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【07 私だって】

・【07 私だって】


 そしてまあ、このような綾菜のコミュニケーション能力にはいつも助けられているが、こんなに差が離れていくところを、まざまざと見せつけられているのも良くない、なんとか私の”我”を見せないとっ!

 私は会話を止めてしまうことを承知で叫んだ。

「先輩方も自己紹介して下さい!」

 ハッとした先輩方、そしてシルバ先輩が喋り出した。

「そりゃそうだね、弦太、太人、じゃあ一曲ラップしちゃおうか!」

 それに呼応する弦太先輩。

「確かに、忘れていたな、太人、いつもの曲をかけてくれ」

 部室内に明るいBGMが流れ出した。

 今回のBGMはアニメのオープニングのような明るい曲調だ。

 弦太先輩とシルバ先輩は立ち上がり、部室の比較的空いているスペースに立って、マイクを構えた。


《弦太》

弦太、ラッパーネーム、黒牙だ こちらただただやる気が強いバカ

目指すは5文字の押韻を 常に頂点の人物追う信条


《シルバ》

シルバ、ラッパーネーム、銀狼王子 興味津々、ラップという行為

好意を示すは短く韻を踏む 産む言葉、乱打、美しい日本語並んだ


《二人》

まずは自己紹介、自分を公開 状態万全、喋り出す断然

知ってほしい、こちらの志 日本語ラップ扱う男たち


《黒牙(弦太)》

趣味は筋トレ、それが日々のヒントで 体動けば脳も動き、新しい韻越え

常に自分をアップデート どんどん取り込むラップ系統

成長してかなければ人生じゃない 戦わなければ、そこに新鮮は無い

発想も体もやっぱり瑞々しく そのために情報を聞く・見る・知る


銀狼王子シルバ

仲間たちと日々精進、しない意気消沈 更新していこう、を送信

みんなに送りたい幸せな気持ち 憩いになりたい、清いになりたい

会いたい、笑顔の人々 無くしたい1人を、言わせない「キモイ」を

バカみたいに挑む、この理想 器用にやっていきたいとあえて言おう


《二人》

まずは自己紹介、自分を公開 状態万全、喋り出す断然

知ってほしい、こちらの志 日本語ラップ扱う男たち


《銀狼王子》

行動、堂々、どうせなら王道 向上し、頂上、ラップする衝動

伝えたい言葉が相当で怒涛 高鳴る鼓動、本当の本当

見せる根性、仲間たちと相乗 いつかは山頂へ登頂

今は鍛錬する道場、競争 そして見せてやる勝利の表情


《黒牙》

邪魔者は全て蹴り飛ばす 甘ったれの仲間には檄とばす

自分のやりたいことに精を出す オレの目の前に迷路無く

迷わず進む、走り続けるんだ やる気の無い鬱蹴るんだ

ぶつけるんだ、己の全て このうるさいラップで届け、応援


 私たち二人へのステージ、そんな時も手を抜いている様子は一切無く。

 良い先輩方だと心の底から思った。

 綾菜のほうをチラッと見た時もあったけども、綾菜も嬉しそうに首を揺らしてリズムを刻んでいた。

 歌い終わってすぐに弦太先輩は言った。

「フック……まあ普通の曲で言うとこのサビの”知ってほしい、こちらの志 日本語ラップ扱う男たち”ってあるけども、次からは変えないといけないな」

 そして私のほうを見て、無邪気に笑った。

 その、私を認識してくれている感がとても嬉しくて、胸の鼓動が大きく鳴った。

 この鼓動と曲の興奮が冷めやらぬタイミングでザキケンが喋り出した。

「まあ弦太は黒牙、シルバは銀狼王子、という中二丸出しのダサいネームでラップしてるんだけど、風子も考えないといけないな」

 それに少しムッとした弦太先輩は、

「ダサくねぇよ、カッコイイだろ」

 と言うとザキケンは半笑いになりながら、

「まあまあ、感性は人それぞれだからぁ」

 あまり喋らない太人先輩が、ここで割って入る。

「俺は太人でDJビットだから普通」

 それになるほどといった感じに大きく頷いている綾菜は、

「アタシは綾菜という名前がそもそも気に入ってるから、アヤナンでいいかな」

 と言うと、弦太先輩は不満そうに、

「つまんねぇな、風子は思い切りカッコイイ名前付けるんだろっ?」

 と言ったので、私は頭上にハテナマークを浮かべながら、

「カッコイイ名前……って、何ですかね?」

 すると弦太先輩は感情たっぷりでこう言った。

「風子って、風の子で風子だろ、カッコイイなぁ」

 それに対してシルバ先輩は全くもうといった感じに、

「ちょっと弦太、女性にカッコイイ、カッコイイって、可愛いって言わなきゃダメだよぉ」

 と言うと、弦太先輩はシルバ先輩のほうをキッと鋭く見ながら、

「いや風はカッコイイの一位だろ! 風か雷のどっちかだろ!」

 シルバ先輩はさっきと同じように、やれやれといった感じに、

「弦太、それこそ感性は人それぞれだよ」

 カッコイイと言われているとはいえ、明らかに好意を持って接してくれていることがこそばゆかった。

 出会った最初はあんなに最悪と思えたのに、今はこうして普通に会話出来ていることに口元がふにゃふにゃしてしまう。

 変な笑顔になっていないか心配だ、鏡を見たい。

 でも実際私が見ているのは弦太先輩の顔だ、結構マジマジと見てしまってる、ヤバイ。

 ラップをした流れで立っていた弦太先輩とシルバ先輩。

 さっきまでシルバ先輩が座っていたイスに弦太先輩が座り、私にグッと近づいてきた。

 私と弦太先輩の顔と顔の距離は、厚めの辞書くらいしかない。

 この人は、人と人の距離感がおかしいのか、というかもう、こんなに近づかれたらおかしくなってしまう。

 どう考えても今の私は顔が真っ赤になっているだろう、鏡は見なくても分かる。

 このまま、おでことおでこを合わせて『風邪ではなさそうだな』と言われてしまいそうな距離という感じ。

 でもどうやらそういう感じでは、一切無かったらしく、弦太先輩はこう叫んだ。

「決めた! 風子は風だからイダテンだ!」

 ……イダテン? 一体どういう意味? というか決めたって何?

 と疑問をたくさん浮かべていると、シルバ先輩が優しく語り始めた。

「弦太はね、僕の銀狼王子というのも決めてくれたんだよっ」

 弦太先輩はやたら満足げに、

「いやぁ、我ながら良い名前を付けられた、会心の出来だ!」

 私はおそるおそる聞いてみた。

「……弦太先輩、イダテンってどういう意味ですか?」

「足が速いヤツみたいな意味かな、あっ、風子って運動全然ダメなヤツ?」

 すると私よりも先に、綾菜が人懐っこい感じにこう言った。

「いえいえ弦太さぁん、風子は小学校の頃、陸上クラブのエースでした!」

 弦太先輩は何か納得したように激しく頷きながら、

「やっぱりそうか! 足の速そうな顔に見た目だもんな! じゃあイダテンで決まりだ!」

 ……足の速そうな顔に見た目、まず足の速そうな顔って何、まあそこは考えても答えは出なさそうだからもう無視するけども、感性って人それぞれだから無視するしかないけども、足の速そうな見た目って……この私の凹凸の無い体のことを言っているの?

 だとしたら最大級に腹が立つけども、いやまあ感性って人それぞれだから、うん、感性って人それぞれだから、そうだと決めつけず、楽しく生きていこう……。

 そして、私のラッパーネームはイダテンになったのであった。

 何故それを受け入れたかというと、変に自分で名前を付けて、それをザキケンにバカにされるのが嫌だったからだ。

 あとはまあ、好きな先輩にせっかく付けてもらえたわけだから大切にしようかな……って。

 あーぁっ! 絶対凹凸の無い体からきてませんようにぃっ!


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