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第46話 罠とお婆さんからの取引 【Ep.春山怒留湯編】

 その時、ふと僕と冬梅の間をすり抜ける様にして紙飛行機が通過し、春山姉の個室に飛び込んで行った。

「紙飛行機? 誰かが飛ばしたのかな」

「それよりも、ぬるちゃんを探さないと!」

 と、僕の疑問はすぐに塗り替えれる。

「確かに、どうしようか?」

「手分けして探しましょう、私は階下を探すから大山は四階から上をお願いします」

「分かった」


 そうして、二手に分かれて捜索を開始する。

 


 気がつけばもう、冬梅は見えず僕は一人で少しの間だけだが、ぼっ立ちをかましてしまった。


 と、言うのも情報量が多すぎる! とてもじゃないが思考をこらす様な隙がなさすぎる。これでは感情的になってしまいそうだ……。


「やー、やー! ようやく君をみつけれたよ」


 突然、僕の背後から一度聞けば忘れさせてくれない、奴の声がした。


「来ていたのか、鳴瀬川」

「おっとぉ〜? 後ろ向きにも関わらず、オレと判断できるとは……ご明察さ!」


 こ、コイツ……よりにもよってこのタイミングでかよ!


「お見舞いに来たのか」

「勿論、それと……そうだな。バルコニーって七階にあるみたいだよ?」

「それをわざわざ言いに?」

「いやいや、オレはお見舞いに来たんだよ」

「そうか、なら……忠告だ。今は行かない方がいいと思う。それだけ」

「そ? ご忠告どうも」


 そう言い残して、僕はエレベーターに向かい七階を目指す。

 しまった……鳴瀬川が今の春山に何を吹き込んだか検討もつかない。

 とにかく、急げ――。




 焦る気持ちを抑えながら、エレベーターは目的地に辿り着くと機械音声を流した後に、ドアを開く。


 そのまま、導かれる様に真っ直ぐに歩を進め……

 その先に居たのは……。


 夏川雨楽、だった。


「見事に騙されたねー? 残念でした。夏川ちゃんでーす」

「どこまでが仕込みだ?」

「んー? あぁ、ソユコトね! 別に、鳴瀬川はバルコニーの場所を伝達しただけでしょ? 深読みし過ぎ」


 そう言って、夏川はイタズラっぽく微笑むのだった。完全にやられた! しかし、こんなことをして何の意味があるのだろうか?


「こんなことをして、何か目的があるのかい?」

「いやいや……ちょいと待ちなよ? 勘違いしてない?」

「勘違いだって?」

「そそ、別にだれも何も言ってないでしょ?」


 ()()()()()()()()だと? だからこそ、ココに来たのは僕自身の勝手な行動だと言いたい訳か。

 鳴瀬川の含みある言い方を勝手に深読みすると踏んでの計画……。

 だが、それすらも勘違いだ! と、方を付けようとしているな?


「ならば夏川は何故、鳴瀬川と連携している」

「イヒヒ〜! 連携、れんけいかぁ〜!」

「凄い笑い方……」

「そんなの、利害の一致だよ」

「どんな利益だよ」

「教えてあげないよ〜だ!」


 そう言って、右手をヒラヒラさせる。


「なら、僕は戻らせて貰うよ」

「え? いやいや、ちょいと待ってよ! 少しくらいあたしの番が……いや! 話をしてよ!」

「いや、なんでだよ。春山を見つけないと……」

「鳴瀬川もたまには活躍をさせたげてよ」


 そんなことを言って、夏川は僕のシャツの一部を遠慮がちにちんまりと持つ。

「ちょっとくらい、相手にしてよ。そんなに大山が必死になる必要あるの? 恋人でもないでしょ」

「いや、だからって心配しない訳ないだろ」

「はぁ……すぐ近くのトイレ。しかも、四階だよ! はい、解決。あたしね? 見てたんだよね実は」

 何たる策士、いやたまたまか? にしても、夏川と鳴瀬川の連携は上手く出来すぎている。


「そして、遅ればせながらに鳴瀬川を四階に導入、か」

「あ、別に何かを吹き込んだりもしないから大丈夫だよ〜。つか、心配ない」

「はぁ……分かったよ。そこまで言うなら少しだけ、話すか」


 まぁ、ここまでやられては流石に僕も必死になる必要はあるまい……。


「やった! んじゃ、ねー……」


 取り留めもない、夏川との会話がスタートするのだった。






 私がトイレから出た、タイミングですぐ近くに鳴瀬川がいた。

 彼は何かを言っていたが、生憎と私には余裕がなかった。

 だから――。


「ついて来ないで! そっとしておいて!」


 そう、吐き捨てながら記憶のない姉がいる病室へと戻ったのだが……。

 なんとそこには、見知らぬお婆さんが立っていた。

「あっ!――っ」

 と、何かを言おうとした矢先でお婆さんが人差し指を口元に当てて静かにしろと合図する。


「寝てるからねぇ、静かにおし」

「いや、アナタは誰なんですか? 勝手に入って来ないで下さい」

「まぁまぁ、春山怒留湯。邪険にせず、取引をしないかい?」

「と、取引?」


 よく見ればこのお婆さん、さっき暴れた人だ。

 でも、不思議と嫌悪感がないのは何故なのか。


「何の取引ですか?」

「あたしゃ、桐内さ……んんっ! ぬいぐるみをなくしてね〜、その代わりにアンタの手助けをしてやろうって、取引さ」

 少し疑問は残りつつも、私の手助けになる。そう言われてしまうと今の私は弱い。

「どう言った取引ですか?」

「簡単さ、確実じゃないがね、五分の可能性でお姉さんの記憶を呼び覚ますことができる。勿論、戻ってこないとしても呼び覚ます刺激には作用もする」


 何だこの人、ヤバい人だ。早く出て行って貰おう! やはり、頭のおかしな人だ。


「結構です。お引き取り下さい」

「ハッ! 強がってる余裕はないだろ? 自分がやらかしておいてリスクは負いたくないってのかい?」

「……っ」

「突飛な話だと、受け流しつつ取引すれば良いじゃないか。別に眉唾なら眉唾で影響ないだろ?」

「そ、それはそうですが……でもその、取引って一体?」


 しばし、思案顔のお婆さんは何かを思いつたらしく口角を上げる。


「そうだねぇ……なら、新鮮な芽生え始めの恋心って奴を奪うってのはどうだい?」


 そして、私に向かってそんなことを言い放つ。


〜罠とお婆さんからの取引【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued~

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