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赤い水。


 古い水道管を通って来る水は赤錆を含んで赤く染まっているものでして。


 ついでに鉄のにおいなんてするものですから、そのお嬢さん、お母さんによく台所で言っていたそうです。


「ねえ、お母さん。上の貯水槽に死体が入ってるんじゃあない?」


「バカお言いでないよ。死体なんかあそこに沈んでたら、気持ち悪くて使えたもんじゃない」




 その団地は非常に古い建物でして。


 外壁は黒ずんでるは、ヒビは入ってるは、蔦はからまってるわ。


 てっぺんに乗っかってるでっかい円柱状の貯水槽は錆錆で塗装も剥げかかって、それはそれは禍々しい雰囲気。


 たまに廃墟と間違えて、肝試しに来る若者なんかもいる始末。


 実際住んでいる人間も少なくて、20軒入るその団地に、そのお嬢さんとお母さんのお宅含めても5軒しか住んでいなかった。


 いつ取り壊されてもいいようなたたずまいながら、ずっとそこにある古い団地。


 そんな団地に自分も住んでいながら、住人たちはお互い「なんであの人こんなとこに住んでるんだろう」なんて訝しみながら、顔を合わせればきちんと挨拶するような生活を送っておりました。




 お嬢さんと同じ棟の1階に住むおじいさんは最近までおばあさんと二人暮らしでした。


 いつ頃からかおばあさんの姿が見えなくなったので、風邪でも引いて寝込んでいるのかなあと心配していたら、転んで骨折、ついでに認知症の症状も進んでしまったとかでちょっと遠くの病院に入院しているそう。


 お嬢さんはピンときてしまった。


「ねえねえ、お母さん。あそこのおばあちゃん、実はおじいちゃんに殺されて、上の貯水槽に投げ込まれちゃったとか」


「なに言ってんだい。あそこのじいさんとばあさんは両方揃って足腰弱くて1階に住んでんだよ。そんなじいさんがどうやって死んだばあさん抱えて屋上まで階段で上がって、さらに貯水槽のはしご登ってばあさん投げ入れるんだい。想像力は最後まで働かせて物は言いなさい。中途半端に面白がるんじゃないよ」


 なるほどなあと思って、お嬢さん心の中でおじいさんに謝った。




 建物自体は繋がってるけれど、入り口は別にある隣の棟には3軒の住人がいる。


 5階の部屋には中年の男が一人で住んでいるらしいのだが、静かすぎて生きているのか死んでいるのがよくわからない。


「ねえ、お母さん。最近あそこの5階のおじさん見かけないけど、孤独死とかしてるんじゃあないかしら」


「バカだねえ、そこ覗いてごらん。ほら、あそこ。レジ袋下げて帰って来てるだろう。おとなしいから存在感ないけど、ちゃんと生きて買い物行ってるよ」


「あれ?あんな痩せてたっけ、あそこのおじさん」


「ひとりもんだからろくなもん食べてないんだろうよ」




 3階には小学生の姉妹がいる家族が住んでいる。


 父親が外に聞こえるほど暴れている家庭だったが、最近は妙に静かになった。


「ねえ、お母さん。あたし思うんだけど、あそこの旦那さん、奥さんに殺されたんじゃないかしら。それで上の貯水槽に入れられて」


「またバカなこと言ってるよ、この子は。あんな暴れてた男、奥さんひとりで殺せるわけないでしょう。それも子供の前で。だいたい殺したところで、どうやって担いで屋上まで持って行くの。これ前にも言ったよね」


「だって、お母さん。子供だって嬉しいんじゃない?あんな暴力ふるうお父さんが死んだらさ」


「だとしてもだよ。見てごらん。父親が目の前で殺されてるとこ見て、あんなにニコニコしてられるかい?」


「するんじゃない?」


「おまえもたいがいな娘だねえ。まあ、うちの亭主もたいがいな男だったからねえ」


「いなくなったとき、あたしたいがい嬉しかったけど」


「どこもうちと一緒だとお思いでないよ」




 1階に住んでいるのはやせ細ったおじいさんといい年こいた引きこもりのその息子らしいのだが、引きこもりなのでもちろん安否はわからない。


「死んでると思う」


「雑になってきたね」


「だって、あのおじいさんのレジ袋の中身。どう考えても一人分の食量しか入ってないよ」


「人様のどこ見てんだい。いやらしい子だねえ」


「最近は洗濯物も、おじいさんの分しか干されてないもの」


「……あんた本当にそういうとこ見るのやめなさい。我が娘ながらドン引きしちゃうわ」


「やっぱりあれよ、お母さん。年金で細々食いつないできたけど、いよいよ自分が死んでしまった後のことを考えて息子のことが心配になったのよ。それで泣く泣く殺して上の貯水槽に……」


「いい加減にしなさいって。本気で怒るよ、お母さん。あんなほっそいおじいさんがどうやって死んだ息子を担いで屋上まで行くの。もうこれ何回言ってるのお母さん、飽きたわ」


「だってだって。水が赤いんだもん。いくら流しても鉄のにおいのする赤い水しか出てこないんだもん」


「だーかーらー。あれは古い水道管の赤錆だって言ってるでしょう。貯水槽には入ってないの!」




 その後も、勝手に住民を殺しては勝手に屋上の貯水槽に放り込んだことにするお嬢さんの妄想話にいい加減疲れたお母さん。とうとうウォーターサーバーをレンタルすることにした。


「やったー!お母さんありがとう!どういう心境の変化?」


「まあねえ、あたしもねえ。赤錆までは我慢できてもねえ。さすがにあの人がつかってる水を飲料水に使うのは気が引けてきちゃってねえ」


「他の人たちは?」


「あの人たちはほら、浄化槽の方つかってるから知らぬが仏」



                おしまい

 


 

注・貯水槽にも浄化槽にも異物を入れてはいけません。

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