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大陸法のある世界

王立学園の庭園でお茶会を開いたら第一王子とその他数名が乱入してきた件について

アフラト王立学園の庭園に、着飾った伯爵家以上の令嬢たちが集まっていた。学園の最終学年に在籍する令嬢たちだけなので、人数は七人しかいなかった。

そして集まった令嬢たちだけでなくその周りにいる者たちも、皆がそこはかとなく緊張感に包まれていた。


その中の一人の令嬢がふわりと微笑んでから口を開いた。


「皆様、そのように緊張をなさらないで。いつもの通りでよろしいのですわよ」


その言葉を受けて皆がはっとした顔をしてから、思い思いに緊張をほぐすように小さく腕を回したり軽く伸びをしたりした。

声を掛けた令嬢はその様子を微笑ましそうにみてから、笑みを消して真面目な顔になるとパンパンと手を打ち合わせた。それを合図とするかのように、周りにいる人々はピシッと背筋を伸ばした。


先ほどとは違う緊張感に包まれるなか、令嬢が口を開いた。


「皆様、本日はわたくし、アルメニシア・シャンルウルファのお茶会にいらしてくださり、ありがとうございます。限りある時間ではございますが、楽しい時間をお過ごしください」


招待された令嬢たちが微笑みを返すと、執事の格好をした青年たちが令嬢方のそばへと近づいた。


「お嬢様、会場までご案内いたします」


差し伸べられた手に手を乗せる令嬢たち。執事たちは恭しくその手を軽く握り、令嬢たちをガーデンパーティーの会場へとエスコートしていく。その令嬢たちのすぐ後ろには侍女とは違う女性がついていた。その女性たちは時折、手に持った紙へと何かを書きこんでいた。


東屋のテーブルへと令嬢たちを案内した執事は、椅子を引いて令嬢たちを座らせた。執事たちが離れると、待機していた侍女たちが紅茶を入れて令嬢たちの前へと置いていく。

全員へとカップが置かれたのを見てアルメニシアが改めて口を開こうとした時に、無粋な足音が聞こえてきて皆の視線が東屋の入口へと向いた。


「アルメニシア、今日という今日は、貴様のやり様に我慢ならん!」


ドカドカと足音高く東屋へと入ってきたのは、この国の第一王子とその側近候補と彼らが囲っているといわれている男爵家の令嬢だった。そして、開口一番に言ったのは、この台詞だった。


令嬢たちは内心眉を(ひそ)めて、王子たちのことを見つめた。もちろん、表情に出したりしない。それどころか皆、おもむろに扇を取り出すと口元を覆った。


「いきなりなんでございましょうか、ワムラータ第一王子殿下。今日は令嬢のみのお茶会でございますが」


アルメニシアは冷たい視線を王子たちへと向けながら言った。


「それだよ。令嬢たちを招いてのお茶会なら、なんでココシュを招待しないんだ!」


ワムラータ王子は男爵令嬢の腰を引き寄せながらそう宣った。そのことばを聞いた令嬢たち……だけでなく、周りにいる執事と侍女の格好をした者たちも冷ややかな目で王子たちを見た。


「そちらのご令嬢を招待ですか? 本日の茶会は趣旨が違うのですけど?」


アルメニシアは困惑した様子を滲ませた声で言った。それもそのはずで、本日の茶会のことは開催にあたって学園内に広く知らしめてあったからだ。

つまり難癖をつけてきた時点で、ワムラータ王子たちは把握していないことを露呈させているのである。


内心でため息を吐きながらも王子たちを去らせるために、アルメニシアは口を開こうとした。が、それより早くワムラータ王子が言った。


「アルメニシア・シャンルウルファ! 貴様の態度にはほとほと呆れ果てた。下位貴族や平民をこき使い、あまつさえ学びの場である学園にてこのような豪勢な茶会を開かせるとは。そのような性根のものに、王太子妃、ひいては未来の王妃は務まらん。今この時を以って、婚約を破棄する!」


何故かドヤ顔ではっきりと言った王子。名指しで言われたアルメニシアだけでなく、王子の取り巻きたち以外の者は聞かされた言葉に目が点になり、それからすんと表情が抜け落ちた。


アルメニシアは頭痛がしてきたが、頭を軽く振って考える。瞬時の判断を迫られたことを感じ、チラリと視線を東屋の柱へと向けてから、こうなってしまってはただ(・・)王子たちを去らせるだけでは済まないと思った。

小さく息を吸い、ため息交じりに息を吐きだしてから、キッと王子たちを睨みつけた。

睨まれた王子たちは、アルメニシアの眼光の鋭さに小さく後ずさった。


「ワムラータ王子殿下、突然の乱入だけでなく、言い掛かり並びに事実と異なることをおっしゃらないでいただけますかしら。いろいろ言いたいことはございますが、まずは……そうですわね、婚約を破棄するとおっしゃいましたけど、私と殿下は婚約しておりませんわ」

「嘘だ! 貴様とは六歳の時に婚約をしたじゃないか!」


きっぱりと言えば、すぐさま否定の言葉が返ってきた。確かに王子が言う通り、六歳の時に顔合わせをして婚約を結んだ。


が!


「殿下、一時は婚約関係にありましたが、三年前に事情が変わりまして、婚約は解消しておりますわ」

「はっ?」


ぽかんと口を開けて間抜け面を晒す王子たち。


「殿下も覚えていらっしゃると思いますけど、三年前に我が家の後継者であった兄のアンドレは、この学園に留学に来ていらしたウトロスアル王国のビレンダ王女殿下と、婚姻することになりました。それも将来女王として立たれるビレンダ王女殿下との婚姻です。将来の王配として婿入りとなりましたの。そうなりますと、我がシャンルウルファ家の後継者がいなくなってしまいます。ウトロスアル王家と我が国のシャクラート王家、我がシャンルウルファ家とで話し合いまして、ワムラータ・シャクラート第一王子とアルメニシア・シャンルウルファの婚約を解消しましたの」


アルメニシアの説明に数度瞬きをしたのち呑み込めたのか、王子は食って掛かるように言った。


「それこそおかしいではないか。アンドレが跡を継げなくなったのなら、従弟で男児であるこのインフリーが継ぐべきだろう」

「インフリーは従弟ではございませんわ」


王子の言葉を即座に否定したアルメニシア。王子とインフリーはポカンと口を開けて間抜け面をさらした。


「な、何を言うんだ。インフリーはお前の叔父の子だろう」

「だから違いますわ。叔父と結婚した方の連れ子ですの。四年前に叔父夫妻とインフリーの弟である私の従弟のアロンソとが事故で亡くなり、他に親戚がいないということから我が家で、学園卒業までインフリーの面倒を見ることにしたのですわ。引き取る時にちゃんと我が家の血筋ではないと、教会のほうで確認してもらっております」


そう言った後、アルメニシアは悩まし気にホウと息を吐きだした。


「インフリーにも我が家へ引き取る時に話してあると、父から聞いておりますわ。ですのに、インフリーは忘れてしまっていたようですわね。そもそも大陸法によって、王侯貴族の血統は保護されておりますのよ。教会にて立証されていますのに、どうして後継者になれるなどという勘違いをしたのでしょうか」

「だけど……だって、僕はシャンルウルファ公爵家の養子になったって」

「なっておりませんわよ。インフリー、話をちゃんと聞いていまして? 貴族の血統は大陸法で保護されていると。血筋の者でない限り、養子にはなれませんわ。それどころか、女性が当主の場合で子を授かれなかった場合に、婿に子供がいたとしてもその家の跡継ぎとは認められませんわ」


茫然と呟いたインフリーの言葉を、またも否定するアルメニシア。


「なぜだ。婿とはいえ普通は貴族家の出だろう。女性当主の婿になるには、貴族でないといけないはずだ」

「ええ、王子のおっしゃる通りですわ。ですが、婿殿が同じ家門……いえ、同じ血統の血筋であるのでしたら、多少は揉めるかもしれませんが認められると思いますわ」

「それなら」

「ですから、婚家と同じ血統でない場合は、他家による乗っ取りとみなされますのよ。このことは大陸法の中の『王侯貴族の血統保持』という項目の中に明記されていますわ」


王子の反論(?)にアルメニシアは困ったように眉を寄せて言った。王子たちは乗っ取りという物騒な言葉に、目を瞬かせた。


「いや、でも、公爵家が無くなるよりはいいのではないでしょうか」


宰相の息子が首をかしげながら言った。東屋にいる人々は驚愕に目を見開いた。令嬢たちも扇で顔を隠しながらも、驚きを隠せずにいた。


「まあ~」


と、呆れた声を上げるアルメニシア。そして、先ほどの比でない冷たい視線を宰相の息子へと向けた。


「そうおっしゃるということは、平民に貴族の家を継がせよということなのかしら」

「へ、平民に? 何を言っているんだ。インフリーは貴族だろう。この王立学園に通っているのだから」

「それこそ、何をおっしゃっていらっしゃるのかしら。この学園には貴族でない方々が多く在籍しておりますわ。先ほどインフリーは我が家の血筋ではないと申し上げましたわよね。それならば貴族でないとしても、おかしくないのではないかしら」


王子たちは驚愕の事実にインフリーのことを凝視した。


「ちっ、ちがっ……あっ」


インフリーは否定のことばを言いかけて、何かを思い出したのか小さく呟いたあと、顔色が蒼褪めていった。どうやらやっと思い出したようだと、アルメニシアはほっとした。

だけど、察することのできない王子以下側近候補たちは、インフリーへと問いかけた。


「インフリー、君が平民などということは無いよな」

「……母は没落した伯爵家の血を引いていますが、父は平民だった……と、聞いています」


小さな声で告げたインフリーから王子たちは一歩離れた。あからさまな態度に内心眉を顰める王子たち以外の者達。


「そろそろよろしいかしら。納得いただけたのなら、退去していただけませんこと」


アルメニシアの言葉に王子たちはハッとすると、改めてアルメニシアに食って掛かってきた。


「そうだ! だからなんでココシュを招待しないんだ!」


先ほどから話を聞かない、理解しない、学園中が周知していることを知らない王子たちに、アルメニシアの中で何かがぷつんと切れた。


「ですから、趣旨が違うと申し上げましたわ。というか、いい加減にしてくださいませんか。これ以上茶会の進行の邪魔をするのであれば、皆様方の責として王宮に報告させていただくことになりますわ」


そう言ったけど、先ほどからこのやり取りは王宮及び高位貴族家の方々に見られているので、報告するまでもないのだけど。と、心の中で呟くアルメニシア。


「邪魔だとか報告とか、何を大袈裟に言っているんだ。ただの茶会だろ」


アルメニシアの剣幕に若干引きながら、ワムラータ王子は言い放った。


バキッ


音が聞こえたほうを見れば、アルメニシアが持っていた扇を握りつぶしていた。それを見て血の気が引く王子たち。


「ワムラータ王子及びご友人の皆々様は、今日のお茶会の告知を軽視していらっしゃったと。だから、ここに居る方々の就職のためにアピールできる場を潰しても構わないと思っていらっしゃるということですわね。そういうおつもりなのでしたら、本日のお茶会にかかった費用は、皆様方にお支払いいただくこととなります。しかるべきところから請求が来ると思いますので、きっちりと責任をもってお支払いくださいね」

「はっ? なんでそんなことをしなければならないのだ」

「で、殿下」


ワムラータ王子は納得がいかないのか、馬鹿にしたように鼻で笑った。が、やっと正しく認識したらしい宰相の息子が止めるように声をあげた。


(けど、もう遅いですわ)


アルメニシアはキリッと表情を引き締めた。


「それは殿下が就職のための最終試験を軽んじてらっしゃるからですわ。ああ、もういいですわ。これ以上遅れると、査定をしている方々にも迷惑ですので、口を挟まず、私の説明をお聞き下さいませ。


本日のお茶会、主催は私の名となっておりますのは、今現在最終学年において一番の高位貴族だからです。

ですが、実際は卒業を三か月後に控えた私たち(・・・)の試験の場ですの。

ここにいる者達は卒業後、執事や侍女として王宮や高位貴族家に仕えることを望む者達です。

これまで数々の試験を受けて標準以上に達していると認められた者達ですわ。


それからこの庭園を警備している者達は騎士団に合格し、内定をもらっている者達です。

他にも、庭園を整備した者は庭師として高位貴族家や王宮に勤める予定の者もおりますし、学園内の清掃や馬屋番なども、それぞれの場において試験が進んでおります。


コホン


その方たちのことは別のお話でしたわね。


今日は執事と侍女を希望している方々の審査の場ですわ。

それは私たち高位貴族の令嬢を完璧にサポートし、お茶会を滞りなく終わらせるというものですの。


完璧にというにはもうケチがついてしまいましたが、それは彼らのせいではないと査定される方々もわかっておりますわ。


つまり、今現在も、王家及び高位貴族家のご婦人及び執事長、またはご当主がこの様子をご覧になっているという事です。


お判りいただけましたら、どうぞご退席下さいな」


血の気が引いた顔で第一王子とその側近候補たちと男爵家の令嬢は視線を交わした後、東屋を出て行こうとした。


そこに学園の職員がアルメニシアに近づいて、紙を渡した。それを読んだアルメニシアは王子たちを呼び留めた。


「ああ、少しお待ちください。ある方々から皆様へのご質問がありますの」


そう言うとアルメニシアから合図された職員が何かの魔道具をテーブルに置いた。


『皆は学園卒業後、どうするつもりだ。

 様々な試験があるが、どれも受けていないだろう。


 騎士になるためにも試験が用意されている。

 このままでは騎士団に入団することが出来ないぞ。


 文官になるために必要な資格があるということが解っていないのか?

 このままではひと月後に行われる王宮最後の試験を受けることはできないだろう。


 王宮以外に勤めるにしても資格が無ければ勤めることも難しいのだぞ』


魔道具から聞こえてきたのは男性方の声。その声が誰かわかったのか、王子たちは動きを止めて魔道具を凝視した。


「し、試験?」

「騎士団に入ることが出来ない?」

「文官に必要な資格?」

「務めることが出来ない? ……って、仕事に就けないのか?」


問うような視線を向けられたアルメニシアは内心で嘆息した。


(今さらそこですの? 学園入学時に説明されていることですのに)


アルメニシアは他に説明する人がいないのだと諦めて、説明することにした。


「学園に入学した時に説明がなされたことですわ。今のこの世界は女神様により国同士の争いを禁止されています。そのため各国共、国の発展に力を注ぐことが出来ますの。そのためなのか向上心をお持ちの方々が大変多くいらっしゃいます。優秀な方々が国の中枢に入ってくるのは、どの国も歓迎していることですわね。

ですが、あまりに王宮に勤めたいという方が増えてしまいまして、試験官が過労で倒れるということが起こるようになったそうですの。

そこで考えだされたのが資格制度ですわ。資格を取るためにはもちろんその試験を受けなければなりません。けど、この部署を希望する方にはこの資格の取得をと公表したことで、それぞれの部署に欲しい能力の方が来てくれるようになったようですわ。王宮の官吏の試験もとてもやりやすくなったと聞いておりますの。

もちろんこれは騎士にも適応されておりますわ。騎士の資格としては、馬術、剣術、槍術、弓術などがあると聞いております。もし騎士になれなくても馬に乗れるのでしたら、防衛団の中でも好待遇が受けられるそうですわ。もし、門で諍いが起こりすぐに王宮に知らせなければならない時など、馬に乗れる方がいれば早く知らせを届けられますわね。


そういう資格をお取りになっていない方は、市井でも……どうなのでしょう?

算術が得意であれば商家に雇ってもらえるかもしれませんが、場合によっては思った仕事に就けないのではないでしょうか」


これ以上顔色を悪くしようがないくらい悪くなった王子たち。


「だ、だが、わ、私は、王太子で、次の王として」

「違いますわよ。次の王は王弟のベヒト様ですわ」


必死に言い募ろうとした第一王子。どうやら王位についても勘違いをしているようだと気づいたアルメニシアは、すぐさま否定した。


「おかしいだろ。父上は祖父の次に王になった。長子が継承するものではないのか」

「殿下、王位継承についても、女神様が決められていらっしゃいます。国同士の争いが無い分、内政に力を入れることが出来ます。臣民が育っておりますのに、王族にも適用しないはずがございませんわ。


それに女神様はこうもおっしゃっていらっしゃいます。

『上に立つことがどういうことかも知らずに好き勝手言うでない!』と。

なので、王位に就ける方は親、もしくは祖父母が王に就いた者すべてが対象になるそうです。


ああ、殿下が勘違いなさったのはあれですわね。前王陛下の後を継いだのが現王陛下で、その長子でしたもの。

本来なら現王陛下のいとこの方々に優先順位があったのですが、皆様揃ってご辞退なさりましたの。そのため繰り上がって現王陛下が即位なさったのですわ。

それというのも王位に就けるのは最低二年、最長十年という決まりがございます。

前王陛下の任期が終わるというのに、嫌がってご辞退なさるのですもの。現王陛下も最低もう十年後に王位に就くと思っていましたから、当時はかなり困惑なさったと聞き及んでおりますわ」


口がはくはくと動くが、言葉にならない様子の第一王子たち。


「もちろん何事にも例外はございますわ。我が兄が婿入りしたウトロスアル王国は現状王位継承できる方がビレンダ王女殿下だけになってしまいました。そういう場合は王位に就く年数は決まりから外れますわね」


ウトロスアル王国はビレンダ王女が留学している間に、国元で流行った病により王位継承者が激減した。それだけでなく高熱が続いたことにより、子孫を残せないと診断された者が多くいた。国の存続の危機であった。

現状ではビレンダ王女以外に確実に子孫が残せる者がいないそうだ。幸いにも王女は現在二人目を妊娠中で、ウトロスアル王国を憂えた女神様よりビレンダ王女には加護が与えられたので、安心して出産できると聞いている。


「あ、そ、それなら、アルメニシアも資格を取ってないだろう」

「私ですか? 私は領地経営と家門のとりまとめに必要な資格を取っておりますわよ」


第一王子が思い出したのか責めるように言ったが、アルメニシアは平然と言い返した。

その返答に疑問符を浮かべた顔をする王子たち。

アルメニシアは頭痛を感じて眉根を寄せた。


「殿下、まさかとは思いますけど、領地をもつ貴族は王宮に勤めることが出来ないことはご存じですわよね」

「はっ?」

「はあ~~~~~」


間抜けな顔を返されてアルメニシアは淑女にあるまじきなため息を、盛大に吐いた。


「あのですね、今は人材が豊富ですの。わざわざ王宮の要職と領地運営を同時にしなくても、良くなりましたのよ。昔は多忙過ぎて要職に就く方ほど早くに亡くなったときいていますけど、今はちゃんと孫に囲まれて余生を楽しむことが出来るのですわ。


もう、よろしいかしら。


殿下方にお迎えもいらしたようですので、ご退去願いますわ」


アルメニシアの言う通り、近衛の制服を着た数名と第一騎士団の制服を着た十数名が現れた。

彼らは第一王子たちに慇懃無礼に接して彼らを庭園から連れ出していった。


それを見送ってからアルメニシアはパンと手を打ち合わせた。


「さて、皆様、不測の事態により、茶会の開催が遅れてしまいました。申し訳ありませんが、場所を移動して、改めてそちらで行いたいと思いますの」


目線でどうかしらと問えば、客の令嬢たちは微笑んで頷いた。察した侍女たちが動く。ある者はそっと離れた後、新しい会場の手配に。ある者は厨房へと駆け込み新しくお茶の準備に。ある者はこの場を離れた後の片づけの手配に。

執事たちも令嬢たちに手を貸して、ゆっくり庭園を案内するようにして、準備が整うまでの時間を稼いだ。


急ごしらえで場所も食堂へと移すことになったが、パーテーションで区切られた空間は居心地よく整えられていた。


あれ以上のトラブルもなく終わった茶会。

査定をしていた高位貴族の評価も高く、取り合いになる者もいたとか。


そして乱入した王子以下は、卒業までの三か月では必要な資格を取ることが出来ず、一先ず一兵卒として辺境で魔物退治をすることになった。

辺境でも資格は取れる。そして条件を満たせば、王宮の文官や騎士団の試験を受けることが出来るだろう。


そう、やる気があればである。

彼らの未来は明るいのだ!


やる気をだせばであるが……。


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― 新着の感想 ―
間に合えっっっ
造り込まれていてドッチリとした読了感に思わず感嘆のため息をつくほどの、充実したひと時をありがとうございました! 家名や国名が長くて多少混乱しながらではありましたが、とても面白かったです。
面白かったです。 時々、何を言っても分からない人がいます。上手くそういった方々を王子達に抽象化していると私は解釈しました。 そう言えば、西欧史で見ると、どんなに優秀でも王妃の子でなければ王位を継げない…
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