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【01 部活動紹介】

 言葉と言葉を繋いでいった先に、未来と繋がっていたんだ。


・【01 部活動紹介】


 まだクラスにも馴染めていないのに、部活動紹介だなんてダルい。

 外の曇り空と今の感覚が完全に一致。まあ体育館の中でやるから、外は関係無いんだけども。

 それにしてもイス無しの体育館だから、おもてなし感が薄くて、本当に私たち新・中学一年生を迎える気があるのかな。

 綾菜も多分私と同じ気持ちだろう、だって、始まる前から大あくびをしているのだから。

「風子はまた陸上クラブに入るの?」

 あくびの余韻を残したまま、喋り出した綾菜の声は、ひょろひょろと自信無さげに吹いたリコーダーの音のように、情けない声だった。

 その声に少し頬を緩ませながら私は

「帰宅部で別にいいかな」

 と適当に答えた。

 そう、適当でいい、人生なんて適当でいいんだ、って、小学六年生の春に悟った。

 いくら一生懸命練習したって、訳の分からない逆恨みをされて、気持ちが押し潰されて、そのままスランプに陥って、大会に出れなくなって、その部活動を終了することだってあるんだから、いっそのこと、何にも一生懸命にならないで、綾菜とダラダラ日々を謳歌するほうが楽しいような気がする、いや、正しいような気がする。

 上級生が笑顔で部活動紹介をしている。

 中学二年生や三年生になると、作り笑顔もうまくなるんだなぁ、と思いながら見ていた。

 ふと、隣に座った綾菜を見ると、完全に寝ていて、どこでも寝れるっていいなぁ、と思った。

 しかしそんな綾菜も起きなければならないゾーンへ、突入した。

 文化部のゾーンだ。

 まず吹奏楽部が大きな音を鳴らす、綾菜が飛び起き、

「はい! すいませんでした!」

 と謎の謝罪を叫ぶが、隣にいる私くらいにしか聞こえない、吹奏楽部の大音量。

 綾菜は

「何だ笛部ね」

 と誰よりも適当な解釈をし、目をしょぼつかせながら、夢うつつでステージ上を見ていた。

 そのくせに、綾菜は

「ドラムが下手、やらされてるね」

 とコメントだけ一流……いやまあ確かに綾菜のパパはプロのギタリストでバンドマンということもあって、綾菜は子供の頃からドラムをやっていたらしいので、もしかしたらドラムの技術も一流かもしれない。

 実際やっているところは見たこと無いけども、綾菜のパパから『うまいんだ』という話は聞いたことがあるから。

 でもこんなギリギリ起きているヤツに、そんなこと言われたくないだろうな、と思った。

 綾菜の声が聞こえないほどの大音量で良かったね。

 次は合唱部。

 ピアノの前奏に迫力のある歌声、この中に混じって歌える自信のある人っているのだろうか、と思った。

 部活動紹介に本気出しすぎるのも疑問だな、とか思っていると、綾菜は

「ドラムねぇじゃん」

 と有り難い一言、いや全然有り難くないけども、合唱にドラムあるの聞いたことないけども。

 きっと綾菜は合唱なんて何も聞いたことないんだろうな、バンド、バンド、ばっかりで、と、なると、この後の軽音部には何か興味を示すかもしれない。

 だとしたら、ちょっとピンチかも。

 私は綾菜とダラダラした日々を謳歌したいのに、軽音部に入るとか言い出したら、私も軽音部に入らないといけなくなるから。

 でも楽器なんて出来た試しがないし、ひょろひょろと自信無さげに吹いたリコーダーの音って私の小学生時代のリコーダーの音だし、歌もそこまで自信が無いし、とにかくちょっと嫌な予感がした。

 圧と感じさせるほどの合唱部の部活動紹介が終わり、次は軽音部。

 メンバーは全員女子、綾菜のほうを見ると、どう見ても食いついている。

 眠い目をこすりまくり、起きようと頑張っている感じがする。

 綾菜は六年生の時に、クラスの男子と、あることで対立し、あんまり小バカにしていじっちゃいけない事件があったので、少し男子が苦手なのだ。

「女子だけの軽音部って何かアニメになりそうだね! 私アニメ化したいな!」

 と綾菜はテンションが上がっているが、人間のアニメ化って何? と思った。

 よっぽどの偉人じゃないと人間はアニメ化しないでしょ、エジソンクラスしかアニメ化しないでしょ。

 軽音部の演奏が始まったその時、嫌な予感は変な方向で当たった。

 綾菜は小声で私に話しかけた。

「くっそ下手だね」

 ここは小声で有り難かった、普通の声で喋ったらステージ上の本人たちに聞こえそうだから。

 まあ確かに素人の私からしても、この軽音部が下手なことは分かる。

 まず音量が弱すぎる、自信無さげの頂点のような音の弱さ、ギターからひょろひょろとした音って出せるだぁ、と、逆に感心してしまった。

 綾菜は

「下手だなぁ」

 と感慨深く、ため息をつきながら言い放ったその声は、少し大きかった。

 周りにいた一年生一同は勿論、ステージ上の本人たちにも聞こえるくらいの声で。

 その声の直後だと思う。

 軽音部が演奏を止めて、一礼して、すぐさま舞台袖に戻っていったのは。

 チラチラとこっちのほうを見る目線が痛い。

 当の本人である綾菜は寝たふりバリアを張った。

 こんなにも大根役者な寝っぷりなのに、まるで私が下手発言をしたかのように思っているような視線の人も何だかいるように見えて、すぐさま大きな声で『私じゃないです! 綾菜のほうです!』と言いたかった、いやでも言えないよ、うわぁ、悪目立ちしてる、どうしよう……。

 軽音部が残したドラムの片づけが手間取っているので、この空いている時間が長く、みんな暇な分、なおさらこっち側をチラチラ見てくるので、胸が苦しくなってきた。

 もう我慢できなくなって、なんとか綾菜は起こそうと、肩をぐらぐら揺らすが全く起きない。

 さすが、寝たふりなだけあって絶対に起きない

 ドラムも片づけ終え、次の部活動紹介が始まる。

 記憶では科学部の部活動紹介のはずだけども、私は一つ、部活を見落としていた。

 日本語ラップ部という、訳の分からない名前の部活だ。

 ラップって最近流行りの、YOとかYEAHとか言って、なんだかチャラいヤツかな、私ラップって嫌いなんだよね、うるさい駄洒落というか、俺スゲェみたいなこと言って、何もすごくねぇよ、ダサすぎるでしょ、自分で自分スゲェとか言うヤツ、と思っていて。

 あと悪口がすごいし、ディスるって言葉を流行らせたのってラッパーなんでしょ、そんなつもりないのに、すぐ『ディスった』とか言われて、それで綾菜なんて六年生の時に、ディスったディスってない論争に巻き込まれて……まあ、今回の軽音部のヤツは完全にディスってたけども。

 普通に今、心の中で使っちゃったけど、このディスって言葉も嫌いだし、とにかく何から何までラップって嫌い。

 ――嫌いだったはずなのになぁ。


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