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【02 日本語ラップ部】

・【02 日本語ラップ部】


 出てきたのは男子二人、結構イケメンだったのでビックリした。

 だいたいラップってイカツイ人か太った人のどっちかと思っていたら。

 しかも銀髪のほうは何だかハーフみたいで、ハーフだから銀髪なのか、と思った。

 あんなに嫌いだったラップも不思議なもので、イケメンしか出てこないと少し好きになってしまいそうになっていると、黒髪ツンツンのほうが

「俺たちの時間が、とある理由によって延びたわけだが、それを喜ぶ気なんて毛頭無い、むしろとても悲しい、分かってんだろうなぁっ!」

 と叫び、床を強く踏んだ。

 その音に私たち一年生一同は震えあがり、私語が鳴り止んだ。

 どう考えてもブチ切れてらっしゃる。

 そしてその理由はきっと……。

 黒髪ツンツンのほうが続ける。

「さっき、軽音部を下手とか言ったクソガキがいるだろ。誰だ! 名乗りやがれ!」

 綾菜……今、めちゃくちゃ怖い上級生がオマエのことディスってるよ……。

 綾菜以外の人は皆震えていた、自分が怒られているわけではないのに。

 そして唯一怒られている綾菜だけは、一切震えず、微動だにせず、寝ていた。

 そう、寝たふりをしているヤツは本当に絶対に起きないのだ。

 長い沈黙、徐々に、最初は震えているだけだった一年生一同もチラチラとこっちを見始めた。

 明らかに私を見ている目線もあり、何だかヤバイことになりそうな気がしてきた、その時、銀髪のハーフのほうが言った。

「まあまあ、世の中にはいろんな感性があるから、そろそろ僕たちも曲にいきましょうか」

 助かった……と、胸をなでおろしたその時、黒髪ツンツンは歯をギリギリさせながら言った。

「一生懸命を笑うヤツなんて許せねぇだろうよぉ……」

 怨念たっぷりのその低い声に、私はゾォッと震えるしかなかった。

 しかし震えているのは私一人だった。

 そうだ、私は震える必要は無かったのだ。

 隣の綾菜が震えるべきなのに、私が震えたらまるで、まるで、まるで……。

「テメェかぁっ!」

 ステージ上から降りてくるんじゃないか、と思うくらいの黒髪ツンツンの大声。

 すぐさま銀髪のハーフが舞台袖に何か合図を送った。

 するとBGMが鳴り出した。

 テクニカルな判断で、もうこれ以上喋らせないでさっさと曲へいってくれたのだ。


《黒髪ツンツン》

うつつを抜かすなオレ 普通を暮らすな、飛べ

いただこう頂点、いや奪ってやる挑戦 旗掲げ行こうぜ

夢はデカい飛行船、勝者の思考で 振る舞いは気丈で

今日の自分は既に昨日で 常に更新していく精進

現状打破だ、ここは戦場だから ただただただ炎上はヤダ

なよなよすんな、過去過去引きずんな 大切なのは今だろう!

ふ抜けんな、すぐ寝んな、うつ連打じゃねぇ 自分の心、崩れんな!

中指立ててるヒマなんてねぇ 人差し指立ててトップに立て


《二人》

日本語ラップが自己表現 誰かのことを毎度応援

マイクが武器で、細部がウリで 心は大きな海で

日本語ラップが自己表現 誰かのことを毎度応援

細かくうるさい音楽家 いつかなるんだ、本格派


《銀髪のハーフ》

日進月歩、今日も自分とかけっこ 常に心にバネ、を

する躍動、持つ確証、そして楽勝 根拠が無いことは隠そう

なりすますんだ、カリスマに 今はまだまだ仮住まい

だけどいつかは本当 見せる根性、でも余裕の表情

堂々と行動、自分総動員で向上 分かってる、まだ発展途上

努力すればいつかは届く 孤独じゃない、仲間はいるから

イスから立ち上がろう まだ過酷、多分まだ鎖国

もっと遠くへ旅立つんだ とりあえず最初の韻を踏んだ


《二人》

日本語ラップが自己表現 誰かのことを毎度応援

マイクが武器で、細部がウリで 心は大きな海で

日本語ラップが自己表現 誰かのことを毎度応援

細かくうるさい音楽家 いつかなるんだ、本格派


 この二人のパフォーマンスは盛り上がった。

 盛り上がる一年生一同、拍手喝采、体育館中に破裂音が木霊す。

 何だかこの二人のことが酷く輝いて見えた。

 照明までもが今までよりも、強く強く燃えていたように感じてしまった。

 私は、最初は恐怖で震えていたはずなのに、いつの間にか何だか分からない震えを感じていた。

 YOもYEAHも言わないそのラップは、とても日本的に感じた。

 そしてどちらかと言えば自分のことをディスっているようなその歌詞は、共感出来た。

 ん? 自分へのディスに共感するってことは結局、私がディスられているのか?

 う~ん、よく分からない、でも、でも、この曲がとても心に響いたことだけは、すごくよく分かった。

 そして。

 私は。

 この黒髪ツンツンの上級生に、恋をしてしまったことも、よく分かった。

 カッコイイ。

 自分のことをカッコイイとは言わないこのラップ、むしろ自分のことをカッコ悪いものとして、それを鼓舞するような歌詞。

 私は思った。

 この日本語ラップ部に入りたい、と。

 この高鳴る心臓ほどに熱いステージの上へ一緒に立ちたい、と。

 体育館の外は曇っていたけども、体育館の中は神々しいほどの光に照らされていた。

 ……でも日本語ラップ部に入れるかな……明らかに目をつけられたけども……ちゃんと説明するしかない、ちゃんと説明するにはこの隣で寝ているヤツを、ちゃんと差し出すしかない。

 綾菜め、微動だにせず、寝やがって。

 絶対起こして、日本語ラップ部の部室に連れていって、差し出してやるからな。

 『コイツです!』って言ってやるからな、たとえ仲が悪くなろうとも。

 その後の部活動紹介は淡々と終わり、一年生一同はそれぞれのクラスに戻った。

 話題は軽音部からの日本語ラップ部の話で持ち切り。

「どうするの、琴葉さん」

 と、まだ牽制しあう段階の同級生が私を苗字で呼ぶが、私じゃない。

「綾菜が言ったんだよ」

 とハッキリ言うが、綾菜は優しく微笑むだけで。

 何だそのやり過ごそうとする微笑みは、聖母のような慈悲深い微笑みをするんじゃない、無慈悲に私を言った犯人にしようとするんじゃない。

 私はとにかく綾菜が言ったということを主張するが、空気が段々嫌なほうに。

 段々というか、まあ、うん、空気が、空気がね、うん、私が言ったことみたいになったよね……。

 そして軽音部の先生に呼び出されたよね、私だけ。

 そして軽音部に謝罪させられに行ったよね。

 そして軽音部の人から『事実だから、事実だから、いいんだよ……』って言われたよね。

「事実じゃない!」

 ……って、大きな声で叫びたかった。

 でも叫んだところでもう、という話だよね。

 最悪の中学生生活がスタートした。

 私はディスりキャラとしての一歩を踏み出したのであった。

 よしっ、綾菜には、何だか大きくて高いモノをおごらせることにしよう。


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