第8話 ご注文はエルフ先輩に灸を据えるでよろしいですか?
鍵っ子です。
実は、今回の十月の初めの三連休までは高頻度で更新をしようと計画をしておりまして、個人的には上手くできたかなぁ~なんて、思っています!
父親が帰宅し、コンビニ弁当を支給してくれた後にすぐさま外出をする。その後、少しだけ夏川さんとサインでやり取りを行った結果。
『では、ご注文はエルフ先輩に灸を据えるでよろしいですか?』
『なにソレ! エルフって耳がとんがってるから森先輩のことだよね?』
『なんか、印象に残ってたからついね。』
『まぁ、確かに(笑)』
『では、本題に戻ります。ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?』
『おねがいします』
『承りました。』
以上、やり取りは終了。
あれだけ特徴的ならば、朝一の電車でエル先を見つけ出せるはずだ。
最高の一日をご提供してやるとしよう。
自分がお風呂から上がった頃には父親が女性を招き入れて、酒を飲みながら談笑をしている。
「いや~ん! いっちゃんの息子ちゃんがお風呂から上がってきた~」
「そうだね~、まいちゃん!」
「ども、じゃあ僕は寝ます」
「おやうみぃ~」
「おぅ! 良い夢見るんだぞ」
既にお酒によって出来上がった父と女性……いい夢というか、正直ちょっとキツい。
翌日も、生憎の空模様で青空は見えないが、ギリギリ天気は持ち堪えている様な状態だった。
「いってきます」
そうは言いつつも実際にお家にいるのは愛猫だけだ。まん丸の瞳でグルニャ~ン! と、あくび混じりに挨拶をしてくれたのを確認して、駅へと自転車で向かう。
雨が降る確率が予報で高いと言うこともあり、普段は自転車通学の生徒も電車を利用する関係上、学生も増加するし、他の利用客だって当然ながら増加する。梅雨時期は混み具合が中々の物だ。
「あ~! 大山君じゃないか~! 奇遇だねぇ~元気かい?」
「ま、まじか」
「ちょいちょい! 面倒くさそうにするのやめてくれます!? この俺でも流石に傷付く」
だが、桐内君もいるならば彼には少しだけ悪いけど協力して貰うとしよう。
「ごめん、桐内君に朝一から協力して欲しいことがある。悪い虫を追い払うだけなんだけどね」
「おけ! んじゃあ、教室で詳しい話は聞くよ」
「あ~、うん」
ごめん! 正直なところいきなりぶっつけ本番です。教室に着く前に解決します。
そんな会話をしている間に、乗り込む電車が到着するが……。
「うへぇ~……めっちゃこんでる~」
「だね」
その電車が停止し、ドアが開かれるよりも少し前に僕は一人の女の子に目が止まっていた。
「あ、冬梅さん」
「ん? なんか言った?」
その瞬間、ほぼ自動的に押し込まれる様な形で電車内に詰め込まれる。
「わわ、ちょちょ」
「いや、ちょい! まち」
見事に桐内君と分断された代わりに、冬梅さんとの距離がめちゃくちゃ近い。
「あっ! えっと、おはよう。大山君」
「うん、おはよう。冬梅さん」
めちゃくちゃ近い、大丈夫か僕は! 変なところを触っていたりしないよな? 彼女は小柄だから、スクールバッグとか変な位置に行ってたらどうしよう! しかも、冬梅さんの真後ろは壁だからなおさら僕がバランス崩したらまずい!
「なるべく、冬梅さんのスペースを空けてみる」
「無理はしないでね? 私のうしろは壁だからちょっとは余裕ある」
「あ、ありがとう」
満員電車はそんなことなど知らんぷりで、動き始める。
その後もお客さんは続々と侵入し――。
超絶満員電車と化す! いやいやいや! やばいです、流石にまずいです。
冬梅さんとの距離が近過ぎますし、良い匂いがします! って、アホ―! そんなこと考えてる場合じゃない!
柄にもなく、僕は照れている!? いや、恥ずかしさ? 良くわからないが、顔には出ていないから大丈夫だ。
「流石に、僕もお手上げです」
「大山君、もうちょっと寄っても大丈夫だよ?」
「あ、うん」
ほんの気持ちだけ近づくと冬梅さんは――。
「ふふっ……! すごく狭いし、ちょっと暑いね」
そう言って、彼女は長い前髪を片方だけかき分けて無邪気で屈託のない笑顔を僕に向けてくれた。
「だ、だね」
あーーー! もう、お腹いっぱおですぅ~なんなんですか! これは、良くないですよ。良くありません! 本当に良くありません!
更に追い打ちをかける様に、電車がブレーキを掛けた反動で車内が大きく揺れてしまう。
「わわっ! 揺れ、ちょっと大きい!」
「冬梅さん、だいじょ――」
言葉半ばで強制終了――。
冬梅さんの顔……正確には頬辺りが僕の肩がけしているスクールバッグによって、膨らんだ腕肘の関節部分に当たっている。
と、同時にスクールバッグに関しても両手でしっかりと、まさにホールド状態。
実際問題、彼女自身も照れていたり意識したりなんてこともあるのだろうか? その答えはそっぽを向いている冬梅さんにしか分からない。
「だ、だいじょぶです」
「しばらく、そのままで大丈夫だからさ、気にしないで」
「はぃ……恥ずかしいですけど、ちょっとは信用してますよ」
「ん? 何か言った?」
返事をしてくれたと思うけど、後半は聞き取れなかった。
ただ、そっぽを向いてコクリと小さく、首を縦に一回だけ振っていた。
ふむ、余計な詮索はしないが吉か……。
少なくとも、冬梅さん自身が僕と密着し過ぎない様に回避する方法もある筈だが、そこまでの選択を選ばなかった事実だけでも大きな変化と言えるだろう。
程なくして、超絶満員電車を解放する目的地へのドアが開かれる。人の流れに任せて無事に二人は解放される。
「ありがとう、近くに大山君がいてくれてすごく助かりました」
「お、おう」
「また、教室で会おうね! 先に行っちゃいます!」
そう言って、冬梅さんは自分のスクールバッグを両手でギュッと握りしめたまま走り去ってしまう。
「教室で会おうね……か」
「おぉーい! やぁっとみつけたぁ!」
ドーンっ! と、勢いよく僕に体当たりをしてくる桐内君とのじゃれあいの中でしっかりと、とんがった耳の先輩を視認する。
スマホにイヤホンをセッティングし、再びポケットの中にぶち込む。
「なになに? 音楽でも聴く準備かい?」
「ん? あぁ、そんなとこだよ」
その後は、エル先を背後から視認できる位置をキープしながら桐内君との何気ない会話を交えつつ、機会を伺う。
「そう言えばさぁ、きーのーうは夏川さんと帰りの電車が被ったんだよねー」
そして、タイミングをエル先の耳に届く距離の雑談をわざと行う。
「おいおい? 急に夏川さんがどうしたんだよ?」
突然の話題提供に戸惑う桐内君とは別に、冷めた視線を突き刺す勢いで僕を視界にとらえたエル先がその場に留まる。
「それがさー、先輩とお話をしてたみたいでぇー」
次の瞬間に目を見開いてブチギレ寸前のエル先が僕を真っ直ぐに睨みつける。
「ま、まさか! 大山君、あの先輩を挑発した!?」
「おまえ、昨日電車にいた奴だな? 丁度良い、少し話をしようじゃないか」
「あ~、それはいいですね。ちょうど、僕も同じ気持ちでしたよ森先輩」
そう言って、僕はすかさずセッティングしていたイヤホンを両耳に付ける。
「おいおい! 大山君、何やってんの? お話しするんでしょ?」
「気にしないで、僕はこれでも聞こえるし」
「年下の癖に、イヤホンを付けて会話だと!? ふざけるのも大概にしやがれ!」
やはり、この手の人物は年下の無礼を優しく指摘する技量はなく、怒りで委縮させて自身の要求を通そうとする。
そして、怒りの刃をそのまま収める方法を知らずに振りかざすことも想定済み。
その読み通り、エル先は無理やりイヤホンのコードを力の限り引っ張る。結果、見事にコードが外れる筈だったが、千切れてしまった。
これは想定外。
「あーあ、結構高いイヤホンだったのに」
「はっ! 罰が当たったな!」
「いや~、本当ですよねぇ~! こいつちょっと失礼過ぎたって言いますか。ねぇ、本当に申し訳ないです!」
「しょうがないので、先輩にも聞かせますよ。僕の好きなやつ」
「いや、大山君!? 突然、豹変し過ぎだよ? どうしちゃったのさ」
動揺する桐内君が場を保とうとしてくれることによって、しっかりとプラン通りに計画が進んでくれている。
バリバリの登校時間、学年はバラバラでも大人数が学校を目指すこの場所で、大立ち回りをする!
「どうぞ、皆に聞いて貰いましょうか」
音量をMAXボリュームにして流す痛恨の一撃をあなたに――
【え~、次は~次は~光洋台】
【なんで! なんで、いつもここ最近は同じように一緒に帰ってくれているのに! 俺の誘いはずっと断ってばっかじゃないか!】
【いえ、違うんです。これには訳が……】
【一週間も一緒に同じ電車に乗って会っているのに、俺の家にすら夏川は来てくれないじゃないか】
【そんなの……どう考えても、森先輩だってまじめに考えてくれてないですよね? 拒否します】
【俺は、夏川と一回でもいいんだ! ホテルだっていいんだ】
【まて! まだ話は――】
【い、いや……】
【あぁ~すいません。先輩、僕の手が滑っちゃいました】
大音量で流れる当事者の一人は、膝から崩れ落ちる。
「な!? ちょっと、まさかとは思ってたけど! やまっち、ここでやるなんて!」
一方で、もう一人の役者も騒動の中で僕らを発見する。
「あぁ~、おはよう夏川さん。ごめんね、またしても僕の手が滑っちゃいました」
「今の声って森先輩、あなた自身なんですよね? 一体、どう言うことですか? せんぱいさん」
合流した夏川さんを庇うようにして片手を広げて静止を促す桐内君、突発的に組み込んだピースは上手く作用し、確実にエル先を追い詰める。
同じ学校の生徒が多数行き交う校舎の正門手前での大告発、周囲の視線はやがて大きな波紋を呼び始める。
「てめぇええええ! それで、勝ったつもりかよ! な、なめんじゃねぇぞ!」
もはや、正常な思考判断が不可能な程の窮地に追い込まれたエル先は怒りを盾に立ち向かわなければならない状況になっている。
「勝ち負けの話ではありません。森先輩自身が後輩に向けてしていたお話の内容です」
そんな宣言を無視して、エルフ先輩は僕の顔面に拳を叩き込む。
ガツンと響く一発を格好よく受け流すこともできずにもろに喰らう。
「いって~、暴力は良くないですよ。まったく」
そう言って、僕は前髪を搔き上げる。
「ひぃ……! な、なんなんだよ、お前はぁ!? わ、分かったよ! 全部、俺が悪かったからゆるしてくれぇ!」
またしても想定外、顔に大きな傷があるとかではないが目つきが良くない為、前髪でそれを隠していたのだが、誤って髪を上げてしまった。
それでなくても虚ろな瞳で拍車がかかっているし、これは桐内君や夏川さんにも良くないイメージを与え兼ねない!
「わぁーお! 大山君って人相わるーい! そんでもって殴られてやんの~」
これも想定外、とことん変わった人だ。
「うるさいですよ、外野は黙ってなさい。で、許してと言ってますが~どうするんですかぁ~」
「あ、えっと……私の件は大事には至らなかったので問題はありません。でも、知り合い……ううん! 友人を殴った件は一生許しません! これで、二度と会うことも話すこともありません!」
こっちは友情度にまで影響を及ぼした。僕は知り合いから友人に昇格したようだ。
「だそうですよ、じゃあ。僕たちはこれで、さようならです」
これにて、エル先ことエルフ先輩にきつーいお仕置きができた。
その場から、立ち上がることすらできなくなった先輩との距離は大きく広がり小さくなった頃、ちょうど僕たちが校舎の入り口に入った時――。
耐えきれなくなった空から大粒の雨が降りそそいだのだった。
「もう! 無茶苦茶し過ぎだよ、やまっちは!」
「そーだ、そーだ! 後でお二人さんにはしっかり事情を話して貰うからね?」
「あははー、耳が痛いなぁー」
そんな会話の途中で、服の袖をちょこんと掴まれる。
「ん、どうしたの」
「へ!? あれぇ、あたしったらな~んか掴んじゃった! ありがとうね、おおやまうろあきくん!」
そう言って、夏川さんは自分の手を前に出す。
僕は、それに釣られるようにして握手を交わした。
「どーいたしまして」
「あとはー! 釣り部にあたしも入部します!」
「ま、まじぃ!」
「おぉー」
先輩騒動から一変し、夏川さんの一言によって候補者は入部希望者に変化した。
~ご注文はエルフ先輩に灸を据えるでよろしいですか? END To be continued~
このお話で、最後の候補者が入部を決定づける内容となっており一応は軽くですが、一区切りですね。
今後の更新頻度は毎日ではなくなりますが、週一くらいのペースで更新を目標とします。
さらに今回の内容で冬梅さんや夏川さん、桐内君共に少しだけ気持ちの変化が伺えたかな~って思っております。
良ければ、ブックマーク、評価&感想を頂けるとさらなる励みになります!
ブックマーク増えてて嬉しかったぁああああ! 一件でも増えればピョンピョン跳ねれる勢いです!
では、次回の更新でもお会いいたしましょう!