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第43話 どうしようもない気持ち【Ep.春山怒留湯編】

「ちゃんと、話そうよ。自分の寂しさとか、胸の内とかの全部まるっと」

「ううん、いい。私なんかより長く生きてる親の経験は正しい道に導いてくれてたんだって知れたし」

「だからって、だからって……」


 なんだコレ……なんだよ! 僕の内側は今にも張り裂けそうなのにっ! なんでだよ、どうして僕は今のコレを! この塊を吐き出せないんだよ! 怒りでもなんでもないこの感情を、どうして表現できないんだよ!


 だったら、もう――。


「なに? 全部間違ってたのは私だし、私がちゃんとすればいいだけでしょ」

「そうじゃないろぉおおお! もっと、春山はッ! 変わった自分だけじゃなくて! もっと変わろうとしてる自分を信じたって良いだろぉおおお!」


 あぁ! もう、なんで怒りみたいな表現しかできないんだよ! 畜生、不便すぎるんだよ!


「な、なんで……あんたが怒んのよ! びっくりする……でしょ!」

 継続して、春山は後ろを向いたまま涙声でそんなことを言う。

「辛いんだろっ! だったらありのままをぶつけろよおお!」

「う、うるさい! 辛くなんてない、これで良いって言ってるでしょ!」


 じゃあ、なんで僕から目を逸らし続けるんだよ! なんで、泣いてんだよ!


「なら、僕の目を見てはっきり言えよ! できんだろ!」

「嫌だ!」


 ふざけんなよ! 嘘ばっかりじゃないか! 何もかも本音を押し込んで、誤魔化して今までの自分の在り方さえ否定しやがって!

 ええい! そこまで頑固ならこっちだって実力行使で対抗してやる。

 勢いのまま、今にも折れてしまいそうな春山の細い腕を掴み――。

「言うこと聞くんだろ! 拒否すんなよ!」

「ばかぁああああ! そもそも親じゃないでしょう!」


 あぁ、我ながらバカだと思った――。


 表現のしようがない、春山は歯を食いしばりながらそれでも一生懸命に僕に最大限の抗議をしていたんだ。


「ごめんなさい。春山自身が一番、どうしようもないってことに今更気付いたよ」


 正直、めちゃくちゃ怒られるだろうと覚悟していた。


 ぐちゃぐちゃな感情で自分でもどうにもならなくて苦しんでいる春山の顔を無理やり向かせてしまったのだから。


「ごめんね、ごめんね! こんなことに巻き込んじゃって……本当にごめんなさい」


 そう言って、頬から涙を静かに零しながら春山怒留湯は――。


 僕みたいな最低な奴にさえ、深々と頭を下げたのだった……。


「な、なにもっ! 謝ることなんてしていない」

「ありがとう、今日はわざわざ来てくれて」


 言いたいことは沢山ある……あるはずなのに!

 僕にはこれ以上、私を甘やかさないで! と、春山がそんな風に壁を作っている様に感じたんだ。


「別に、僕はなにもしてないから。また何かできることがあれば……」

「大丈夫! また明日、学校でね!」


 そう言って、振り返ることなく僕の前を通り過ぎて行く……。


 僕は――。


 二度は同じ様に、春山の腕を掴むことは……。


 できなかった。


「あぁ……まぁ、こんなもんだよな。現実なんて」

 僕と春山でも、全てを話すことができないのと同じ様に、僕が自分の親と和解できていないのと同じ様に何かを理解し合うって言うのは難しい。


「ミスったな……明日の作戦すら上手くいかないかもしれないな」


 冬梅に手伝って貰い、決行する筈だった刷り込み作戦。


 しかし、今となっては僕と春山の関係が少しだけ気まずくなったのは間違いなくて。


 ブラックコーヒーを片手にもう片方の手ではスマホのサインを開いたまま当人にメッセージを送るかどうするか、決めあぐねていた。

「いや、バカかよ。なんて説明すんだよ」

 そう、確かにこの出来事を冬梅に僕はどうやって説明すればいいんだよ。

 ならばもう、簡潔に作戦自体を中止することだけを伝えよう。


【冬梅、今回の作戦は中止しよう】

 

 と、冬梅宛てにメッセージだけを残してポケットに滑り込ませようと……。


 した時、スマホが振動する。

「まじか」

 恐る恐る、スマホの画面を付ける。

【先走ったでしょ、なんかやらかしたね?】

【病院に呼ばれて、それで思わず】

【はぁ、事情は分かったよ。取り敢えずしばらく様子見だけだからね?】

【はい】

【自分の考えを言った結果は、どうだった?】

【春山自身が一番、苦しんでるって気付いた】

【何を今更って感じではあるけど】

 ハハ……そうだな。その通りだ、当事者が悩んでいない訳がないしそれを第三者がどうこう言った所で焼け石に水だ。

【なんか、迷惑かけちゃった。ごめんね、手伝ってくれる予定だったのに】

【別に、私に実害なんてないし】


 にしてもこの先、どうなってしまうんだろうか……。親の影響からそもそも部活すらやるな! なんて、ことになったらそれこそ部活自体の存続すら危ぶまれる。


【春山が部活を辞めることに発展したらどうしよう】

【今は余計なことを考えない。現状を、流れに身を任せてみるしかないよ】


 今は、それが良いか……。これ以上、僕が春山の感情を荒らす訳にも行かないし。何よりもせっかく友達になれた存在を、自分から傷つける様な行為はこれ以上したくない。


 とにかく、現状は待ちの姿勢で行く。そう、自分の中で言い聞かせて残り半分くらいになったコーヒーを一気に喉に流し込み、病院を後にした。


~どうしようもない気持ち【Ep.春山怒留湯編】 END To be continued~

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