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ブ、ブーーー
「このブザーの鳴らし方は玲子さんだな、まったく毎日毎日いい加減にして欲しいよ」
裕は不満を口にしながらも攻撃の手を止めダンジョンの外へと出る。
返事もせずにドアを開けると玲子さんは挨拶代わりに右手を軽く上げると、当然の様に部屋へと入って来る。
「俺も忙しいんだけど」
既に上がり込んでいる玲子さんの後姿に向かって声を掛けながらドアを閉める。
「日中に引き籠ってるだけなのに忙しい訳ないじゃない」
そう言われてしまうと別にテレビをつけている訳でもパソコンを開いている訳でも無いので、何をしていたかと聞かれると返事に困るのは確かだった。
(これからは言い訳代わりにパソコン位は開いておくか)裕はそう思うのだった。
「迷惑だってはっきり言えば分かってくれるのか?」
「やぁねぇ、裕君にだって息抜きは必要でしょ、裕君か金井さん位なのよここで私がゆっくり話しできるのは、私みたいな美人のお姉さんと話をする機会もそう無いでしょ、少しくらい良いじゃない。何なら私の胸を凝視する位なら我慢してあげるわよ」
玲子さんはワザと形の良い胸を張り突き出す様にしてみせるので、一瞬目が泳ぐが理性で視線を制御する。
「間に合ってます」
「今日は金井さん病院なんだって、追い出されちゃってちょっと寂しいの」
金井さんとはこのボロアパートに長く住んでいるおばあちゃんの事だ。
裕は仕方なしに冷蔵庫からペットボトルのミルクティーを出して手渡す。
「ありがとう、だから好きなのよ裕君の事」
一瞬本当に寂し気にしょげて見せていた玲子さんは忽ちに明るい声を出す。
始めの内はダンジョンが見つかりはしないかとかなり警戒していたが、玲子さんはダンジョンを背にした位置でテーブルに座り込むと案外行儀が良くて、喋りたいだけ喋って気が済むと流石に思春期の独身男の室内を詮索する様な事無く帰って行くのでどこか安心していた。
それに綺麗なお姉さんとちょっとお茶するのも確かに気分転換になるので休憩には丁度良いが、訪問時間が決まってない上に居座られると1時間位はダラダラされるのだけが困り物だ。
「あ~ぁ、早い所仕事を成功させてもっと良い所に越したいわ。裕君はさぁ、この辺で何か不思議な話とか聞いた事無い?」
「不思議な話って?」
裕は一瞬ドキッとした。
(まさかダンジョンの事じゃ無いよな?)
「う~ん、偶に聞くじゃない怪奇現象とか神隠しとか。私はあまりそう言うの信じてないんだけどね、上司がさあ興味があるらしくてこの地域でそんな話があったら調べてって煩いのよ。話している私が実際どんな物かも良く理解できてないし漠然としている時点で裕君に聞いても意味無いと思うんだけどね、意外にそう言うの探している人が多いらしくてさぁ、他の人に出し抜かれるなみたいな事まで言われちゃって参ってるのよ」
(あれっ、もしかして俺のダンジョン誰かに感づかれて探られてるって事じゃ無いよな? そう言えば管理者が他の空間の事も把握している様な話をしていたし、誰かに知られている可能性はあるって事か? じゃぁもしかしなくても玲子さんは俺のダンジョン探るためにこのアパートに越して来たって事か? あれあれ、じゃあじゃぁ、最近になって越して来た奴らはみんなそうかも知れないのか? それでこのアパートが急に人気が出てたのか?)
裕は玲子の話を聞きながらふとそんな事を考えてだいぶ焦り始めていた。
「俺には玲子さんが何言ってるのかちょっと分からないです」
裕は背中に冷たい物が流れるのを感じながら慎重に知らない振りをしてみせたが、誰かに知られたらどうなるんだろうと考えずにはいられなかった。
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