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「そうすると山伏さんの部屋にあるそのダンジョンと言うのは、他の人が入ったらまた別の物になる可能性があると言う事ですね?と言う事は、他国が探しているのはあの空間であってあの空間では無いと言う事でしょうか。少々ややこしいようですが、管理者と意思の疎通ができると言うのは本当に重要なんですねぇ。それって私にもできるのでしょうか。できる事なら私も管理者と意思の疎通を図り願いを叶えたい物ですねぇ。そうやってその空間を知る者達が奪い合う事になるんですね。残念なことに我が国は、この国家未詳案件調査対策室をだいぶ前から立ち上げていながら、今までは超能力や伝承に伝説の類にばかり力を入れていて、その不思議な空間を把握できたのは今回が初めてです。他国の動向を見るからにかなり出遅れたと言わざるをえません。しかしながら、今回山伏さんがかなり明確に管理者と意思の疎通が図れた事で、情報としては確かな物を手に入れる事ができました。これは他国との遅れを一気に巻き返せたことになります。できる事ならこれからの調査研究にも是非ご協力願えれば嬉しいのですがねぇ」
一度喋り出すとその熱量で圧倒して来る課長に圧され、裕はその言葉の羅列の半分も脳内に留める事無くただ頷くしかなかった。
「協力って言っても、あのアパートはもう売りに出したし、もうすぐ引っ越す事が決まってるよ」
裕は漸く拾えた課長の最後の言葉に反応してそう答えると、隣で佐藤さんも頷いていた。
「そうです、一応報告はしてある筈なんですが、あのアパートの所有者が変わるのでその後はどうするのか聞かれて、私は退去する旨を伝えてあります」
「なんとそれは困りましたねぇ、そちらに関しての対応も私どもで早急に致しましょう。そうしますと念のために伺いたいのですが、山伏さんはあの空間を諦めると思っても良いのでしょうかねぇ。だいぶ稼いでいたのでしょう、そう簡単に手放せるものなのですか? 私でしたらちょっと無理ですねぇ、そう簡単に諦められるものでは無いでしょう。もしかして何かまだ隠している事はありませんでしょうかねぇ。いやいや、何も疑っている訳では無いのですよ。しかしお互い隠し事は少ない方が守れるものも多くなると言いましょうか、意思の疎通は私達の間にも重要な事だと思うのですがいかがでしょう」
「い、いかがでしょうと言われても、お、俺には何を聞かれているのか、さ、さっぱりで・・・」
裕は課長の鋭い指摘に冷や汗をかきながら、しどろもどろになっていた。
「山伏君はまだ何か隠してるんじゃないのかと課長は聞いてるんだよ。分かり辛くてごめんね、慣れないと大変だよね。取り調べじゃないから緊張しないで良いよ」
涼太は裕を落ち着かせようとしてくれたが、空間内転移の話もダンジョンの出入口を好きな場所に設置できる話も絶対に知られる訳にはいかないと本能的に感じたので、固唾を呑むしか無く頑なに首を横に振っていた。
あのダンジョンを知られただけでこの状態なのに、さらに自分が別のダンジョンをいつでもいくつでも発見できると知られたら、いったいどんな事になるのだろうと思うと背筋が凍る思いだった。
最悪の話、権力に拘束され、自分のこれからの一生を縛られる事になるのだと裕はそんな妄想をして、空間内転移とダンジョンの出入口が設置できるこの二つの能力だけは、何が何でも隠し通さなくてはと強く思うのだった。
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