表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/51

第45話 母親の思惑【Ep.春山怒留湯編】

 目を付けられた相手が最悪過ぎる! よりにもよって、おばあちゃんが気づいてしまった。

「え、あー……。自分のことでしょうか?」

「アンタなんかにゃ、用はないよ! バッグの中にあったモフモフを見せな!」


 ま、まずい……。それでなくても野生のタヌキが病院にいること自体、ヤバすぎるのにこんな所で披露なんてしたら大騒ぎでは済まされない。


「いや、おばあちゃんの物じゃないし……流石にバッグの中身は見せられない……」


 ボロンッ! と、更に更に最悪なタイミングで尻尾がはみ出す。

「あらまぁ! 見立て通りの素敵なぬいぐるみねー! ちょいとよこしな!」

「お、おばあちゃん!? 俺がお見舞いで渡す用のぬいぐるみなんだよ?」

「アレだろ? あんたらはさっきの春山さんとこの連中なんだろ? なら、安心しな! アタシが責任を持って渡すよ!」

「いやいや、おばあちゃん。そう言う訳には……」

「できないってんなら、ここで死んでお前らを呪ってやろうかぁ!」


 ヒィィ……なんなんだ! このおばあちゃん……怖すぎる。

 し、しかし……こうなってしまってはもう――。


「だ、ダメだ。桐内ここはもう渡すしかない」

「はぁ!? マジで言ってんのか!?」

「つぶあんの演技力に託すしかない。つか、元をたどれば君が悪い」

「ゔっ……し、仕方ない。ここは、つぶあんに賭けるしかないか」


 そう言って、桐内はつぶあんをバッグから取り出す。


「じゃ、じゃあ……このぬいぐるみはすご~く、すご~く! 繊細で大切な物だからね? すぐに、渡しに来てね? おばあちゃん!」

「あいよ、まかせな!」


 びろーんと、全身を脱力させたつぶあんはまさにぬいぐるみそのもの! リアル過ぎるのがネックだが……なんとかなれ!


「何やってんのー! うっちー、やまっち! こっちだよー?」

 あぁ……オマケにコチラ側からもつつかれる始末――。

 すまん、許せよ! つぶあんよ。


「あ、あぁ! ほら、行くぜ大山」

「そ、そうだねー」




 導かれるがままに、春山のお姉さんが居る個室に辿り着く。

 白いカーテンが風を受け、ベットの上はカーテンで包みこまれている。

 淡くかたどられたシルエットはカーテンの裏側で長い髪を(なび)かせている。


 そして、再び風が入り込むと同時に主が姿を見せる――。


「とがねぇー!」

 感極まり、春山が姉の方へ一直線に抱きついていく――。

 それを、お姉さんは……。


 「やめてください! 迷惑です」


 両手で突き放す……。


「え? お姉ちゃん?」

「失礼ですが、学校で面識のある友人だと伺っているのですが……」

「な、何を言ってるの? とがねぇ、私は妹だよ? 血の繋がった妹だよ!」

 そう言って、春山はスマホを鏡代わりに使用して瓜二つな顔だと証明させる。


「あぁ……なるほどですね。いもうと、ですかアナタが私の、そう……」

「も、もっ……しかして、その記憶喪失?」


 絞り出す様な問いかけを見た時……あの時に感じた不自然な言葉が意味を成す。

 『刺激になる』って、こう言うことだったのだ……。

 記憶を失った、姉の記憶を刺激する。


 そう言うことだったのか――。


「みたいね。私、あなた達のことなんて知らないもの」


「そんなぁ……一緒に釣りした仲じゃんかー?」

「なにそれ」

 努めて、夏川は明るく質問する。

 だが――。

 黒く淀んだ瞳は全てを無に還す。そんな勢いさえ、みせてくる。


「そんな()()本当に私がやったの?」

「おまっ――」

「やめろ、桐内」


 な、なんだこの地獄みたいな空間は? そもそも、春山の母親は何故! 妹の存在を伝えていないんだよ!

 記憶喪失? だから僕達を利用して取り戻すことに賭けたのか。そして、自分の娘ですら餌に……。


 必死なのは分かる、分かるが――。


 ガラララッ――!


 突然、スライドドアが勢い良く開かれる。


「こ、今度はなんだ!?」

「あっ――」

 見るとそこには、真っ青な表情をしたおばあさんが姿を現した。

「ぬいぐるみがああああああああぁ! ないんじゃああああああああああ!」


 刹那――。

 僕と桐内はアイコンタクトする。


「桐内、探しに行った方がいい」

「わ、分かった。おばあちゃん! 何処でなくしたんですか?」


「ああああああああああっ! ああああぁ!」

 まるで、会話にならない。

「何なの!? 今度は誰よ!」

「あわあわ! なんか、大変なことになってない!?」

「と、とりあえず。桐内、ここは大丈夫だから行った方がいいよ」

「あ、あぁ。サンキュな冬梅!」


 と、言って桐内はお婆さんの脇をすり抜ける。

 「いやじゃあああ! わたしはなにも悪いことはしてないんじゃあああ!」

 尚も叫び続けるお婆さん。

「いや……嫌ぁ! うるさい! いい加減にしてぇ!」

「お、落ち着いて! とがねぇってば!」

「ヤバイよ! なんか、コレ! どどど、どうすんのさ!」

「あ、慌てないで! 何か……あー! 何かを考えないと! 大山、どうすればいい? わ、私もう……キャパオーバーだよ」

「あっ……えっと」


 いや、僕なんてとっくに限界だ。


 片や頭を抱える双子の姉、片や年甲斐なく叫び散らかすお婆さん。

 僕なんかに、なにもできるわけない! 


「こら! 柏木さん!? アナタのお部屋はあっち!」

「い、嫌じゃああああああああ! 嫌ああああああぁ……」

「春山さん、ごめんなさいねー」


 と、言ってサラッとお婆さんは看護師さんに回収された。

 が、その後はその後でシーン……と、静まりかえる。


「ごめん、あーし! 席外すね」

「うぇ? ぬるちゃん!? 何処行くのさ、あたしも付いてく!」

 また、二人脱落。

 いや、俺と冬梅だけ残されても……。

「ごめんなさい。春山湯柑芽さん私たちも一旦、仕切り直します。行きましょうか、大山」

「あ、あぁ」

「そうしてください」


 こうして、逃げる様な形で退出する。


 〜母親の思惑【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ