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呪(うた)えない男魔女と黒の国  作者: 色鳥野菜
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3


 霧深い海を、どんぶらことぎゅうぎゅう詰めの木の舟が進む。

 拒みきれず押し入られ、船頭に出せと命令したソルはむっつりと黙り込んでいる。ほか二人も何食わぬ顔で乗り込んできた。とんだ望まぬ客人たちである。

 何故か四人向かい合うように座っているので、居心地が良くない。向かいを見ると、金色がこちらを睨んだ。

 

「どこに向かっているんだ」

「ババ様のところです」

「なぜ舟に乗る必要がある」

「……離島に住んでいるからです」

「なぜ」

「ソル」

 

 ルキウスが割って入り、目で諌めた。潤子はそっと息を吐く。このお坊ちゃんは、どうやら疑問は突き詰めなければ気が済まない質らしい。

 

「だがおかしいだろう!本来魔女は国内に留まるものだ。離島にいるなど、信じられるか」

「黒の国には黒の国の事情があるだろう。着いてきたのは俺達だ。気が急いているのは分かるが、落ち着け。舟が転覆するぞ」

 

 言い合う二人をどうしたものかと思っていると、右肩に重みがかかる。金の長い髪の持ち主が、ぐったりと潤子に寄りかかっていた。

 兄様、とか細く呼んだ声に、ルキウスは耳聡く聞きつけた。

 

「ベル、舟に酔ったか」

「うん……。でも、もう酔い止めがないの」

 

 後の二人も飲みきっていたようで、空であろう懐を叩くがなにも出てこない。

 自分の懐を探り、目当ての形の小瓶に指が触れた。

 

「お食事はされましたか?」

「え……?ええ、朝に少し」

 

 潤子の質問に、ベルは困惑した様子で頭を動かした。

 なにか無いかと衣服の裏地をひっくり返す男二人を横目に、感触で探り当てた瓶を出す。赤。当たりだ。一緒に布も一枚取りだし、広げる。

 今は昼前。空腹が酔いを進ませているのだろう。

 瓶の蓋を開け、左手に布を置く。その上に瓶の中身を垂らした。

 

「固まれ」


 大粒の雫は震えると、布に染み込む前に円形を保ったままコロンと転がった。薄い桃色の塊が、つやりと光る。

 成功した。

 何度もやっている事なのに、緊張していたらしい自分が安堵していることに、内心苦笑する。

 どうぞと、布に置いたまま、ベルの前に差し出してやる。


「酔い止めです。空腹時は効果が強いので、飴にしています。ゆっくり舐めてください」


 酔い止めと言ったが、正体は果蜜だ。島に菓子の類は少なく、子供達に一度作ってやったところ度々強請られるようになった為、持ち歩いていた。

 ベルは息を飲んで動かない。出してから、やってしまったと思った。

 先程の傷薬も使ったか分からないのに、直接体内に入るものを出したのは迂闊だった。信用ならない者からの食物は恐ろしいだろう。


「すみません。口にするものは気が引けますよね。島に着いたら、すぐ休めるように」

「いただきます」


 引っ込めようとした手を、両手で包まれた。そのまま飴を摘むと、躊躇なく口に入れた。


「ベル!魔女の作った薬を簡単に!」

「なによ、ソル。あなたと兄様だって、さっきこの人に貰った傷薬を使っていたじゃない」


 それは……!と口篭るソルに、ベルは続けた。


「兄様の傷が塞がったの、わたし見たわ。それに毒だったら今頃死んでるでしょ。なにより、兄様が止めなかったもの」


 ふふんと得意げに笑うベルに、ソルは顔を赤くして視線を逸らす。ルキウスはただ、潤子を見ていた。


「〜〜っ!ルキウスもルキウスだ!妹に言うことはないのか!」

「ベルは洞察力に優れているな」

「違う!危機感を持てと説教をしろ!」


 再び言い合うと言うよりも、ソルが一方的にルキウスを責め立てる。言葉の合間合間に、魔女は魔女がと言うソルにベルは思うところがあるようだ。


「……ソル、最近おかしいの。もっと優しい人なのに」


 彼らを知らない潤子は、どう相槌を打てば良いか分からずベルの波打つ金髪に視線を落とした。


「気持ち悪いのがなくなってきた。ありがとう、魔女さま」


 顎を上げ顔色が良くなったベルに、潤子は目元を緩めた。


 

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