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裕はチェストバックのポケットからスマホを取り出し緊急通話で110番に繋げる。
「知らない4人組に絡まれてます助けてください」と少しだけ叫びながら警官を要請する。
バカは裕の思ってもいなかった行動に呆気に取られていたが、裕が叫んだ事で慌てだし「ちょっ、待て、ふざけるなよ」そう叫びながらスマホを取り上げようとするが、思ったより簡単に躱せることに裕自身も驚いた。
バカは軽く躱された事が面白くなかったのかムキになって手を振り上げる、思い通りにいかないと暴力を振るおうとするのは成人しても変わっていないらしい。
しかしバカの攻撃は裕を掠る事もできず右に左にと翻弄される。
高校の時は相手にするのも面倒で殴られてやったりもしていたけれど、今は何の接点も無いバカに殴られてやる理由も無い。
ずっとかっぱ擬きの謎生物相手に戦闘していて自分の実力も測りかねていたが、こうしてバカを相手にしてみると、自分の体力や筋力も含め戦闘能力が上がっているのが実感できた。
やはりボクシングも空手もたいした事は教わっていないようでも確実に自分の身についていた。
しかしお陰で人相手に手を上げられなくなったのはちょっとだけ残念だ。
そうでなかったらこのバカを思い切り殴り返す位できただろう。
そんな事を考えながらバカを適当にあしらっていたが、警察の姿を確認してから一発だけ殴らせてやる。
高校の時以来だったが思った程痛くは無かった。
と言うか、殴られ方も上手くなったようだ。
ついでに、派手に転んで痛そうな振りをして大騒ぎをする。
犬猿雉のトリオは警察の姿を見つけ慌てて逃げ出すが、裕は痛がる振りをしながらバカのズボンの裾を掴み逃げられない様にしている。
言っとくけど俺は示談にするつもりも無いし傷害できっちりと警察に届けは出すからな。
思えば高校の時も面倒がらずそうしておけば良かったと今は思っていた。
あれはイジメと言う言葉で一括りにできる事じゃない、絶対に傷害に恐喝と言う犯罪だった。
何故解決策を考える事無く大人しく耐えていたのか自分でも良く分からない。
多分高校と言う狭く窮屈な世界がそうさせていたのだろう、だが今となってはどうでも良い。
こんなバカに関わって時間を無駄にするより自分の為だけに有効に時間を使いたい。
裕は心からそう思っていた。
その後警察署に行く事になり、警察官に大袈裟にするなと言う様な説得めいた事を言われたが、逆にバカと警察官を軽く脅しておいた。
「暴力を受けたのは確かなのに怪我がたいした事無いと犯罪にならないのですか、それなら怪我させない程度にこのバカを毎日殴りに行っても犯罪にはならないって事ですよね。今まで随分我慢させられていたんです。ボクシングも空手でも犯罪にならないなら多少は目を瞑ってくれるでしょうから、警察がそう言うんでしたらこれからは私も安心して反撃させて貰いますね」
「いや誰もそんな事は」とか「生意気な」と警官の反応はそれぞれだったが、バカは裕が高校の時とは変わったのをしっかりと感じたらしく少し睨んだ程度で目を逸らしていた。
フン、バカが次俺の前に現れたら今度こそ手加減はしない。
これ以上俺の時間を無駄にさせる気ならその償いはきっちりとして貰う。
裕はさらにバカを睨めつけていた。
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