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【10 新たなる日】

・【10 新たなる日】


 今日の私も順調そのもの!

 ……なんてバカな標語を口に出したくなるくらい、今日も楽しい日々の始まりだ。

 放課後、日本語ラップ部の部室を開ければ、そこには素敵な先輩方が待っている! 腕立て伏せや腹筋ばかりしていて、ボディビルダー部ですか? と一瞬言いたくなる弦太先輩こと黒牙に、銀髪のイケメンハーフだけども、少しなよなよしていて、情けない雰囲気もあるシルバ先輩こと銀狼王子に、短い言葉で辛辣な発言でお馴染みの太人先輩ことDJビットがいて、ほとんど部室に来ないけども、来たら来たでただただ邪魔な顧問の鍵崎天馬ことザキケンがいる部活!

 ……楽しいか? この日々?

 しかも割と自分さえ良ければどうでもいい私の親友、綾菜ことアヤナンまでいる始末。

 ……楽しいか? この日々?

 いやいや本当に楽しいんだ! ほら! 扉開けてドーン! 笑顔の先輩方が私と綾菜をお出迎えだ! 太人先輩は一切こっちを見向きもしないけども!

 ……どうしたんだろう……。

 イスに静かに座り込み、俯いているのは、えっと、誰だ、この、誰だ?

 太人先輩は……いつもの少し隔離された、というか自分で隔離した机でパソコンをいじっている。

 静かに座り込み、俯いている人を、弦太先輩が背中を叩いて励ましている。

 じゃあこの黒髪の人は誰? ザキケンか? でもザキケンは私たちの担任で、私が教室から出た時、まだ教師が座る用のイスに座って、司会進行を生徒に全て任せて、微動だにもしていなかったので、ホームルーム中も寝ているのかというくらい微動だにもしていなかったので、先に来ているはずがない。

 じゃあ新しく部活に人が入ったのか、いやでもこの黒髪の髪質、どこかで見たことがある。

 というかいつも見ている、毎日見ている、このサラサラの髪質、うん、どう見てもシルバ先輩だ。

 いやどう見てもシルバ先輩じゃない、だってシルバ先輩は銀髪だから。

 だからってシルバ先輩を構成するモノは銀髪だけではない。

 でもそこが一番、目がいくのも事実、銀髪じゃないシルバ先輩は全く銀狼王子じゃないし。

 聞いていいのか、悪いのか、いや聞かないことは不自然すぎる、聞こう。

 シルバ先輩はらしくなく、ただただ希望を失ったかのように机の端を見ているけども、聞こう。

「どうしたんですか?」

「前もあったんだ」

 弦太先輩は少し深刻そうに、ため息交じり。

 その後、小声で何かを言うと、シルバ先輩は小さく頷いた。

 大きく深呼吸をする弦太先輩、そして喋り出した。

「実はシルバは昔、不登校の生徒だったんだ」

 それは私にとっては衝撃的な一言だった。

 いつも明るく楽しそうで、正直失礼ながら悩みなんてあまりなさそうだな、と、思っていた節もあるのだが、まさか不登校だった過去があるなんて、と。

 もっと正直なことを心の中で吐露するならば、ハーフでイケメンで、サラサラの銀髪で、さぞかし毎日モテて、人生楽勝ゲームだろうな、とか、思ったこともあった。

 でもまさしくこの”ハーフでイケメンで、サラサラの銀髪”が不登校の理由だった。

 弦太先輩は言う。

「シルバはこのハーフや銀髪を理由にイジメられていて、まあ妬みなんだろうけども、それを集団でやられるとキツイというか、そんな感じで不登校になったんだけども、まあいろいろあってイジメも無くなったんだが、またぶり返したというか、なんというか、で、シルバが黒髪に染めて登校してきたら、それはそれで弱みを見せたということにイジメている側はなったみたいで、今日は特に強くイジメられた、というわけで」

 シルバ先輩は小さく頷きながら、小さく小さく肩をすぼめて弦太先輩の言うことを聞いていた。

 私は思った。

 そんなしょうもない連中がこの学校にいるなんて、と。

 どちらかと言えば、一年生の中ではシルバ先輩は話題のイケメンくらいだったので、そんな否定的な意見を持つ人がいること自体、信じられなかった。

 シルバ先輩はゆっくり顔を上げて、私たちのほうを見て、小さな小さな声で、震えながら言った。

「この銀髪と、そしてシルバをモジって、味噌汁ババアと言ってくるんだ……」

 本当にしょうもないなっ! クソしょうもねぇ学校じゃねぇか!

 ……とは思ったけども、確かに集団で言われるとつらいような気もする。

 さらにしょうもなさが前面に出ているため、言う側には罪の意識が低いのではないだろうか。

 いわゆる『いじっていただけです』というヤツだ、いわゆる『面白くしてやっていただけです』というヤツだ、味噌汁ババアの何が面白いんだ、クソじゃねぇか、クソそのものじゃねぇか、それを集団に言われ続けるというのは確かに頭がおかしくなりそうだ。

 そして頭をおかしく、黒髪といういつもの頭の色じゃない、いつもの髪の毛の色じゃない色におかしくしてきたら、それで弱みを見せたと思って、もっと言ってくるなんて本当に酷い連中だ。

 どうやったらそういう連中がいなくなるのだろうか。

 そのキーワードはきっと弦太先輩が言った”まあいろいろあってイジメも無くなったんだが”にあると思った、が、その方法でやめさせるような感じがシルバ先輩からも、弦太先輩からもしないのだ。

 言わないほうがいいのだろうか、聞かないほうがいいのだろうか、なんて私の頭の中を軽々越えてくるのが、綾菜の一言だ。

「前の無くなった方法でやめさせればいいんじゃないっすかぁ」

 弦太先輩とシルバ先輩は顔を見合わせてから、弦太先輩が頭をかきながら喋り出した。

「俺もそれでいいとは言っているのだが、シルバが今回は自分でどうにかしたいと言っているんだ……と意気込むものの、今はこんな状態で」

 綾菜は躊躇なく、次の言葉を発する。

「というと前は弦太さんが止めに入ったということですかぁ」

「まあそういうことになるな」

「……弦太がね、クラスも違うのにイジメっ子たちに直接言ってくれて、そしてこの日本語ラップ部が出来たんだ」

 シルバ先輩は遠くを見ながら、ゆっくり語り始めた。

 これは日本語ラップ部のはじまりの話。


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