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裕はダンジョンへと慌てて駆け入り、呆然と立ちすくむ涼太の視線を塞ぐようにして、急いで涼太のすぐ目の前に大の字になって立った。
「ダンジョンって聞こえたけど・・・」
裕が先程大声で叫んだ声は涼太にも届いていた様で、今さらどうやっても誤魔化しようが無い事を受け止めていた。
「やっぱり見つかっちゃったかぁ」
裕は仕方なかったとは言え、こうして見つかってしまったこのダンジョンの事をどう説明しようかと考えた。
すると当然の様に黒猫が裕の肩の上に乗って来るので、裕は取り敢えず黒猫の紹介から始める事にした。
「コイツはこのダンジョンの管理者の黒猫」
裕が肩に乗った黒猫を指さしてそう言うと「黒猫?」と不思議そうな顔をしていたが、少しして「ああ」と今のこの状況を受け止め始めている様だった。
「そしてここはこの黒猫が管理しているダンジョン。この部屋に越して来て偶然見つけてから、皆には内緒で攻略させて貰ってるんだ」
「ああ、うん、何となく理解した。でももう少し詳しく聞いても良い?」
「良いけど・・・どうせだから、ダンジョン攻略しながらでも良い? 俺、今少しでもお金欲しいし」
涼太は裕の言葉に曖昧に頷きながら「任せるよ」と返事をしたが、裕は返事も待たずに次々に沸き始めているかっぱ擬きを、指先から発射される弾丸で打ち抜きながら説明を始める。
このダンジョンの管理者との意思の疎通問題、裕が管理者から聞いたこの空間ができる意味と真の存在理由、そして管理者との交渉の末のかっぱ擬き討伐のドロップとも言える報酬の事、それから一定の浄化が進むとどんな願いも叶えられると言う重要事項。
そして裕は空間内転移とダンジョンの出入口設定の事は敢えて隠し、ステータスオープンをできる様にして貰ったが結果はただのマイナンバーカード状態だと笑い話をして、次に魔法を使える様にして貰ったと自慢気に話した。
初めはかっぱ擬きとの戦闘に苦戦していたが、魔法が使える様になったお陰でこうして大分楽に倒せるとさらに自慢して見せた。
涼太がたてる乾いた笑い声を無視して、裕の今一番の問題である事実、このダンジョンで既に5000万円を稼いでいるが、そのお金をどうしたら良いのか悩んでいるのだと正直に告白して、実はその事で意見が聞きたかったのだと話した。
涼太は裕の説明を時折相槌を打ちながらひたすら静かに聞いていた。
そして裕が話し終わるのを待って「なるほどね」とおおむね理解した事を知らせると、涼太はだいぶ落ち着いたのか「僕からも少し聞いても良い?」と話し始めた。
「僕にはその管理者だと言う黒猫の声が聞こえないのだけれど、それって山伏君としか意思の疎通が図れないと言う事なのかな?」
「そんな事無いと思いますよ。だいたい黒猫の声なんて僕にも聞こえませんよ、頭の中にAIの様な音声が響いて来る感じです」
「それって念話って事なのかな。それでいつもどんな会話をしてるの?」
「いつもって・・・この黒猫とは必要な話しかした事はないです」
「じゃぁ、僕でもその管理者と意思の疎通を図れるのかな?」
「話しかけてみたらどうですか」
裕はそろそろ説明が面倒になり少し投げやりな返事を返した。
すると涼太は目を瞑り、黒猫との念話を試みているようなそぶりを見せ始めたので、裕は邪魔にならない様にとかっぱ擬きの討伐に集中する事にした。
そしてしばらくすると涼太は「僕にも会話ができたよ」と嬉しそうにするので、裕は「良かったですね」とだけ返した。
「その上でだけれど、ちょっと大事な話しをしたいので、今から少し時間を取って貰っても良いかな。ああでも部屋ではダメだね、盗聴されているみたいだし。できれば一緒に出掛けてくれると嬉しいな。大丈夫、君の不利益になる様な事はしないし、勿論5000万円の事も考えてあげるから安心して」
雰囲気がガラッと変わった涼太にまるで威圧されるかの様に迫られ、涼太はたいして無い唾をゆっくりと飲み込むと言葉も無く頷いていた。
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