第50話 フラッシュバック
春山の一件が丸く収まり、それから数週間が経過した。
気がつけば、季節は夏となり気温が瞬く間に三十度を軽く超え始める。
そんな七月の半ば、当然クラス内での服装にも変化があり、皆が半袖の制服になっている。
勿論、僕だってそうだ。
と、なれば自然と露出度も上がる訳でして〜……
「あっつい〜! あぢぃよ〜ん」
「分かってるわよ! なっつー? んなことを口に出すなー!」
「今年は特に暑く感じるねー」
何の変哲もない昼休みの時間、夏川はちょいと際どいラインくらいまで胸元のボタンを空けている。
手をヒラヒラと胸元で仰ぐ度に、襟元が同じくヒラヒラと揺れる。
そんな夏川を正面にしている僕は少々、目のやり場に困る。
「なっつー!? 男子もいんだからね! 目の前にっ!」
「んあ~? 別にいいよ〜。目の前にいるのうっちーとやまっちだけだしぃ〜」
「いや、なっつー? 二人とも、その〜……多分、困ってるよ」
「べっ! 別に? 俺はそ、そもそもそも……み、みてねーし?」
「ひ、左に同じく」
ジトーっとした目で女性陣の三名は何故か僕だけを見る。いや、なんでだよ!
「ふぅ~ん? まぁ、うっちーは視線が分かるから良いとしてぇ〜……やまっちは視線すら分かんないからな〜」
「だよな〜? もしかしたら、ガン見かもしんねーぞ!?」
「エッチ、どすこいエッチ、すけこまし! ばっかじゃないの!?」
「いやいや、まてまて。 早とちりだ春山」
「やーい、やーい! やまっちのエッチ〜」
いや、しかもすけこましじゃねぇ! 後、どすこいエッチってなんや!
「そんな、見てないから」
「いや、見てるんかーい! バッチリ白状するやん!」
なんて、会話をしながら何気ない日常が今日も過ぎようとしていた。
そんな和気あいあいとした空間が数分経過する。
「そーいえばさぁ? やまっちはいつになったらうっちーと、友達になるの?」
と、夏川が不意にそんな質問をする。
「おーい? そりゃあ、いくらなんでも冗談が過ぎるぜー! もう、とっくに友達だもん。な?」
「あ、うん。そうだね」
だけど、ふと……
ここにきて、ここまで仲良くなっておきながら今更ながらも暗い陰は不気味に、にじり寄る。
「でもさ? 友達だった人を亡くしておきながらさ? よくまた友達、作ろうって思えたよね?」
その言葉に、誰一人としてすぐに反応する者は居なかった。
「おい、夏川。お前さ……それ、どう言うことを考えて発言してんの?」
「えー、何々? あたしなんか、いけないこと言った? 普通に疑問だな〜って、思っただけだよ?」
「あのなぁ〜……少しは遠慮しろって」
「なんでさ! 別に新しくやまっちの友達としてあたし達が居るんだから別に良くない? なにが、ダメなの?」
「ねぇ、なっつー? そ、それは冗談にしては良くないよ?」
「そうよ! これに関してはりあちゃんとあーしも同意見よ!」
「あー、いやいや。皆、気にしないでよ! 僕なら平気だから」
小さな、波は少しずつ大きくなる――。
まさに、そんな雰囲気。
「ほらぁ、やまっちだって全然気にしてないっていってるじゃん? ねね、なんで友達作ろうってなったの?」
そう言って夏川はわざと質問している。
「やめろって、夏川。冗談にしては度が過ぎてるからさ」
「あーん! うっちーも、うるさいなぁ〜」
「や、やめなよ。なっつー? 本当に良くないよ?」
「りあちゃんまで!? 勘弁してよー! 友達の一人が亡くなったくらいでさぁ……」
「なっつー! いい加減にしてっ……! それ以上は許せなくなるからね! あーしも」
波は更に大きくうねる。
「ちぇー……なんだよぅ、なんだよぅ。みんなしてやまっちをかばってさ〜、こんなんじゃ情報にすらなんないや」
「一々、んな情報はいらんだろ! つか、俺と大山が友達なんて当たり前だろ。理由なんてねぇよ」
「そ? でも、聞いた時のやまっちの反応は良くなかったケドねー」
「バカ言ってんじゃねぇ。んなわけあるかよ、な?」
その時――
蘇ってしまう、僕に同意を求める桐内の姿があの日の面影と重なる――。
【オレと――は一生トモダチだろ、な?】
無邪気に、屈託なく笑いかけながら僕はあの子にそんなことを言ったんだ。
結果、そんな容易く壊れる『一生』なんて絵空事は友人があっさり死ぬことで更地になった。
まさに、これまで築き上げたナニかが一瞬でゼロになる様に。
「うっ……ゔぉえ!」
あー……これは、まずいな――。
「お、おい!? 大山、大丈夫か!?」
「お、大山? 大丈夫?」
「なっ!? 急にどうしたのよ!」
コレはダメな奴だと認識する。
胃の中がひっくり返された様な感覚――。
あの日、目の前で光を失っていく親友の姿が僕を睨む様に見ている。
不愉快な何かが一気に喉から逆流し、溢れ出そうとする。
が、しかし! ここで吐く訳には行かない!
だから僕は――。
「ごぶぅ……ゴッ! ごめん! 保健室に行く!」
「おい、大山!?」
本当に心配した様子で声を掛ける桐内を僕は無視して、そのまま教室を一気に抜け出した。
~フラッシュバック END To be continued~




