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涼太は国家公務員試験を受けてこのまま国家未詳案件調査対策室に勤める事を勧めて来るが、既に裕にはそんな気はさらさらなかった。
国家公務員になってしまったら副業禁止だからダンジョンにも入れなくなるし、アパート経営もできなくなるじゃないか、と普通に思っていた。
今では裕の目標は現金3億円を貯めるではなく、アパート経営で得た不労収入で生活をするになっていた。
叔母と同居して叔母を助けながら家賃収入でゆったり生活って夢のようじゃないか、裕はそんな事を想像してはにやける思いだった。
しかししっかりしたところに就職しないと金融機関で融資を受けられないと言うのなら、必要なだけの現金を用意すれば良いだけの事だと、今は以前のように残業必須でダンジョンに籠っていた。
裕はそれらがけして夢物語じゃない現金を稼ぐ事ができるダンジョンに入れるって本当に有難い事だと思いながらまた、一緒にいる涼太に対して自分だけがこんなに稼いでしまって申し訳ないと言う思いは今はもうまったく無かった。
「何だか遠慮が無くなったって感じなのかな」
涼太は裕の心境の変化に気付いている様で、非難する訳では無く若い子の気持ちの入れ替えの早さは羨ましいと言っていた。
「俺は自分のアパートを持って不労収入目指す事にしたんだ、お金を借りられないのなら用意するだけだよ」
「このペースでいったら、本当に用意してしまいそうだね」
「俺は本気だってば、稼げるだけ稼ぐつもりだからよろしく」
「ははは、何だか羨ましいよ。僕がここで現金を手に入れても僕のものにはならないからね。僕が上手く交渉した結果だっていう事を忘れないでね」
涼太は恩に着せる気もないくせに、そんな事を言っているのだと裕には分かっていた。
分かっていたけれど、一応恩は感じていて、涼太と出会えた事は本当に幸運だったと思っている。
このダンジョンが見つかったのが涼太でなかったらどうなっていたか分からない、そう思えば涼太が言う多少の無理なら聞いても良いかなとは考えていた。
≪一定値の浄化の確認ができました、願いの申請を受け付けます≫
そろそろ7000万円を稼ごうかと言う頃になって、別に待っても居なかった願いの申請受付が来た。
「涼太さんどうする?」
「まだ時間が掛かると思っていたから結論が出てないんだよね」
「それでどうすんの?このまま放置しとくの?」
「それだと山伏君が稼げなくなっちゃうよね。上の方針が決まるのを待ってたらいつになるか分からないし、今回は不測の事態として処理しちゃおうか」
「どういう事?」
「僕らで勝手に決めちゃおうって事だよ。山伏君は何か願い事はないの?」
「家賃収入で生活できる位のアパートが欲しい」
「僕もそんな生活には憧れるけれど、やりがいのある仕事をしたいって気持ちもあるんだよね。話が逸れちゃったけど、今回は山伏君が決めちゃって良いよ。僕の知らない間にって事にしておくから」
「そんな事言われても困るよ。急にだと何も思いつかないし」
裕は涼太に聞かれていると思うと、以前自分が考えていたダンジョンでの討伐報酬の値上げをありのまま口にするのは欲望を丸出しにしている様で躊躇した。
「何か新しい能力を手に入れたいとか無いの?」
「だから俺は別にダンジョンを攻略したい訳じゃ無くて、お金を手に入れたいだけだから。俺だって人並みに欲望まみれなんですよ」
「そうだよね、人間は何の欲も無くなったらきっと生きては行けないよね」
「じゃあ、お金を借りなくてもアパートを手に入れられるだけの現金が欲しい」
≪もっと具体的な要望でお願いします≫
裕は具体的にと言われた事で、叶うかどうか分からないと思いながらも咄嗟に「1億円の現金が欲しい」と言っていた。
別に叶わなくてもどうって事は無かったし、叶ったら嬉しいかな程度にしか考えていなかった。
なぜならば裕としては今回の願いの権利は既に放棄していたので、それよりもさっさと済ませてかっぱ擬き討伐の続きを早く始めたいと言う思いの方が強かったのだ。
なので目の前に1億円が突如現れ≪完了しました≫と脳内に響いたのには正直驚いた。
裕は目の前に積まれた1億円に少しビビッていたが、涼太はすべて想定済みの事だったらしく驚いた様子をまったく見せずにその1億円に手をやった。
「良かったね、これで夢が一つ手に入りそうじゃないか。でもどうせならもっと大きい金額を言ってみれば良かったのに」
涼太はそう言うが、裕は目の前で起こった現実にまだ心臓がバクバクしていた。
何にもしていないのに1億円も手にしてしまって良いのかと言う後ろめたさと、涼太も一緒に居て知っているのに独り占めにはできないだろうと言う道徳心が裕を襲い、何をどうしたら良いのかも分からずにただ茫然としていた。
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