表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夢の中身~ゾンビは何の夢を見ているの?

 カナちゃんはゾンビ映画えいが大好だいすきです。


 けれどからないことがひとつあります。

 ふらりふらりとまちあるいているゾンビ、いったいなにかんがえてあるいているのでしょうか?


「おとうさん、ゾンビは何をかんがえて、お散歩さんぽしているの?」


 お父さんは

「アンドロイドなら、電気羊でんきひつじゆめでも見ているのかもれないけれどね」

わけからないこと

きていたころの夢を見ながら歩いているんだよ」

わらいました。

自分じぶんんじゃったと分かったら、おはかはいってちゃうしかないだろ?」


 なんだか、お父さんに誤魔化ごまかされたようながします。


「じゃあ、お父さん。お墓で寝ているゾンビなら、今度こんどはどんな夢を見るの?」


 お父さんは「そうたか」と、こんどは少し考えて

たのしかったころの夢をみているんじゃないかな」

こたえました。


遊園地ゆうえんちったり、デパートに行ったりしたときの。それでゾンビはまた遊園地や公園こうえんに行きたくなって、お墓を出て歩き出す。夢を見たままね」


 これにははカナちゃんも「なるほど~」と思いました。


 でも、こわかおをして、ゾンビはいかけてきます。

 楽しい夢を見たままなら、追いかけてこなくてもいじゃない?


「夢は楽しい夢ばかりじゃないだろう?」

 お父さんは、こんどはイタズラっぽく笑うとカナちゃんにこたえました。

「怖い夢を見る事もあるし、あたまにくる夢を見ることもある。お父さんは今でも、テストの答えが分からなくてこまった時の夢を見てしまうことがあるよ」


「え~?」

 カナちゃんはビックリしてしまいました。

「お父さんは、そんなことが怖いの?」


「そうだよ。あと、地下鉄ちかてつの中で、トイレに行きたくなった夢も怖い」


「あ~」

 これはカナちゃんにも分かります。

「地下鉄がえきくまで、タイヘンだもんね」


「そうだろ」とお父さんがうなずきました。

「駅に着いたら、トイレまでダッシュだ!」


「うんうん」とカナちゃんも頷きます。

「駅のトイレ、んでるしねぇ」


「だから、まえの人よりさきにトイレまで着かなくちゃいけない。怖い顔で一生懸命いっしょうけんめいはしるのさ」


 でも、なかにはみついてくるゾンビがいます。

 トイレに行きたい夢を見ているのなら、いそいで先へと走って行ってしまうでしょうに。


 お父さんに「ねえねえ、噛みつくゾンビは?」と質問しつもんすると

かんがえてみてごらん」

とお父さんはいました。

「おなかがすいた夢を見ていて、何があったら食べてみたい?」


「ケーキ! ……じゃないな。ハンバーグ?」


「そうだろう? ハンバーグなら食べたくても、うしさんやぶたさんに噛みつきたいとは思わないよね」


 たしかにお父さんが言うとおりです。

 カナちゃんは牧場ぼくじょうれて行ってもらった事がありますが、牛さんはカナちゃんよりもおおきいのです。

 おちちしぼりをするときにも、ちょっとこわかったのをおぼえています。


「うーん……」

 カナちゃんはなやんだあとに、ピン! とひらめきました。

「だったら、噛みつくゾンビは、とらやライオン、恐竜きょうりゅうになった夢を見ているゾンビなんじゃないかなぁ」


「よく分ったねぇ」

 お父さんがパチパチと拍手はくしゅしました。

「ティラノサウルスになった夢を見ているゾンビなら、噛みついてくるかもねぇ」


 ティラノサウルスやヴェロキラプトルなら、恐竜が出てくる映画えいがました。


 わりに、ブロントサウルスやトリケラトプスの夢を見ているのなら、食べるのは草です。

「でも、お父さん?」とカナちゃんが反撃はんげきに出ます。

「映画に出てくるゾンビは、ニンゲンばかりっかけているよ!」


「カナの言うとおりだね」

 お父さんは、カナちゃんの反撃にもどうじません。

「ニンゲンばかり追っかけて、いぬねこを追っかけるゾンビもいないねぇ」


「それって変なんじゃない?」

 カナちゃんはたたみかけます。

「ティラノサウルスだったら、ぜーったいニンゲンばかりを追いかけないよ!」


「それには二つ、わけが考えられるね」

 お父さんは、ゆび一本いっぽんてました。

「犬と猫とカナ。よーいドンでけっこしたら、ドンケになるのは、だ~れだ?」


 カナちゃんはしぶしぶ「カナがビリだね」とみとめました。

「そっかぁ。ニンゲンが追っかけられるのは、あしおそいからなのか」


「それが一つめ」とお父さんが笑いました。

「そして、もう一つは」と、お父さんはもう一本指を立て

演出上えんしゅつじょう理由りゆうだよ」

と言いました。

「映画なんだからね。こちらの理由のほうが大きいかな?」


「えんしゅつじょうのりゆう?」

 なんだかよく分かりません。

「もうちょっと、くわしくおしえて」


 お父さんは「はいはい」と言うと

魚釣さかなつりの番組ばんぐみで、ず~っとれない場面ばめんだけうつしていたらいたら、どう思う?」


「タイクツだねぇ。きちゃうよ」

とカナちゃんはぐにこたえました。


 カナちゃんは、お父さんと魚釣りに行くのですが、釣れないときはタイクツになります。

 それでカニをつかまえたり、えさうみげたりしたりしてあそぶのです。


「だから釣り番組では、魚が釣れたときだけをまとめて放送ほうそうしているんだよ。釣れていない時間じかんはカット。だからズ~ッと釣れている時だけが映っている。こういうのを、演出えんしゅつって言うんだ」


「そっかぁ!」

 これでカナちゃんにも『映画でゾンビがニンゲンを追っかけていない』のが映っていない理由が分かりました。

「草食恐竜ゾンビやトイレダッシュゾンビ、ただのお散歩さんぽゾンビはカットされているんだね!」


「そうにちがいない、とお父さんはにらんでいるのさ」

と、お父さんは自信じしんまんまんに言いました。

「だってブロントサウルスになった夢を見ているゾンビが、花壇かだんっぱを食べているのを、二時間にじかんずーっと映しているゾンビ映画なんて面白おもしろくないだろうからねぇ」


「ゼッタイ、だれも観ないよね」

 カナちゃんも頷きます。

「それに、つくった監督かんとくさんはおこられちゃうもんねぇ」


「しかし」とお父さんは「そんな変な映画もあるんだ。ゾンビじゃなくて幽霊ゆうれいの映画だけど」と言いました。

「『死霊しりょう盆踊ぼんおどり』という映画なんだけど、幽霊がズ~ッと変なダンスをしているだけの映画」


早送はやおくりで観ても、ツマンナそう」


 カナちゃんのこたえに、「そうだねえ」とお父さんは笑いましたが

「けれど、そのバカバカしさに、いまでは最低さいてい映画として、人気にんきが出たりしてるんだ」


 カナちゃんはおどろいて

「お父さん、観たの?」

質問しつもんしました。

「サイテー映画って、ってて観たの?」


りて来て観たよ」

と、お父さんはむねりました。

「ウワサどおりに、ツマンなかったなぁ」


「バカだねぇ」と、カナちゃんは笑ってしまいました。

「ツマンナイと分かってて、観てみたらヤッパリその通りだったってさぁ」


「でも、そういうバカなことって、わすれられないものなんだよ。真面目まじめなゾンビ映画なんて、どんな映画だったのか思い出せなくなっちゃっていてもね」

 お父さんはしみじみと言いました。

「ニンゲンって、ほんとうにバカなことがきなんだねぇ」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


つな」


 拳銃けんじゅうかまえた警官けいかんに、隊長たいちょうがストップをかけました。

「あの親娘おやこゾンビは、いつも楽しそうに散歩しているだけだ。けっしておそっては来ないから、そっとしておいてやれ」


「しかし隊長」

 狙撃そげき制止せいしされた若い警官が反論はんろんしました。

まんいち、という事が」


「確かにあるかもしれん。急にくるって襲い掛かって来るなんて事が」

 隊長も、若い警官の懸念けねんみとめました。

「けれど残弾ざんだんすうかんがえてみろ。補給ほきゅう何時いつとどくのか見当けんとうかんし、無駄弾むだだま一発いっぱつゆるされんのだ」


 そして隊長は「いお天気てんきですね」と親娘ゾンビに挨拶あいさつしました。

「お散歩するには絶好ぜっこうですね。お気をつけて!」


 お父さんゾンビは頭を下げて隊長に挨拶をかえし、むすめゾンビは二人の警官にって……

 そして親娘ゾンビはとおくへあるってきました。



                         おしまい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白かったです すごく わたくしゾンビ映画(とサメ映画)が好きなもので、終始ニヤニヤしながら読んでいました 出来るならわたくしも面白かった本や漫画の記憶を反芻しながら図書館や書店を徘徊するお散歩ゾン…
[良い点] 「冬童話2024」から拝読させていただきました。 お父さんが女の子に自分のマニアックな知識を伝授するほのぼのものかと思いきや、見事なラスト! してやられました。
[一言] わぁ。 最後の最後で! びっくりしました。 「死霊の盆踊り」気になります!
2024/01/02 10:51 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ