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第47話 可能性があるのなら……【Ep.春山怒留湯編】

「そ、そもそも! おとぎ話みたいなそんな摩訶不思議、ありえないです」

「ったく、理解しない子だね。だからこそ、こっちだってリスクの少ない取引を選んでやってんのさ」

「ほ、他にもあるんですか?」

「あぁ、あるとも! お前さんの肉でも構わないよ! 右腕でも左腕でも……」

「も、もういいです!」


 正直、凄く気味が悪い……。私だってもう、ある程度の判断はできる年齢だし、胡散臭い話の判別もそれなりにできると思っていた。

 でも、いざ目の前にしてみればご覧の有様だ。


 第一、恋心ってなんだ? そんな物を差し出す代わりに姉の記憶が戻る可能性を生み出せる?

 理解不能だし、にわかには信じがたい。


「確かに、警戒するし胡散臭いなぁ? なんて、思うだろ? だがね、このチャンスは一回キリだよ。それと、タイムリミットも残り僅かだ」

「そ、そうやって! 判断を焦らす魂胆ね! 見え見えよ!」

「そうかい、なら……もう。取引はなしでいいね」


 そう言ってお婆さんはドアの方へ向かい、私に背を向ける。

 うっ……でも、行かせたらチャンスは二度とない? 罠と理解していても、もう……私にはそんな突飛な話でさえ、救いなんだ!


 なら、もう決まりだ――。


「あげる、あげるわよ! 恋心くらい!」

「ほい来た!」


 私が瞬きを一回する時間で、お婆さんは既に私の手を握り、力強く私を引き寄せる。

 次の瞬間に、お婆さんの左手が……額に……。



「お休みなさい、っと……」


 すかさず、病室のドアを叩く音が聞こえた。

 私はこれで潮時だ。すぐに、窓際まで駆け寄り次の準備に入る。



「あの〜、失礼しますよー? はるやまー? それとお姉さーん?」


 俺は静かな病室を見渡す。


「なんだ、二人とも寝てるのか」


 そこには、よく似た寝顔が二人。

 静かに……ただただ、寝息をたてている。





 僕は促されるがままに、夏川と会話をしていた。

 話の内容なんてもんは、何の変哲もなかったし夏川は情報通だと感じる部分があったが、やはり彼女は……。


 いや、そんなことよりもそろそろ合流しても良い頃合いだろう。何だかんだで話し込んでいて、軽く十五分くらいは消費してる。


「じゃあ、そろそろ合流しようか」

「あ~……まぁ、こんなもんかな? なんつってね! いいよ! 行こっか」


 彼女もまだ、何かを抱えているのは理解している。だが、まずは春山が正念場だ。





 夏川と僕が再び、春山姉の病室前に差し掛かる頃、桐内と冬梅も同時に合流した。

「おー! スゲーな、ドンピシャじゃん」

「それよりも、つぶあんをバッグに忍ばせて行方不明にさせるとは……」

「えっ!? つぶあん持ってきてたの! ヤバいじゃん」

「まだ、見つかってないみたいだね」

「やべぇよな……でも、病院では騒ぎになってないみたいだし? そのうち、ほら! 出てくるやろ」


 なんとも呑気な奴だとは思うが……まぁ、うん。

 そのバッグの膨らみ方からして既にいそうな感じがする。


「ねぇ、桐内。バッグの中身チェックした?」

「ん? いや、見てないけど?」

「開けてみ」

「そーいや、やけに膨らんでるね」

「嘘だろ……んなわけ」


 ジジッ! と、音を立てながらジッパーがスライドして行く。

 すると――。

「キュー!」


 見知った顔がヌッ! と、現れる。


「あっ……うん、なんか〜ごめん」



 おるやんけ! 今までのやり取りを返せ!


「流石、うっちーだね」

「とりあえず、つぶあんも無事だったし」

「となれば後は〜」

「ラスボスのぬるちゃんって訳だねー!」

「べ、別に敵とかじゃないよね……」


 数回ノックし、ドアをガラガラと引いていく。


 その先には案の定、鳴瀬川が居たのだが……。

 何も言うことはなく、僕らの前にやってきた。


「やられたよ。二人とも寝てる」

「あらら〜、どまどま〜!」

「こうなっちまうと、どうしようもねぇなぁ」

「二人にしてあげようか」

「だね、それが一番いい筈だよ」


 穏やかな夕陽に照らされて、眠りに着いた二人は何処かやけに触れては行けない様な雰囲気を漂わせていた。

 


 と、その前にだ。


「おい、鳴瀬川。なんもしてないだろうな」

「ん~~? オレがナニか、したと思う?」

「だから聞いたんですが」

「バカだな〜、そんなの馬鹿正直に言う訳ないだろ? 付き合った男女は大抵エチチなことをしてるけど。みな、揃って言うでしょ? やってないってね!」

「やけにお喋りだな」

「ハァ……釣れないね〜。ま、寝顔を見たくらいだよ」

「そうか」


 まぁ、気になった程度の話だし、更に噛みつく程のもんでもないか。


「おーい! お二人さん? 早く帰りますぞよ〜」

 夏川の言葉を聞くと鳴瀬川はすぐに、軽く手を挙げた。

「んじゃま、行きますか。大山クン」

「ですねー、鳴瀬川クン」


 なんて、会話を交わしながら僕らはエスカレーターで降りて行く。


〜可能性があるのなら……【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued~

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