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俺だけのダンジョン  作者: 橘可憐


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ボクシングジムの帰り裕は、シリーズ新作ゲーム発売予告のポスターを見つけ心を躍らせていた。


最近はすっかりそう言う情報にも疎くなる程ダンジョンに夢中になっていたのだ。


しかしこのゲームは裕のお気に入りでもあったし、その新作となれば当然プレイしたいと考えるが、このゲームを購入したらしばらくはゲームに夢中になりダンジョンの事が疎かになるのは裕には分かり切っていた。


中学も高校の時も夢中になり過ぎて学校を休む事もある位にゲームの世界に夢中になってしまうのだ。


一度攻略を済ませてしまえばそこまでではなく適度に楽しめるのだが、新作を手に入れてしまうと歯止めも聞かず攻略したくなってしまうのが裕の悪い所だった。


そもそも高校を中退した時に家族から引き籠り認定されたのもそのせいだった。


裕は高校を中退した鬱憤を晴らしたかっただけで、確かに現実逃避している所はあったが働きに出る覚悟をしてはいた。


取り敢えずアルバイトでも探そうと思ってはいたが、洗濯や食器洗いなどの家事や母や兄達のパシリなど押し付けられ父以外の家族からいい様に使われていたので、実際の所それで許されている様な気になってゲームに夢中になっていた。


しかし裕が部屋でゲームをしている姿しか知らない父は裕を殴り、情けないと吐き捨てる様に言い引き籠りとなじった事で家族全員からさらに蔑まれる事になった。


当然の様に母は家事を押付け、兄達は一度で済む買い出しをわざわざ何度にも分けて命令してきたり、父には食べさせて貰える事を有難く思えと食事の度に説教され、アルバイトを探したりゲームを楽しむ様な心の余裕を無くして行った。


そんな裕の窮地を知り家族から救い出してくれたのが叔母だった。

叔母は自分の住むマンションに裕を住まわせ、買い物や留守番をしてくれるだけで有難いと感謝してくれて、部屋を散らかさない限りは煩い事は何も言わなかった。


幼い頃から実家では冷蔵庫にある物を勝手に飲み食いしただけで激しく叱られたが、叔母は叔母の部屋にあるもの以外は自由にして良いと許され、買い物のおつりは小遣いだと言われた事が裕にとって逆に窮屈で不自由に感じていたが、それが段々と当たり前に感じる位に叔母と打ち解けて行った。


始めの内は叔母が変わっているのだと思っていたが、今では自分の家族が可笑しかったのだと理解できる。


裕は自分の過去を振り返り、あの時もゲームの新作に心躍らせていなかったならきっと先にアルバイトを見つけ、家族からあれ程執拗に蔑まれる事も無かっただろうとも考える。


しかしそうしていたらあの実家から出る事も無く、自分の人生は何一つ変わる事無く家族から虐げられていたかも知れない。


何が正解かは分からないけれど、少なくともあの時と同じ様にゲームに夢中になり過ぎての失敗はしたくはない。


このゲームを手に入れてしまったら、きっと自分は優先順位も加減も間違えてゲームの攻略に夢中になるかも知れない。


今はどう考えてもゲームに夢中になっている場合じゃない。

今のあのダンジョンが万が一誰かに見つかり取り上げられる事があっても困らない様に少しでも多く稼ぎ、そして一刻も早く新たなダンジョンを手に入れる事を考えなくてはならない。


せめてあくせく働かずに慎ましく食べていける位のお金を貯めるまではその優先順位を変える訳にはいかないと強く思う。


その為に叔母から振り込まれるお給料でNISAを始め、目立たない範囲で金も買い始めた。


裕は地味ながらも自分の人生設計を考え始めていた。


(新作ゲームは取り敢えず次の願いを叶えるまではお預けだな)


裕は店先に張り出されたポスターの前をママチャリで走り去った。



読んでいただきありがとうございます

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