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俺だけのダンジョン  作者: 橘可憐


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11


ブーーーー


ダンジョン内にまで聞こえて来る部屋の外に取り付けられた古いブザーの音。


裕は慌ててダンジョンから飛び出し、「は~い」と返事をする。


ドアを開けるとニコニコ顔の韓国人留学生のイさんが立っていた。


「コレ、オスソワケネ」

手に持ったタッパーを裕に差し出している。


「いつもありがとうございます」

裕はお礼を言いながらタッパーを受け取り、軽く頭を下げる。


「イイヨ、イイヨ、ジャマタネ」

イさんは軽く手を振りながら部屋へと戻って行った。


最近このボロアパートに住民が増えた。

中国人の多分技能研修生夫婦(?)らしき二人が越して来たと思ったら、韓国人留学生と国籍不明職業不明さらに年齢もちょっと不明な外国人と、いつの間にかこのボロアパートは外国人アパートの様になっていた。


地方都市と言う割に周りは静か(辺鄙)な環境で、少し(だいぶ)不便ではあるが家賃が安いのが受けたらしい。


この今にも倒壊しそうなボロアパートに住人が増えた事は、叔母にとっては喜ばしい事だろうが裕にとってはちょっと面倒だった。


今までの住人とは管理人と住人と言う関係以外あまり接点も無く気軽にしていられたが、外国人が増えてから裕の仕事が確実に増えていた。


特に隣の部屋に住むイさんは、毎日時間も考えずひっきりなしに裕の部屋を訪ねて来る。

調味料が足りないから貸してくれは中国人夫婦もそうだが、こうして総菜を作り過ぎたからとお裾分けされたり、この街の事をあれこれ聞かれたり、そのうちに部屋まで上がり込んできそうな雰囲気だった。


とにかく外国人に頼られる事が多くなった裕は、管理人の仕事の一環として無視する訳にもいかず、ダンジョン攻略を度々中断させられる事が増えていた。


ある日の深夜、炭酸ジュースを切らしていたのにどうしても飲みたくなりコンビニまでママチャリを走らせた帰り、アパートの敷地内を両手を静かに振り回しながら歩き回る謎の外国人男性ジェルさんの姿を見た。


アパートにある街灯以外月明かりも無い薄暗い敷地内をウロウロ歩くその姿はちょっと異様で、何かの儀式でもしているかの様にも見えた。


裕は咄嗟に見ない振りをして慌てて部屋へと駆け込んだが、住人が暗い中で転んで怪我をされても面倒だと考え翌日は敷地内の草むしりをしながら念入りに掃除をする事にした。

宗教絡みの儀式だとか、個人的趣味のためかなど裕にはジェルさんの行動理由は分からなかったが、どちらにしてもきっと夜中にこっそり毎日の様に行っているのだろうと裕は勝手に想像し、これもアパートの管理人としての仕事と割り切った。


「管理人業務も楽じゃないな」

裕は最近になって仕事の大変さを身にしみて感じていた。



「裕、調子はどう?」

叔母が突然部屋を訪ねて来た。


叔母は裕の母の年の離れた妹でバリキャリの独身だったが、家事もできない専業主婦の母とは違い、できる女と言う印象と優し気なちょっと色っぽいお姉さんと言う雰囲気を漂わせていて、裕からすると何でいまだに独身なのかちょっと謎だった。


「ああ、ちわっす」


裕がドアを開けると叔母は当然の様に部屋に入り、部屋の中央に置かれたちゃぶ台の様な折り畳み式の足が付いた安テーブルに手を付きながら座り込む。


「元気そうで安心したわ」


部屋の様子をジロジロと見まわす叔母を無視して、裕はダンジョンの入り口がバレない様に気を付けながらお茶のペットボトルを冷蔵庫から取り出しテーブルの上に置いた。


「管理人の仕事が増えて大変だよ」


「そうそう、その事もあって来たの、裕はココの住人を増やすのと別のアパートに越すのとどっちが良い?」


突然の叔母の話にちょっとだけ驚いた。


残り二部屋にも入居希望者が居るらしいが、このアパートを売ってくれと言う話もあるそうだ。


破格の値段で買い取ってくれると言う申し出は嬉しいが、叔母としては相手が中国系なので悩んでいるらしい。


かと言ってこのアパートを満室状態にするのは、裕のリハビリがてらと思っている叔母にとって裕の負担を増やす様で躊躇しているらしい。


「住人が増えれば当然裕のお給料も増やせるのだけど、どうせなら欲しいと言ってくれる人がいるうちに思い切ってこんなボロアパート売って別のアパートに買い替えようかとも思うし悩むよね。裕の様子を見ると管理人業務もそつなくこなしているみたいだし、私としてはどっちでも良いんだけど、裕はどうして欲しい?」


叔母は悩むと言いながら自分の意見を押付けるでもなく命令するでもなく、実のところ裕の事を思い裕の意見を聞いてくれる様だった。

裕は叔母のこういう所が好きだった。


裕としては当然この部屋をと言うより、思う存分稼げるダンジョンを今はまだ手放したくはない。

せめて当初の目的であった1億円稼いだ後だったなら、別のアパートでも管理人の仕事を続けさせて貰いながら細々と生活する事を考えたかも知れない。

しかし裕のスーツケース預金はまだ3000万円弱にしかなっていない。


「できればここでこのまま管理人の仕事を続けたいです」


裕が思い切ってそう答えると叔母は嬉しそうに頷いた。


「裕がはっきりと自分の意見を言ってくれる様になって私は嬉しいわ。分かった、じゃぁ申し訳ないけど住人を増やすわよ。ココを売る話はギリギリまで値を吊り上げてからもう一度考えてみるわ。でも、ココもそう長くは持ちそうも無いから永遠って訳に行かない事は承知しておいてね」


叔母は話を済ませるといつもの様に用事が済んだとばかりにすぐに帰って行った。

必要以上に絡んでこないこの距離感が裕にとっても気楽だった。

それでも裕を思ってくれている気持ちは感じ取れるのが不思議でまた嬉しかった。


それに叔母は基本的にスケジュール重視で時間を無駄にしたくない性分らしい。

相変わらず忙しそうな様子の叔母の後姿を見送りながら、裕は叔母に言われた『そう長くは持ちそうもない』と言う言葉を思い返し少しでも多く頑張って稼ぐぞと気合を入れ直していた。



読んでいただきありがとうございます

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