表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

結婚式と告白と、そして月

数週間後――

王都ルナヴィエルの郊外、満月の夜に合わせて開かれる特別な式典の館にて、ひとつの結婚式がひっそりと準備されていた。


主役は、魔術士リオナ・フェルテと、彼女の「婚約者」カイル。


塔で真実が暴かれたあの夜のあと、二人は幾度も話し合った。

怒りと赦し、疑念と信頼がぶつかり合い、

そして、すべてを乗り越えて――彼らはひとつの答えにたどり着いた。


「嘘から始まったっていい。

 でも、“終わり”だけは、自分の意志で選びたい」


それが、リオナの決意だった。


王国の魔術評議会はもちろん反対した。

リオナほどの地位を持つ者が“結婚詐欺未遂犯”と式を挙げるなど前代未聞。


だがリオナは、冷然と言い切った。


「これは私の魔術でも、研究でもない。“私の人生”よ」


こうして、周囲の反対を押し切り、式は強行された。


その日、式場は月の光に照らされていた。

招待客はほとんどいない。リオナの知己たちも遠巻きにしており、まるで世間から隔絶された“二人きりの結婚式”。


それでもリオナは、美しかった。

真紅のドレスに身を包み、白金の装飾を施した髪が月光にきらめいていた。


式が始まる直前――

カイルは姿を消した。


誰もが「ああ、やはり」と言った。


「やっぱり詐欺だったのね」

「こんな結末、誰でも予想できた」


会場の空気が冷えた。

リオナは無言で立ち尽くす。


だが、数分後――


式場の扉が乱暴に開かれた。


「待て!!」


荒い息を切りながら、駆け込んできた男。

カイルだった。


「遅いわよ」


リオナが睨むと、カイルはその場で深く深く頭を下げた。


「怖かったんだ……また逃げ出してしまいそうで。

 でも、今日だけは、本当に本当に、嘘を捨てたかった」


彼は膝をつき、左胸に手を当てた。


「リオナ・フェルテ。あなたは、俺の人生に差し込んだ初めての光でした。

 騙したことは許されない。けど、

 それでも、俺は……あなたを愛してしまった」


会場が静まり返る。


そして、リオナは笑った。

やれやれとでも言いたげに肩をすくめて。


「なら、契約成立ね」


「け、契約?」


「ええ。“死ぬまで誠実であること”。違反したら……」


彼女はカイルに魔術式の指輪を向ける。


「この指輪が爆発するわ」


「……愛が重すぎない?」


「当然でしょ。重ねた嘘の分、重くなって当然よ」


カイルは苦笑しながらも、素直に手を差し出した。

リオナはその指に、魔術契約と愛を象徴する指輪をはめる。


天井から降り注ぐ月光が二人を包み――

《月鏡》が空に浮かぶ。


ふたたび、金色の糸が輝く。

それは今や、誰の目にも偽りでないことがわかるほどに澄んで、美しかった。


そして、祝福するかのように、鏡が放つ光が二人を優しく包んだ。



その後、二人は王都の外れに小さな研究所兼住居を建てた。


リオナは魔術士としての地位を保ちつつも、肩の力を抜き、

カイルは正体を明かした上で、補助研究員として働きながら少しずつ信頼を積み重ねていった。


時に喧嘩をし、

時に抱きしめ合い、

すべての始まりが“嘘”だったことを、ふたりは笑い話にするようになった。


だが、月夜には必ず手を取り合って空を見上げる。


そこに映る一本の糸。

それは、誰よりも不器用で、誰よりも誠実な二人が選び取った、本当の絆だった。


そして今日もまた――

月は、すべてを見ていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ