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夢の中身~ゾンビは何の夢を見ているの?

掲載日:2023/12/17

 カナちゃんはゾンビ映画(えいが)が大好(だいす)きです。


 けれど分(わ)からないことが一(ひと)つあります。

 ふらりふらりと街(まち)を歩(ある)いているゾンビ、いったい何(なに)を考(かんが)えて歩(ある)いているのでしょうか?


「お父(とう)さん、ゾンビは何を考(かんが)えて、お散歩(さんぽ)しているの?」


 お父さんは

「アンドロイドなら、電気羊(でんきひつじ)の夢(ゆめ)でも見ているのかも知(し)れないけれどね」

と訳(わけ)の分(わ)からない事(こと)を言(い)い

「生(い)きていたころの夢を見ながら歩いているんだよ」

と笑(わら)いました。

「自分(じぶん)が死(し)んじゃったと分かったら、お墓(はか)に入(はい)って寝(ね)ちゃうしかないだろ?」


 なんだか、お父さんに誤魔化(ごまか)されたような気(き)がします。


「じゃあ、お父さん。お墓で寝ているゾンビなら、今度(こんど)はどんな夢を見るの?」


 お父さんは「そう来(き)たか」と、こんどは少し考えて

「楽(たの)しかったころの夢をみているんじゃないかな」

と答(こた)えました。


「遊園地(ゆうえんち)に行(い)ったり、デパートに行ったりした時(とき)の。それでゾンビはまた遊園地や公園(こうえん)に行きたくなって、お墓を出て歩き出す。夢を見たままね」


 これにははカナちゃんも「なるほど~」と思いました。


 でも、怖(こわ)い顔(かお)をして、ゾンビは追(お)いかけてきます。

 楽しい夢を見たままなら、追いかけてこなくても良(よ)いじゃない?


「夢は楽しい夢ばかりじゃないだろう?」

 お父さんは、こんどはイタズラっぽく笑うとカナちゃんに答(こた)えました。

「怖い夢を見る事もあるし、頭(あたま)にくる夢を見ることもある。お父さんは今でも、テストの答えが分からなくて困(こま)った時の夢を見てしまうことがあるよ」


「え~?」

 カナちゃんはビックリしてしまいました。

「お父さんは、そんな事(こと)が怖いの?」


「そうだよ。あと、地下鉄(ちかてつ)の中で、トイレに行きたくなった夢も怖い」


「あ~」

 これはカナちゃんにも分かります。

「地下鉄が駅(えき)に着(つ)くまで、タイヘンだもんね」


「そうだろ」とお父さんが頷(うなず)きました。

「駅に着いたら、トイレまでダッシュだ!」


「うんうん」とカナちゃんも頷きます。

「駅のトイレ、混(こ)んでるしねぇ」


「だから、前(まえ)の人より先(さき)にトイレまで着かなくちゃいけない。怖い顔で一生懸命(いっしょうけんめい)走(はし)るのさ」


 でも、なかには噛(か)みついてくるゾンビがいます。

 トイレに行きたい夢を見ているのなら、急(いそ)いで先へと走って行ってしまうでしょうに。


 お父さんに「ねえねえ、噛みつくゾンビは?」と質問(しつもん)すると

「考(かんが)えてみてごらん」

とお父さんは言(い)いました。

「お腹(なか)がすいた夢を見ていて、何があったら食べてみたい?」


「ケーキ! ……じゃないな。ハンバーグ?」


「そうだろう? ハンバーグなら食べたくても、牛(うし)さんや豚(ぶた)さんに噛みつきたいとは思わないよね」


 確(たし)かにお父さんが言う通(とお)りです。

 カナちゃんは牧場(ぼくじょう)に連(つ)れて行ってもらった事がありますが、牛さんはカナちゃんよりも大(おお)きいのです。

 お乳(ちち)絞(しぼ)りをするときにも、ちょっと怖(こわ)かったのを憶(おぼ)えています。


「うーん……」

 カナちゃんは悩(なや)んだ後(あと)に、ピン! と閃(ひらめ)きました。

「だったら、噛みつくゾンビは、虎(とら)やライオン、恐竜(きょうりゅう)になった夢を見ているゾンビなんじゃないかなぁ」


「よく分ったねぇ」

 お父さんがパチパチと拍手(はくしゅ)しました。

「ティラノサウルスになった夢を見ているゾンビなら、噛みついてくるかもねぇ」


 ティラノサウルスやヴェロキラプトルなら、恐竜が出てくる映画(えいが)で観(み)ました。


 代(か)わりに、ブロントサウルスやトリケラトプスの夢を見ているのなら、食べるのは草です。

「でも、お父さん?」とカナちゃんが反撃(はんげき)に出ます。

「映画に出てくるゾンビは、ニンゲンばかり追(お)っかけているよ!」


「カナの言う通(とお)りだね」

 お父さんは、カナちゃんの反撃にも動(どう)じません。

「ニンゲンばかり追っかけて、犬(いぬ)や猫(ねこ)を追っかけるゾンビもいないねぇ」


「それって変なんじゃない?」

 カナちゃんは畳(たた)みかけます。

「ティラノサウルスだったら、ぜーったいニンゲンばかりを追いかけないよ!」


「それには二つ、訳(わけ)が考えられるね」

 お父さんは、指(ゆび)を一本(いっぽん)立(た)てました。

「犬と猫とカナ。よーいドンで駆(か)けっこしたら、ドンケになるのは、だ~れだ?」


 カナちゃんはしぶしぶ「カナがビリだね」と認(みと)めました。

「そっかぁ。ニンゲンが追っかけられるのは、足(あし)が遅(おそ)いからなのか」


「それが一つめ」とお父さんが笑いました。

「そして、もう一つは」と、お父さんはもう一本指を立て

「演出上(えんしゅつじょう)の理由(りゆう)だよ」

と言いました。

「映画なんだからね。こちらの理由のほうが大きいかな?」


「えんしゅつじょうのりゆう?」

 なんだかよく分かりません。

「もうちょっと、詳(くわ)しく教(おし)えて」


 お父さんは「はいはい」と言うと

「魚釣(さかなつ)りの番組(ばんぐみ)で、ず~っと釣(つ)れない場面(ばめん)だけ映(うつ)していたらいたら、どう思う?」


「タイクツだねぇ。厭(あ)きちゃうよ」

とカナちゃんは直(す)ぐに応(こた)えました。


 カナちゃんは、お父さんと魚釣りに行くのですが、釣れないときはタイクツになります。

 それでカニを捕(つか)まえたり、餌(えさ)を海(うみ)に投(な)げたりしたりして遊(あそ)ぶのです。


「だから釣り番組では、魚が釣れた時(とき)だけをまとめて放送(ほうそう)しているんだよ。釣れていない時間(じかん)はカット。だからズ~ッと釣れている時だけが映っている。こういうのを、演出(えんしゅつ)って言うんだ」


「そっかぁ!」

 これでカナちゃんにも『映画でゾンビがニンゲンを追っかけていない』のが映っていない理由が分かりました。

「草食恐竜ゾンビやトイレダッシュゾンビ、ただのお散歩(さんぽ)ゾンビはカットされているんだね!」


「そうに違(ちが)いない、とお父さんは睨(にら)んでいるのさ」

と、お父さんは自信(じしん)まんまんに言いました。

「だってブロントサウルスになった夢を見ているゾンビが、花壇(かだん)の葉(は)っぱを食べているのを、二時間(にじかん)ずーっと映しているゾンビ映画なんて面白(おもしろ)くないだろうからねぇ」


「ゼッタイ、誰(だれ)も観ないよね」

 カナちゃんも頷きます。

「それに、作(つく)った監督(かんとく)さんは怒(おこ)られちゃうもんねぇ」


「しかし」とお父さんは「そんな変な映画もあるんだ。ゾンビじゃなくて幽霊(ゆうれい)の映画だけど」と言いました。

「『死霊(しりょう)の盆踊(ぼんおど)り』という映画なんだけど、幽霊がズ~ッと変なダンスをしているだけの映画」


「早送(はやおく)りで観ても、ツマンナそう」


 カナちゃんの答(こた)えに、「そうだねえ」とお父さんは笑いましたが

「けれど、そのバカバカしさに、今(いま)では最低(さいてい)映画として、人気(にんき)が出たりしてるんだ」


 カナちゃんは驚(おどろ)いて

「お父さん、観たの?」

と質問(しつもん)しました。

「サイテー映画って、知(し)ってて観たの?」


「借(か)りて来て観たよ」

と、お父さんは胸(むね)を張(は)りました。

「ウワサどおりに、ツマンなかったなぁ」


「バカだねぇ」と、カナちゃんは笑ってしまいました。

「ツマンナイと分かってて、観てみたらヤッパリその通りだったってさぁ」


「でも、そういうバカなことって、忘(わす)れられないものなんだよ。真面目(まじめ)なゾンビ映画なんて、どんな映画だったのか思い出せなくなっちゃっていてもね」

 お父さんはしみじみと言いました。

「ニンゲンって、ほんとうにバカなことが好(す)きなんだねぇ」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「撃(う)つな」


 拳銃(けんじゅう)を構(かま)えた警官(けいかん)に、隊長(たいちょう)がストップをかけました。

「あの親娘(おやこ)ゾンビは、いつも楽しそうに散歩しているだけだ。決(けっ)して襲(おそ)っては来ないから、そっとしておいてやれ」


「しかし隊長」

 狙撃(そげき)を制止(せいし)された若い警官が反論(はんろん)しました。

「万(まん)が一(いち)、という事が」


「確かにあるかもしれん。急に狂(くる)って襲い掛かって来るなんて事が」

 隊長も、若い警官の懸念(けねん)を認(みと)めました。

「けれど残弾(ざんだん)数(すう)を考(かんが)えてみろ。補給(ほきゅう)が何時(いつ)届(とど)くのか見当(けんとう)も付(つ)かんし、無駄弾(むだだま)は一発(いっぱつ)も許(ゆる)されんのだ」


 そして隊長は「良(よ)いお天気(てんき)ですね」と親娘ゾンビに挨拶(あいさつ)しました。

「お散歩するには絶好(ぜっこう)ですね。お気をつけて!」


 お父さんゾンビは頭を下げて隊長に挨拶を返(かえ)し、娘(むすめ)ゾンビは二人の警官に手(て)を振(ふ)って……

 そして親娘ゾンビは遠(とお)くへ歩(ある)き去(さ)って行(ゆ)きました。



                         おしまい

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― 新着の感想 ―
面白かったです すごく わたくしゾンビ映画(とサメ映画)が好きなもので、終始ニヤニヤしながら読んでいました 出来るならわたくしも面白かった本や漫画の記憶を反芻しながら図書館や書店を徘徊するお散歩ゾン…
[良い点] 「冬童話2024」から拝読させていただきました。 お父さんが女の子に自分のマニアックな知識を伝授するほのぼのものかと思いきや、見事なラスト! してやられました。
[一言] わぁ。 最後の最後で! びっくりしました。 「死霊の盆踊り」気になります!
2024/01/02 10:51 退会済み
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