!」

「はいはい。今日は暖かいから大丈夫ですーだ」


 白崎はイタズラっぽく笑うと、私の手首を掴んだ。


「ほら、行くわよ。秋葉原まで電車で一本なんだから」

「お、おい! 引っ張るな! 私は自分の足で歩ける!」


 そう言いながらも、私は抵抗しなかった。

 掴まれた手首から伝わる体温と、隣を歩く彼女から漂うフローラルの香り。

 そして、全身黒尽くめの私と、肌見せファッションの彼女。


 駅のガラス戸に映った私たちは、まるで光と闇、水と油のように正反対だった。

 けれど、不思議と――その並び姿は、悪くないような気がした。


「……次は、秋葉原~、秋葉原~」


 電車のアナウンスが響く。

 魔王と勇者の、初めての休日デート(※PCの買い出し)が、こうして幕を開けたのだった。

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