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入試のための勉強は、中学の復習を重点に午前中に1時間夜1時間と決めて始めた。
ボクシングジムにはダンジョン攻略のための準備運動を兼ねて午前中に行き、ついでに買い物などの用事も済ませ、家事も良く言えば効率的に、悪く言えば少々手抜きをしてできる限りの時短を目指し、エルフダンジョンを重点に攻略した。
魔物の湧き間隔も裕の限界近くまで早めたため集中は1時間持たせるのが精一杯だったので、50分魔物討伐で10分休憩と言う学校の授業の様なクールで繰り返し、食事休憩を挟みながら1日に最低でも8時間はダンジョンに籠った。
久しぶりにダンジョン攻略に重点を置いてみると、体力も集中力も結構落ちていた様で1日が終わるとかなり疲れている事が多かった。
しかしその疲れがそのまま自分が頑張っているという指標の様で、裕の気分はけして悪くはなかった。
そうして2か月たたずにその時を迎えた。
≪この空間は消滅します、最後の願いの申請を受け付けます≫
思っていた以上に早かったのは、普段からちょくちょく攻略していた影響もあるだろうが、裕が思っていた以上に消滅が近いダンジョンだったのかも知れない。
そして久しぶりの願いの申請に安堵からの溜息をつき、かねてから考えていた願いを口にする。
「管理者と引き続き繋がれる能力が欲しい」
裕がそう願うといつもの様に少しの間が空き≪完了しました≫という返事があった。
「ところでさ、引き続き繋がれる能力ってどう使えば良いの?」
≪空間内で念じていただければ、管理者が新たに管理する空間へと転移出来ます≫
「取り合えず空間を探す条件付けしなくて良いって事か」
≪そうです≫
「それで念のためにもう一度聞くけど、その転移は絶対に安心で安全なんだよな?」
≪それ程離れた場所に移動するとは思えないので大丈夫だと思います≫
念のために聞いたつもりが、何やら不穏な雰囲気を含む返事に裕は戸惑った。
「それって空間消滅後の管理者が移動する範囲って事?でも万が一離れた場所へ移動していたら事故の危険もあるって事?」
≪その可能性も無い訳ではありません≫
「じゃあダメじゃん。ああ、でも今ここであの黒猫と繋がりたいって念じてここに出入口を設置させてから移動すれば大丈夫なのか」
裕は一瞬焦ったが、女性騎士と色々と話していた事もあってすぐに解決策を思い付く。
≪しかし空間消滅と共にダンジョンの出入り口も消滅します≫
「それはこの場合出入り口は元の位置に戻るんだろうから関係ないだろう?出入り口が完全に無くなってしまう事はないんだよな?」
≪それはさせません。しかし時間がありません≫
焦った様に話し出すエルフに急かされ、裕は早速黒猫と繋がりたいと念じながら、消滅間際のダンジョン内に出入口を設置した。
そしてそこに現れた出入り口に急ぎ潜るとほぼ同時の様にしてその出入り口は消え、エルフのダンジョンが消滅した事を感じさせた。
しかし消滅に関して感傷に浸るよりも試したかった事を急いだ。
ここが黒猫の管理する空間だと分かっていたが、管理者が現れる前に管理者を人間のイメージで強く念じてみた。
もしかしたらその見た目を黒猫ではなく人間へと変えられるかもしれないと考えたのだ。
けして黒猫じゃ嫌だという訳ではなく、この先も繋がり続けるのなら人型で、脳内に響く会話ではなく実際に喋っていると感じた方が楽しいだろうと思ったのだ。
しかし裕のそんな願いは通じる事は無く、あの慣れ親しんだ黒猫が現れ裕の肩へと乗った。
≪管理者のキャラクター変更を望むならその能力を手にしてください≫
(あっ、あれぇ?ちょっと話し方の雰囲気が変わったか?)
脳内に響く黒猫の声は少し変わり、そのアクセントと言うか口調がAIを思わせるものではなくなっていた。
≪そんな事は無いと思われます≫
「いや、絶対に変わってるね」
裕は口に出して強く念を押すと黒猫は≪空間認定を始めましょう≫と話を逸らす様に言った。
なので裕はいつもの様にダンジョン認定させ、出現魔物はさすがにスライムは飽きてきたので一角ウサギにしてみた。
今までは裕の無意識下での認定だった筈なのに、黒猫は時間を掛け裕の要望を聞いてくれた事に何気に驚いていた。
これが繋がりの継続で絆が深まり、できる事が増えた内の一つなのかと勝手に納得していた。
他にもどんな事ができる様になったのかと胸をワクワクさせて考えていると≪他には別にありません≫と黒猫の返事が脳内に響きちょっとがっかりした。
しかしそれでも裕にとっては大きな違いなのは間違いなかった。
「近い内にキャラクター変更の能力を手に入れて、君を黒猫から人型へと変えてみせるから」
裕が黒猫に向けて挑む様に言うと、黒猫は返事もせずに裕の肩から降りた。
その態度から、黒猫にとってきっと見た目などどうでも良いのだろうと思えた。
なので裕もそんなにムキになって焦る事も無いかと思い直す。
実際この黒猫にも愛着はあったし、考えてみればペットの様で癒されてもいる。
「まぁ、いいか」
裕はそう呟くとダンジョンの外へと出てこの空間がある場所の確認をした。
そこは裕の住むアパートがある街と同じ県内ではあったが、北の端から南の端と随分と離れた距離だった。
そしてこの距離は事故も無く転移できる距離だったのかと少しの不安を抱えながらも、今自分がこうして事故も無く無事でいる事に心から安堵した。
そしてダンジョンに戻り、「ここって新しく出来た空間なの?」と黒猫に聞いた。
≪私は管理者不在の空間を選びました≫
「管理者が選べるんだ」
裕は何となく管理者は空間が消滅後ほぼ強制的にどこかの空間に移動する物だと思っていたので、管理者が自分で選ぶと聞いてちょっと驚きだった。
そしてまた一つこの空間と管理者の謎に近づいた気がしていた。
その後この黒猫が管理するダンジョンの出入り口を裕の部屋へと設置し直して部屋へと戻ったのだった。
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