第7話 お近づき回避大作戦
鍵っ子です。
そう言えば、いつだったか忘れちゃいましたけど「釣りに行く〜」みたいな話をしてた気がします。
管理釣り場という、言わば海上釣り堀ならぬ淡水釣り堀みたいな施設に行ってきました。
その日、アルビノ種と言われるニジマスの色違いみたいなやつなんですけど、薄オレンジ黄色みたいな鮮やかな色合いのお魚が好調でした。
アルビノ、奇麗な色した魚なので是非とも間近で見て欲しい魚です!
小さな音くらいならば簡単に掻き消すほどの土砂降り。
重苦しい空気感を背負ったまま、僕はただただ駅のホームで静かに佇み、夏川さんの様子を伺っていた。
次の電車が来るまでにおおよそ三分、その間にも標的は既に夏川さんとお喋りに明け暮れている。
見てくれはやせ型でスタイルは普通なのだが、異様に耳がとんがっているのが特徴的な先輩だ。
名前を知らないからエルフ先輩と呼称しよう。
「やぁ! こんな雨の日でも同じ電車だね」
「はい~! ほんっと先輩とは良く、一緒になりますね」
解、エルフ先輩はいかにも偶然を装ってはいるが、これは無理やりに必然な物を偶然に仕立て上げているに過ぎない。単純なハナシ、エル先は夏川さんが来るまで駅のホームで待ち続けているだけだ。
「ははっ! 今日もボックス席が空いてるといいね!」
「そうですね! 森先輩」
ほう、森先輩にエルフ先輩と名付けた自分はかなりいいセンスしてる! なんてことを思いながら、呼び名はこのままエル先にしよう。
そうこうしている内に、JR予讃線松山行きの電車が到着する。いつもと変わりなくブレーキ音を鳴らしながら電車が到着する。
ガコンガコン! と、ドアが開きエル先と夏川さん、僕らは同じ電車に乗り込む。
と、同時に自分のスマホが振動していることに気づく。
『私は、堀江駅で降りるから〜』
『了解、そこまでは耐えてくれ』
時間にして約十二分間の耐久戦、ボックス席を発見したエル先によって導かれるように夏川さんは吸い込まれて行き、戦いの火蓋が切って落とされた。
僕が位置取りしたのは、ちょうどエル先からは背中の位置に当たる箇所で、夏川さんからは僕の姿が視認できるポジション。
流石にヒソヒソ声であれば電車の音に掻き消されてしまうが、一部は聞き取れるかもしれない。
「どうかな? 夏川は高校生活に慣れてきたかい?」
「そうですね~、まずまず馴染めてきたかなぁ~って言った感じです」
「じゃあさ! 俺にもそろそろ慣れてくれた頃合いかな?」
「ん~……そうですね。多少は、ですかねぇ~」
「あはは! それでも俺は嬉しいよ!」
【え~、次は~次は~柳原】
とりあえず、今の段階で聞き取れた内容で引くような物はなかった。
ふむ、しかし間違いなく自分の印象を気にしている典型的なパターンだ。
意外と普通な感じもするが……。
「そうそう! 今度さ、シネマで一緒に映画をみたいな~って、思っててさ! どうかな?」
「映画ですか?」
「サメ映画なんだけどさ! 今度は人間とサメが融合したサメ男が登場するんだって!」
いや! なんつー映画を見ようとしてんだよ! 見ねーよ、だいたいサメ男ってなんだよ! どっちが喰われてんだよ! わけわかんねぇよ、とりあえずみねーよ!
「いや~、それはちょっとー」
「じゃあ、夏川が見たい映画で! 一緒にいこう!」
【え~、次は~次は~栗井】
流石の僕でも男女でサメ映画をみる選択は博打過ぎないだろうか? それでも尚、退かないエル先は図太いと思います。やめた方がいい! 傷はまだ浅いですよ。
「いつか、時間が合えば~ですね」
「カラオケでもいいんだよ!? 俺は二人っきりでも問題ないし!」
「いや~、森先輩ってばもう! グイグイきますね~」
「いやいや! これくらいは行かないと、すぐに夏川が取られそうでさ!」
ん? なんだ、いきなり話題の雲行きが怪しくなっていないか? 露骨と言うか、これはまるで――。
【え~、次は~次は~光洋台】
夏川さんが降りる駅はこの次、解放されるまであと少しだ。
「なんで! なんで、いつもここ最近は同じように一緒に帰ってくれているのに! 俺の誘いはずっと断ってばっかじゃないか!」
「いえ、違うんです。これには訳が……」
「……れの…にも……きて……」
「そん……! ……めに……ます」
ガタンガタン! 大きな電車の音によって後半は聞き取れたもんじゃなかった。でも、幸いしたのは夏川さんの表情が僕の位置からならば、はっきりと見えると言うこと。
【え~、次は~次は~堀江】
その後の会話は全く聞き取れなくなってしまったが、夏川さんが耐え凌いでいる最中で唯一はっきりと、聞こえていなくても聞こえてきたメッセージを読み取る。
『たすけて』
運よく電車は堀江駅に到着を果たそうとしている。その途中で、当然だがエル先も別れの時であることを勘づいている。
「まて! まだ話は――」
「い、いや……」
夏川さんが、それを求めるのであれば僕は遠慮なく邪魔をしようじゃないか。
「あぁ~すいません。先輩、僕の手が滑っちゃいました」
最後の最後、停止直前の揺れを利用して掴みかかりそうになっていたエル先の手を強引に僕は引き剝がす。
「大山、くん!?」
「ありがとう、明日も宜しくね。夏川さん」
そう言って僕は、優しく手の甲を掴んでそのまま夏川さんを立ち上がらせた後に、その手を送り出すようにして優しく離す。
一瞬の間、夏川さんの動きが止まったもののすぐさま各駅停車のタイムリミットがせまる。チラリと僕の顔を見たのちに夏川さんは無事に退却を果たす。
「おい! テメー、陰キャの癖して格好つけてんじゃねぇーぞ!」
「お言葉ですが、先輩さん。僕自身はその陰キャって言葉が個人的には大嫌いです」
「奇遇だね! 俺もお前は大嫌いだ」
「これ以上、騒ぐつもりはないのでこれだけは言っておきます。僕は陰気なキャラクターではなく、れっきとした人間です。空想上のキャラクターではありません。それでは、さようなら」
そのまま立ち去ろうとしたが、エル先は勢いよく立ち上がり僕の腕を掴み上げて、エル先がそれを許さない。
「調子こいてんじゃねぇーぞ!」
力いっぱいに僕を引き寄せ、今度は胸倉を掴み上げる。
「手を出すのは結構ですが、今の先輩では状況が余りにも良くないんじゃないですか?」
ざわつくお客さんの視線に晒され、軽く舌打ちをしながらエル先は掴んでいた胸倉から手を離した。そのまま、僕自身も何事もなかったかの様に一つ前の両へと移動した。
その後は接触もなく、なにごともなく自分が降りる駅への案内音声が流れる。
【え~、次は~次は~三津浜】
「はぁ、家に着くか……」
実のところを言うと、自分の家に関してもあまり好きではない。中学を卒業して数ヶ月の間に父親の浮気が原因で離婚、その後は父親としばらくは二人で暮らしていたのだが、問題は父親が新たに我が家へ招いた女性にあった。
なんとなーく、感じ取れる物があっておそらくその女性が浮気相手なのだろう。と、言うふわっとした感触を感じていた。この方との線引きも重要だと考えている為、深くは潜り込まず極力避ける選択肢を僕は選んでいる。
「ただいま」
とは、言っても今のところウチに居るのは自分とお留守番をしていた愛猫のみ、父親も女性も喫煙者の為、タバコのニオイが染みついた部屋とリビングには無数の酒瓶が床に直置きされている。実の母親と居たときにはありえないほど変わり果てた部屋、そのリビングを極力直視しないようにして、自分の部屋に引きこもる様にして入る。
しかし、自分の部屋も漫画本や、ポーズ資料にトーンや画材が散乱している現状を見るとほとんど差はないなと、感じるのであった。これでも一応は夢なんてものを抱いていたりもする。
そんなことを考えながらもふと、スマホを確認すると夏川さんから例の収穫物が送信されていた。
「本当、仕事が早くて助かるよ」
前半の内容はほとんど僕が聞いていた内容であったが、後半のお話に関しては……正直言って気持ちの良いモノではなかった。
「これは、単なる下心だな」
僕も含めて、色々と多感な時期に差し掛かる年齢だ。そういうモノに興味を持たない方が無理と言うものではあるが、それにしたって理性がそれをある程度はカバーするものだが。
これでは、ところ構わずに発情している野生動物と同じだ。
「夏川さんを狙っていた理由がコレとはね……」
いいだろう、森先輩と言っていたな。そこまで喧嘩がしたいならば、望むところだ。アンタをコテンパンにする準備は整ったぞ。
流石に春山さんのご友人であると言うこともある手前、久々にイラっと来ている自分がいる。明日がエル先にとって夏川さんとまともに唯一、話せる最終日になる。
~お近づき回避大作戦 END To be continued~
さて、今回のお話もどうすれば面白くなるかなぁ〜? と、試行錯誤をしながら執筆しておりました。これから先の展開は? 何より、恋愛にはいつから発展し始める!? などなど、色々うなりながら考えてます!
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では、次の更新でまたお会い致しましょう!