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【05 解決の行方】

・【05 解決の行方】


 ――とは言え、根本的な解決にはなっていない。

 日本語ラップ部の先輩方、弦太さんとシルバさんは私が軽音部をディスったと思っている。

 本当は綾菜が言ったことなのに、私が言ったことになっている。

 そもそも入部したい、と、入部させたくないの攻防なんていらなかったのだ。

 何だそのくだり、本当に何なんだそのくだり、ザキケンが顧問という面倒なことを正式にしたくなかっただけのくだりが長いんだよ。

 一応ザキケンは『一緒に部室へ行って説明してやる』と妙に頼もしそうに胸を叩いていた。

 そうすることにより、綾菜が怒られるわけだけど綾菜は綾菜で覚悟を決めた風の顔をしている。

 いや少し眠そうな顔も時折見せつけてきやがる、何で眠いんだよ、おい、こっちは結構心臓バクバクなんだよ、オマエのせいで一回既に怒られているんだよ、意味無く怒られているんだよ、本来ザキケンじゃなくて綾菜、オマエが説明するんだからな。

 何ちょっとザキケンが説明するから余裕だぁ、みたいなアクビをかましているんだ。ほんの少しだけかもしれないけども、私の人生かかってるかもしれないんだからな。せめて反省しているツラを見せろ。

 そんなことを脳内で考えていることを見透かしたのか、それとも私が綾菜を睨んでいたのかは分からないが、綾菜は私の目線をそらしつつ、こう言った。

「全然そのまま罪かぶってもらっても、アタシ、大丈夫だよ」

 の”よ”あたりで、くるりとこっちを振り返り、私の両肩を掴み、

「受け入れるから! アタシ!」

 と、目をキラキラ輝かせながら言ってくるもんだから、私は

「何上から目線の優しいヤツ演じているんだよ! 逆だよ! 逆!」

「あっ、気付いたかぁ」

 と少し柔和な口元になって、半笑いになっている綾菜。

 いや笑ってんじゃねぇよ!

 私は続ける、いや、さっきより圧を上げて続ける。

「気付くわ! 絶対言えよ! 自分の口から軽音部ディスったのは私って言えよ!」

「いやいやいや、ザキケンが説明してくれるから大丈夫」

「とは言え、きっと言及しないといけないタイミングあるからな! というか私が作るからな!」

 そう私がまくしたてると、綾菜はこの期に及んでもまだニコニコしながら、

「もう! 風子はそんなにしゃべりがうまくないから作れないでしょっ!」

「火事場の馬鹿力で作ってやるからな!」

 綾菜はいつもこんな感じだ。

 飄々とズルを考えるヤツで、何も気を遣わなくていいので、楽な親友なのだ。

 自己紹介の後は、部活見学会という授業が入る。

 上級生は全員部室や部活動をするグラウンドなどに待機し、新入生を待ち受けるという授業……というかイベントだ。

 私と綾菜とザキケンは日本語ラップ部の部室までの廊下を歩いていた。

 他のクラスの前を通ると、私にだけ視線が集まる。

 『あぁ、あの』『さっきのアイツね』みたいな声も聞こえてくる。

 他のクラスからは恐れられる存在になるんだろうな、と、自分の人生を案じた。

 でもいい、クラスでは推理キャラに変換出来たし、あとは日本語ラップ部の先輩方からの誤解が解ければいいのだ。

 それもザキケンが説明してくれるみたいだし、顧問からの言葉というものは、やっぱり生徒からしたら神からのお言葉みたいなものだから、すぐに分かってくれるだろう。多分。

 ついに日本語ラップ部の部室の前へ来た。

 前へ来た。

 前へ来た。

 前へ来た。

 あれ……私が一言。

「ザキケン、扉を開けて下さい」

 するとザキケンはすっとぼけたような表情になりながら、

「俺が? いやオマエが来たいと言って来たんだからオマエが開けるもんだろ」

 と言ったので、私は

「何ですか、その急な正論。でも私、意味無く印象が悪いんですよ、急に出現したら驚くでしょ」

「いや弦太たちはちょっとやそっとでは驚かない、肝の座った連中だから大丈夫だ。というか真っ先に顧問が現れたら、せっかく新入生と思っていた弦太たちがしょげるだろ」

 何だか正論っぽい風を吹かせ続けるザキケン。

 いやでも扉開けるの何か怖いなと思いつつ、私はチラリと綾菜のほうを見ると、綾菜が

「風子が扉開ければいいじゃん、アタシも風子についてきただけだし」

 と言って何故かツーンとしている。

 いやでも、

「よくよく考えたら、今回に至っては説明しなきゃいけない綾菜が一番でしょ……」

 と私が言うと、綾菜はちょっと腹立つ表情をしながら、

「逆に叱られに先陣切るってあるぅ?」

 でもさ、

「誤解で叱られそうなヤツが先陣切るのもおかしいじゃん、やっぱザキケンお願いします」

 私はザキケンに軽く頭を下げると、綾菜は一切頭を下げずに、

「じゃあザキケンが扉開けろよぉってことで、よろー」

 それに対してザキケンは一回溜息をついてからこう言った。

「綾菜、学校ではもう少し敬意を表した口調をしろ」

 しかし綾菜は本当にマジでいつも通りの綾菜で、

「だってザキケンはザキケンじゃーん」

 と首を、人を小馬鹿にするように揺らすだけで。

 さすがにこの綾菜の行動は酷いなと思いつつ、会話を黙って聞いている私。

 ザキケンは少し、というかだいぶイライラしているような感じで、

「先輩の娘でなければこんなクソガキ……」

 と言った刹那、すぐに綾菜が、

「パパにチクろうかなぁ、ザキケンって最低でぇー」

 すぐに何かハッとしてから慌て出したザキケンは、

「いやいやいや、まあ、まあ、その、なんだ、先輩には良い先生していると言えばいいと思う」

 綾菜のパパとは、綾菜の家に行った時、よく会うけども、そんなに怖い印象は無い。

 確かに歳相応の恰好は一切していないけども、さすがプロのギタリストという感じだけども、私にはいつも優しい。

 何か知らないけども、男同士の上下関係というのも、案外厳しいんだなぁと思った。

 ――なんて、ごちゃごちゃ部室の前でしていると、扉は勝手に開いた。

「うるせぇよ、部室の前で」

「「キャーーーーーーーーーーーッ!」」

 私と綾菜は大きな声で叫んだ、当たり前だ、何考えているんだ、この人は。

 扉が開いた瞬間、出現したのは上半身裸の弦太さんだった。

 結構筋肉質で、うっすら全身に汗をかいていて、そのせいで肉体が輝いて見えて、そして……

「おい、クソガキども、叫んだ割に、ちゃんと見てんじゃない」

 とザキケンが言ったところでハッと我に返った、いけない! 確かに結構ギラギラして見てた! 手で顔を覆いつつも、ベタに指の隙間から肉体を鑑賞してしまった。

 綾菜は、というと、全く顔を隠さずに前のめりになって見ていた。

 そう言えば綾菜は『キャーーーーー!』の時から少しガッツポーズしていたような気がする。

 私は赤くなった頬を手で仰ぎ、なんとか平常心に戻そうとすると、次は先輩方のターンだった。

「「うわぁぁああああああああっ!」」

 叫びがユニゾン。

 そこから矢継ぎ早に弦太さんが声を張り上げた。

「オマエ! 軽音部ディスったヤツ! 何だ! 殴り込みか!」

 シルバさんは怯えながら、

「ちょっ、ちょっと君……あの、僕たちは、あんまり、喧嘩は、したくないというか……」

 それに対して弦太さんはシルバさんの背中を強く一回叩いてから、

「何ビビってんだシルバ! オレは女子供だろうか容赦しねぇぞ!」

 そして部室の奥のほうにいた、多分太人さんと思われる人が

「……その子が、さっき言ってた子? ふぅん、結構かましに来るね」

 と言ってクスッと笑った。

 シルバさんは相変わらず狼狽え、目は泳ぎ、体は右往左往させながら、

「太人は直接見ていないからそんな余裕なんだって……ちょっと……弦太……助けて!」

 と言って弦太さんに抱きついたシルバさん。

 そのシルバさんを振り払い、拳を強く握った弦太さんはデカい声で、

「そういう弱いところを見せるなシルバ! オマエの悪いクセだぞ! よっしゃ! 来ぉい!」

 と力を込めた……いや!

 めっちゃ動揺している! 全然肝座ってない! あっ! ザキケンが爆笑してる! 口に手を当ててはいるけども肩がヒクつきまくってる! 綾菜は綾菜で弦太先輩の上半身裸をずっと見ているな! なんだオマエ!

 弦太先輩が拳を構えることによって、腕の筋肉が強調されて、それがものすごくカッコ良くてって私も見てるんかい!

 ――これがのちに、日本語ラップ部で語られる、入部パニックの乱である。

 この入部パニックの乱を収めるのは、やはり頼れる顧問、ザキケンだ。

 爆笑をこらえながらも、なんとか頑張って喋り出した。

「ちょっとコイツらの話を聞いてくれ。じゃあ風子、言ってやれ」

 あっ、説明は私がするみたいです。


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