1話 朽ちたフラッシュメモリ
「ああ、気長に待つとするよ。」
その言葉が思い出せる範囲の最初の言葉だ。
目を開けるとそこはひどく暗い場所であった、それに瞼が異様に重い。
ただ目を凝らすとなんだかゴツゴツしている気がする、岩のような断層したのちに強固に固まった地盤のような、ガタガタなのに妙に安心感がある。
てか、なぜこんなとこにいるのか、自分が誰なのか、自分の知っている疑問詞すべてのアンサーが出ない。
てか体が動かん。
は?
だるいんだけど。
まるで関節が存在しないかのような感覚、石。もはや岩。関節って以前に全身が動かない。ただ足や指はまだ動かせられる、しかし瞼並みのスピードだな。
とにかく今やらなきゃいけないのは体の自由を取り戻すことだ。体を柔らかくするには・・・お酢?残念ながら持ち合わせてない。まぁストレッチかな。
バキポクキ
音が事件。全身骨折並みの旋律が軽快に重く自分の動かした体の末端から放たれる、でもこの音は別に嫌いじゃない。
数十分間見えない敵と戦い続けているとついに立てるまでになれた。ただし10秒ほどだが・・立ち上がり、あたりを見渡すととほのかに明るいところを見つけた。そして自分の寝ていた場所の周りに石がたくさん落ちている。
生まれたて、いや老人と同じ体感とスピードで微かな光の出どころへ歩いていく、幸運だったのは天井とは比べものにならないほど足場が平坦だったことだ、歩きやすい。
光の出どころにご対面すると、そこにはじんわりと白色の光を放つ魔法陣が描かれていた、本来光であるはずのものが絵の具のように魔法陣の周りから辺りの空間へ滲み出している。
そして壁には下向きの矢印、この魔法陣に乗れと言わんばかりの矢印。しかし怪しすぎる。なんというか知らない人から渡されたラベルの付いていないペットボトルを飲めと言われている気分だ。熟考の末乗ることに決めた。
もうどうにでもなれ。さぁ煮るなり焼くなり好きにしろ!
強い決意とともにおぼつかない右足を魔法陣に踏み入れた。
・・・・・・・・
「何も起こらんのかい!」
イライラを足に込め勢いよく足を振り下げた。
とたんに魔法陣が強い光とともに俺の周りを包み込み、認識+処理をさせる暇のないまま先ほどの場所とは対比関係のような場所に俺はいた。
ものすごいまぶしい目がしゅぱしゅぱする。目があたりに慣れてきてからもう一度目を開けると、そこは空だった。蒼い空、白い雲、すがすがしい日々の象徴だ、しかし今一度訂正しなくちゃいけない。
もう少しで地面に衝突するということだ。
おっと危ない意識が飛びかけた、てか痛い。あれだけのきれいな空の次は土だ。もう今のとこ黒→白→茶とかいう猫のアグチ毛のような一日を送っている、良い一日・・・・ではないな。
--オートメーションスキルトリガー確認--
--魔法補助プログラム起動--
--対象関数:生物族遺伝子系統魔法--
--【修復】を発動します。--
--MINに接続します--
~規定ポイントにMINが存在しません
電源がオンになっているか確認してください~
--類似ポイント確認接続します--
--成功しました--
--ホームポイントに設定しました--
怒涛の語り掛けとともに体が光り、痛みが消えた。
何今の・・・・なぜだ初めての体験のはずなのに、これは必然のようなこれを受け入れてしまっている自分がいる。
何も理解できていない。何も知らない。知る由もない。
だけどわかってしまう、根拠のない理解がこれほど怖いとは思ってもいなかった。
・・・・・・・・よし!
痛みも消えたこの瞬間に色々ありすぎた、だが止まってはいけない気がする。自分が何者なのかなぜ記憶がないのか、全部知ろう。
立ち上がり歩き出したその足はまるで青年のようであった




